「誰かの理想」を、もう一度見に行く
休日。私はひとり、郊外の式場に足を運んでいた。
ここは3年前、私が担当した式場──“木漏れ日の森チャペル”。
シンプルだけど温かくて、森の中にある隠れ家のような雰囲気が、いまでも記憶に残っている。
実はこの式、当初は予算不足で難航したが、新郎新婦と徹底的に話し合い、“無理なく、でも特別な一日”を実現できた、いわば“心で作った式”だった。
「……ようこそ。あの時のプランナーさん、ですよね?」
声をかけてきたのは、新婦だったミナさん。今はここでスタッフとして働いているらしい。
「わ、気づいてくれて嬉しい……!」
「忘れるわけないです。私たちの結婚式、リリィさんがいなきゃ成立してませんでしたから!」
そう言って彼女は、小さな写真立てを見せてくれた。
そこには、三年前の式で笑顔を交わす新郎新婦と、その隅に映り込んだ私の姿があった。
「この写真、偶然撮れてたんです。私たちの“裏方の主役”として、大事にしてるんですよ」
言葉に、胸が熱くなった。
私はずっと、“人の理想”ばかり追ってきたつもりだった。
だけど、こうして──“それを叶えることで、自分も幸せだった”ということを、少しずつ思い出していく。
「ミナさん、質問してもいいですか?」
「はい?」
「自分の“理想の結婚式”って、どうやって決めました?」
彼女は少し考えた後、まっすぐな瞳で答えた。
「“誰となら、どんな場所でも特別になるか”を考えたんです。場所や演出より、“その人と過ごす一日”を、ちゃんと想像してみたんですよ」
──誰となら、どんな場所でも。
その言葉が、私の中にすとんと落ちた。
(アルフォンス……)
思い浮かべた瞬間、心の奥に、どこか甘くてくすぐったい、でも少し怖い感情がじわりと湧き上がった。
「自分の式って、“正解”じゃなくて、“一番好きな間違い”でもいいのかもしれないですね」
「え、それ名言……!」
ミナさんが笑ってくれる。
私は、その一言を胸に抱いて、“自分の式場設計図”を見直す決意をした。
もしかしたらそこには──「誰かの思い出」じゃなくて、「私の未来」が描かれるかもしれないから。