“花嫁候補”が多すぎる件について。
翌朝。式場スタッフの控室に入った瞬間、空気がざわついた。
「おはようございます……って、何?」
私の挨拶が届くよりも先に、同僚・アリサが目をキラッキラさせて飛び込んできた。
「リリィさん! 昨日の予約、マジで“本人指名”だったんですね!?」
「……見たの?」
「予約システムのログイン記録までしっかり! というか、他部署まで噂になってるし」
やめてくれ。なぜ私がこの職場でプロとして生きてこられたかって、個人の恋バナを一切出さない硬派さのおかげだったのに。
「でさ! リリィさん、あのアルフォンス様とどういう関係なんですか!?
っていうか、今さら言いますけど──めちゃくちゃイケメンですよね? もうちょっと早く紹介してくれてもよかったのに!」
「紹介するほどの関係じゃ……」
「でも昨日、“新婦はあなたです”って言われたって聞きましたよ。ねえそれプロポーズでは?」
──ダメだ、この情報共有力。
恋より早く、社内に拡散されるこのスピード感。
「とにかく、冷静に対応するから。プロとして」
「プロが“頬染めて資料読んでた”の、目撃されてましたけど」
「どこの誰だ。後でスケジュールに“説教枠”ねじ込む」
このままではいけない。私は冷静を取り戻すため、アルフォンスに関する情報をまとめることにした。
社内システムから予約の経緯を確認。
彼が提出した申請書類、支払いの記録、式場の選定理由──すべて正式な手続きだった。
しかも、「他のプランナーではなく、彼女に直接担当してもらいたい」との記載まである。
──完璧な手順。言い逃れが、できない。
さらに調べを進めると、彼が複数のブライダルフェアに匿名で足を運んでいた痕跡が見つかった。
うちの式場だけじゃない。全国各地の式場を視察して、最終的に“私の設計した場所”を選んだのだ。
「……ガチじゃん」
この熱意、怖いを通り越して、もはや“尊敬”の域に達している。
しかし。
「リリィさーん、今朝また予約が入りましたー」
「えっ?」
「はい、同じ日程で“キャンセル待ち”登録。しかも、“新郎枠”で。“新婦:リリィ・アルバ=リュミエール”って」
──なんだこれは。
「名前は?」
「ジーク・ヴァレンティノ様です。“花嫁様に、過去のお返しをするため”ってメッセージ付きです!」
は?
なんかもう、恋愛バトルロワイヤル始まりそうなんですけど。