第二章 街の影4
どれくらい泣いていたのか、もうわからなかった。
涙が枯れたあと、ルミナはただ空をぼんやりと見上げていた。
胸の奥が空っぽで、何も感じない。
風の音すら遠く、世界が自分から離れていくようだった。
その時──
「……こっち……こっち……」
小さな声が聞こえた。
ルミナははっとして周囲を見渡す。
だが、誰もいない。
「はやく……はやく……」
今度は少し近い。
風に混じるような、透明で、どこか懐かしい声。
(……誰……?)
「だれ……?」と問いかけると──
「ふふ……」
子どもが笑うような、柔らかい声が返ってきた。
不思議と怖くはなかった。
むしろ、胸の奥にぽつりと灯りがともるような感覚。
(……他に、探す方法なんて……ない……)
少女を助けたい。
でも何も知らない。
何もできない。
その絶望の中で、
ルミナはその声にすがるように立ち上がった。
声のする方へ走る。
辿り着いたのは、街外れの古びた修道院だった。
壁はひび割れ、蔦が絡まり、
まるで何十年も放置されたような雰囲気。
昼間なのに薄暗く、
風が吹くたびに木材が軋む音が響く。
(……ここ……?)
門の前には、杖を持った修道服の男が二人立っていた。
「こっち……こっち……」
声は修道院の奥から聞こえる。
ルミナの胸の奥がざわつく。
怖い。
でも──行かなきゃ。
勇気を振り絞り、男たちに声をかけようと一歩踏み出した。
「すみ──」
男たちはルミナを見るなり、目を見開いた。
「ま、魔族……! 邪神の使いが……!」
杖を構え、光が集まる。
「えっ──」
放たれた光がルミナの肩をかすめた。
熱い痛みが走り、血が滲む。
「や、やめて……!」
叫ぶが、もう一人の男が怒鳴った。
「黙れ! この街に災いを呼ぶ気か!」
再び杖に光が集まる。
(……また……!
また私だけ……!
なんで……!)
胸の奥で何かが弾けた。
ルミナは歯を食いしばり、
震える手を前に突き出した。
「やめろって言ってるの……!!」
空気が震え、圧縮され──
二人の男へ向かって一気に解き放たれる。
「ぐっ……!」
衝撃で男たちは吹き飛び、地面に倒れた。
完全に気絶している。
ルミナは自分の手を見つめた。
手が震えている。
呼吸が荒い。
その時──
「はやく……はやく……」
修道院の扉の奥から、あの声が呼んだ。
今度は、はっきりと。
まるで、ルミナを待っているかのように。
ルミナは傷ついた肩を押さえながら、
ゆっくりと扉の前に立った。
扉の向こうは静かで、
風の音すら聞こえない。
心臓の鼓動だけが、やけに大きく響く。
深呼吸を一つ。
(……あの子を……助けなきゃ……)
覚悟を決めた顔で、
ルミナは扉を押し開けた




