第一章 森での目覚め3
涙が落ち着き、ようやく呼吸が整ってきたころ。
「……大丈夫か?」
金髪の男が、落ち着いた声で問いかけてきた。
その手には、まだ淡い光を宿した大剣が握られている。
光の残滓が刃からふわりと舞い、闇に溶けていった。
「俺はサン。冒険者だ」
低く、安心させるような声だった。
サンが軽く顎を動かすと、少し離れた場所に二つの影が見えた。
ひとりは黒い大きな帽子をかぶった少女。
ローブの裾が揺れ、指先には魔力の残光が淡く漂っている。
「ルビー。魔導師よ」
帽子を押さえながら、ルビーは軽く微笑んだ。
その笑みは自信に満ちていて、さっきの光線の威力を思い出させる。
その隣には、小柄な修道服の少女が立っていた。
胸の前で杖を抱え、こちらを心配そうに見つめている。
「僕はアリス!」
サンの紹介を待たず、元気よく手を挙げた。
「こいつはヒーラーなんだ」
サンが苦笑しながらアリスの頭を軽く撫でる。
三人の視線が自分に向けられ、月は言葉を探した。
「わ、私は……」
“佐藤月”と言おうとした瞬間、胸の奥がざわついた。
喉が詰まり、口が勝手に別の名前を紡ぐ。
「……ルミナ。私は、ルミナ」
三人が同時に目を瞬かせる。
ルミナ──それは、月がゲームで使っていたキャラ名だった。
胸の奥がざわりと揺れ、何かが“噛み合ってしまった”ような感覚が走る。
サンが眉を寄せる。
「ルミナ。なんでこんな森に一人でいたんだ?」
「わからないの……気づいたら、ここにいて……」
声が震え、胸が締めつけられる。
そのとき、ルビーがすっと前に出てきた。
「ねぇ、あなたエルフでしょ?」
「え、ええ……たぶん……」
「やっぱり。魔力がすごく綺麗だもの。ねぇ、魔法見せてよ」
ルビーが期待に満ちた瞳で覗き込んでくる。
その目は純粋で、好奇心の塊だった。
「む、無理……やり方がわからないの」
ルミナが首を振ると、ルビーは「あー……」と空を見上げて考え込んだ。
「そっか。記憶がないんだもんね」
そして突然、サンの方を向いて言い放つ。
「サン、私このパーティー抜けるわ」
「はぁ!? なんでだよ!」
サンが素で驚き、声が裏返る。
「この子に魔力の使い方を教えるの。だから抜ける」
「抜けるって言う前に説明しろよ……心臓に悪い……」
サンは胸を押さえながらため息をついた。
ルミナは戸惑いながらルビーに尋ねた。
「なんで……そんなに良くしてくれるの?」
ルビーはにっこり笑い、片目をつむってウインクした。
「簡単よ。あなたの魔法が見たいだけ」
そしてサンを指差す。
「それに、この人──勇者だから」
「おい、言うな……」
サンは顔を赤くしてそっぽを向いた。
その反応は照れというより、“重さ”を隠すようにも見えた。
「僕も教えるよ!」
アリスが元気よく手を挙げる。
胸が熱くなり、ルミナは何度も何度も頭を下げた。
「ありがとう……ありがとう……」
涙がまた溢れ、ルミナはその場に崩れ落ちた。
今度の涙は、恐怖ではなく──
救われた安堵と、誰かに受け入れられた温かさからだった。




