エピローグ
ルミナがゆっくりと目を開けると、
そこは──転生したあの日と同じ、静かな森だった。
風の匂いも、木々のざわめきも、
すべてが“最初の日”と同じなのに、
胸の奥だけがまったく違っていた。
「……戻ってきたんだ」
立ち上がった瞬間、
茂みの奥から矢が飛んできた。
だがルミナは、
軽く身体を傾けただけでそれを避ける。
「前の私とは違うのよ」
指先に魔力を集め、
炎の矢を放つと──
ゴブリンは煙のように消えた。
力を誇るでもなく、
ただ静かに、ルミナは息を吐いた。
「……みんな、どうしてるかしら」
そう呟き、王都へ向かって歩き出す。
王都の門前には長い行列ができていた。
ルミナは緊張しながら最後尾に並ぶ。
自分の番が近づくと、
門番が突然声を上げた。
「──ちょっと待て!」
ルミナはビクッと肩を震わせる。
胸に嫌な予感がよぎった。
だが門番はルミナの前にしゃがみ込み、
地面に落ちていたハンカチを拾い上げると、
前にいた女の子へ優しく渡した。
「落としたぞ」
ルミナは呆然と立ち尽くす。
「……何をしている。入りなさい」
門番はそれだけ言い、
ルミナは何事もなく街へ入れた。
「……なんで……?」
前とは違う。
あの冷たい視線も、あの拒絶もない。
街を歩くと、
差別のような声がまったくないわけではない。
けれど──
風の音にかき消されるほど小さかった。
人々の表情は柔らかく、
街の空気はどこか明るい。
ルミナは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
中心の噴水に腰を下ろすと、
小さな女の子が近づいてきた。
「お姉ちゃん、絵本読んで!」
本を差し出し、
ルミナの横にちょこんと座る。
ルミナは本を開き──息を呑んだ。
そこには、
すべての種族が互いを助け合い、
平和に暮らす世界 が描かれていた。
「……え……?」
あの絵本とは違う。
あの残酷な歴史も、憎しみもない。
ルミナの目から涙が溢れた。
「アリスが……
王様が……
スフィアが……
アンが……
みんなが……変えてくれたんだ……」
涙が止まらない。
女の子が心配そうに覗き込む。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
ルミナは涙を拭い、微笑んだ。
「……嬉しいことがあったのよ」
本を返すと、
女の子は「ありがとう!」と笑って走っていった。
ルミナは小さく呟く。
「……ありがとう……」
涙はまだ止まらなかった。
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✦ 再会
「…………」
「……、……、お姉さん。おねーさーん」
遠くから声がして、
ルミナは涙で濡れた顔をゆっくり上げた。
そこに立っていたのは──
青い少女、アン。
アンはルミナの前にしゃがみ込み、
優しく微笑んだ。
「どうしたの? こんなところで泣いて」
ルミナは震える声で答える。
「……嬉しいことがあったのよ。とても……」
アンはルミナの手を取り、
いたずらっぽく笑った。
「女の子はね、綺麗な格好をしなきゃ。
──来て!」
ルミナは引っ張られ、
きらびやかな街灯が輝く通りへ走り出す。
涙でにじむ光が、
まるで星のように瞬いて見えた。




