表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月と二人の勇者  作者: あると


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第二章 街の影


初級魔法で身体強化ができるようになったおかげで、街の城壁がすぐに見えてきた。


「……やっと着いた」


胸を撫で下ろし、ほっと息を吐く。

門へ向かう人々が列を作っており、ルミナもその最後尾に並んだ。


だが──


「おい、止まれ」


門番のひとりがルミナの前に立ちはだかった。

その目は、まるで汚物を見るような冷たい視線。


ルミナが戸惑っていると、門番は無言で手を突き出した。


びくっと肩が跳ねる。

その手が何を求めているのか、すぐには理解できなかった。


「……え?」


「通行料だよ。さっさと出せ」


怒鳴られ、ルミナは周りを見た。

誰も払っていない。


言おうと口を開いた瞬間──


「なんだぁ?」


さらに大きな声が飛び、喉がひゅっと縮む。


震える手で、ルビーからもらった袋から金貨を取り出し、差し出す。


門番はニヤリと笑い、そのままポケットにしまった。


「よし、行けよ。いつまで突っ立ってんだ」


「……お、お釣りは……?」


その言葉に、門番の顔が一瞬で怒りに染まった。


「ふざけんな!」


ドンッ!


強く突き飛ばされ、ルミナは地面に手をついた。

痛みよりも、胸の奥がずきりと痛んだ。


(ルビーからもらった……大事なお金なのに……)


悔しさと悲しさが混ざり、喉が熱くなる。


街に入ると、空気が変わった。


ルミナが歩くたびに、人々が道を開ける。

逃げるように、消えるように。


「なんで邪神の使者が……」

「見ちゃダメよ、あれは……」


親が子どもを抱き寄せる声が聞こえた。


(……邪神の使者? 私が?)


胸がざわつき、息が苦しくなる。


杖を買わないと、と呟きながら辺りを見回すが──

人々はルミナを見ると、蜘蛛の子を散らすように消えていく。


「なんなのよ……」


──涙がこぼれそうになるのを、ルミナは必死にこらえた。


上を向くと、

リビー、アリス、サンの顔が脳裏に浮かぶ。


(……あの二人、杖から魔法を放ってたよね)


ふと、淡い希望が胸に灯る。


(もしかしたら……杖があれば、わたしも中級魔法が……)


その小さな希望だけを頼りに、

ルミナは王都の通りを歩き、武器屋を探した。


やがて、

ほうきに乗った魔法使いの看板が目に入る。


「……ここ、かな」


恐る恐る扉を開けると──


「いらっしゃいませ!」


幼い声が響いた。


声の方を見ると、

カウンターの隙間から、六歳ほどの女の子が顔を出していた。


「杖が……欲しいの」


ルミナが言うと、

女の子はにこっと笑った。


「今ね、ママは買い物行ってるの。

 座って待っててください!」


ルミナは椅子に腰掛ける。


すると女の子は絵本を抱えてきて、

ルミナに差し出した。


「読んで!」


「いいわよ」


本を受け取った瞬間──

女の子はルミナの膝の上に、ちょこんと座った。


(……かわいい)


表紙には、

光に包まれた“女神様”の絵。


ルミナはページを開き、読み始めた。


『昔々、女神様がこの世界を作りました。

 女神様は自分と同じ姿の“人間”を作り、

 次に“エルフ”を作りました。

 みんな仲良く、平和に暮らしていました。』


ページをめくる。


『そこへ邪神が現れ、

 美しい世界を奪うために“魔族・獣人・ダークエルフ”を作りました。

 しかし人間たちの力で邪神は追い返されました。』


ルミナの指が止まる。


『邪神は諦めず“魔王”を作り、再び世界を奪おうとしました。

 女神様は“勇者”を作り、

 魔族・獣人・ダークエルフを滅ぼしました。

 そして世界は平和になりました。

 めでたしめでたし。』


ルミナの顔から血の気が引いた。


「……なに、これ……」


絵本に描かれた“ダークエルフ”は、

黒いゴブリンのような、醜い怪物だった。


(わたし……こんな存在だと思われてるの……?)


その時──


ガチャッ。


扉が開き、女の子の母親が入ってきた。


「ただいま──」


娘がルミナの膝に座っているのを見た瞬間、

母親の顔色が変わった。


「……っ!」


急ぎ足で駆け寄り、

娘を奪うように引きはがす。


そして──


パァンッ!!


ルミナの頬に、強烈な平手打ちが飛んだ。


「うちの子に触らないで!!」


「わ、わたし……」


言いかけたルミナに、

母親は近くの灰皿を掴み、構えた。


「出ていけ!!」


震える指で扉を指差す。


ルミナはフラフラと立ち上がり、

外へ出た。


扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


しばらく立ち尽くし、

さっきの絵本の内容が頭の中で何度も反芻される。


(……わたしは……邪神が作ったものなの……)


空を見上げる。


青いはずの空が、

どこか遠く、冷たく見えた。


「とりあえず……宿を探さないと」


気持ちを立て直し、街を歩き回る。


やがて一軒の宿を見つけ、扉を開けた。


賑やかだった室内が、一瞬で静まり返る。


全員の視線がルミナに突き刺さる。

門番と同じ、汚物を見るような目。


ルミナは唇を噛み、受付へ向かった。


「すみません、部屋を──」


「満室だ」


言葉を最後まで言わせてもらえなかった。


「どんな部屋でも……」


「いいから出てけ!」


怒鳴られた瞬間、後ろから肩を掴まれた。


「邪魔だ」


横に押し倒され、ルミナはよろめく。


キョトンと男を見上げると、男は受付に向かって言った。


「一名」


受付は即座に鍵を渡した。


その光景を見て、胸がぎゅっと締めつけられる。


(……私だけ、拒まれた)


男は鍵を受け取り、机の紙に何かを書き込むと、

いやらしい笑みを浮かべてルミナの顔を覗き込んだ。


「ここなら──あんたでも泊まれるかもな」


紙を押しつけて去っていく。


震える手で紙を開くと──

そこには娼館の住所が書かれていた。


(……あの男……)


怒りも悲しみも、全部が混ざって何も考えられなくなる。


「……はは……」


意味もなく笑いが漏れた。

自分でも何をしているのかわからない。


気づけば、街をふらふらと彷徨っていた。


気がつくと、中央の噴水に腰を下ろしていた。


水面に映る自分の顔は、

泣きそうで、弱くて、知らない誰かみたいだった。


そのとき──

ルビーの言葉が蘇る。


──辛いことがあっても負けないで。

  何があろうと、私たちはルミナの味方だから。


その言葉の意味が、今になって胸に刺さる。


「なんなのよ……私が……何をしたっていうのよ……!」


叫んだ瞬間、堰が切れた。


大粒の涙が次々と溢れ、

ルミナは噴水の前で泣き崩れた。


誰も近づかない広場で、

ただひとり、声を殺して泣き続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ