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「理想の式」に、誰の“理想”を入れるか会議

 「この部分、“初めて会った場所を再現”ってあるけど……小学校の教室、森に建てるつもり?」


「うん。“木造校舎風チャペル”ってテーマで」


「ないない。予算も構造も問題ありすぎ。というか、いくらなんでもノスタルジーに寄りすぎ」


 白熱する“式設計会議”。

 私とアルフォンスは、今や完全に「新郎新婦というより、共同プロジェクトの企画担当」と化していた。


 ──ただし、会話の温度は、ほぼ喧嘩。


「じゃあ、どこなら再現しても許されるの?」


「場所じゃない。“思い出”の本質でしょ。教室の机より、あのときあなたが落とした筆箱の音のほうが印象に残ってる」


「そこ! それだよ! そういう細部を大事にしたいの!」


「でも、落とした筆箱が床を転がる音を再現するって、どんな演出よ……?」


「スピーカー下仕込みで効果音出すとか」


「それ、演劇」


 ふたりで資料を挟んで何十回目かのラリーを続けながら、私はふと思う。


(どうして私は、こんなにも真剣に、この式の演出について議論してるんだろう)


 相手が真剣だから。

 私もプロだから。

 そしてたぶん──少しだけ、楽しいから。


「リリィさん。…あなたが、どんな式を“よし”と思えるか、少しずつでいいから教えてほしい」


 アルフォンスの声が、少しだけ静かになる。


「僕は、自分の“理想の花嫁像”を押しつけたくて式を予約したわけじゃない。

 ただ、君が“自分の式なんて考えたことない”って言ったのが、悔しかったんだ。

 だって君は、誰よりも多くの人の“理想”を叶えてきた人だから」


「……」


「だったら、君の理想も、叶えられていいじゃないかって」


 その言葉に、私はしばらく言葉を返せなかった。

 ずっと“プロ”でいることで、自分の“夢”は後回しにしてきた。


 でも、誰かがこうして“君にも夢を見る権利がある”って言ってくれると──不思議と、涙が出そうになる。


「……だったら、あなたにも質問させて。

 ──アルフォンス、あなたはどんな式がしたい?」


 彼は少し驚いたような顔をしたあと、ゆっくりと答えた。


「うーん、式は……“ちゃんと、目が合う式”がいいな。

 誰に見せるでもなくて。君と僕だけが見てる式」


 まっすぐすぎる言葉に、私は顔を伏せた。


「それって、ずるい」


「なんで?」


「……こっちが照れてるとき、余裕な顔するの、反則」


「でも、ちょっと顔赤いよ」


「うるさい」


 ──こうして、言葉をぶつけ合うたび、

 “誰かの理想”じゃなく、“ふたりの理想”に、少しずつ近づいている気がした。

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