第八章:受け継がれし剣、そして一閃
敵将ユリウスが剣を構えた瞬間、透の脳裏に、遠い記憶がよみがえった。
――回想:かつての世界、夕暮れの道場
「いいか、透。剣は“殺すため”にあるんじゃない。“守るため”にあるんだ」
そう言って笑ったのは、父だった。
母もまた、黙って木刀を構え、透の構えを直してくれた。
神谷家に代々伝わる剣術があった――それは、現代のスポーツの剣道や
魅せるための剣術とは異なる、実戦のための剣術だった。
だが、両親はその技を「命を奪わずに制する術」として透に教えた。
そして、あの日。
事故で両親を失った透は、剣を封じた。
もう、守る相手も、教えてくれる人もいないと思っていたから。
だが今、目の前には守るべきものがある。
リリスが、魔族たちが、この世界が――俺を必要としている。
「……俺の剣は、まだ終わってなかったんだな」
透は大剣の形状を変化させる。
魔力が収束し、刃は細く、長く、しなやかに――太刀のような姿へと変わる。
ユリウスが動くよりも早く、透の身体が風のように駆けた。
「――“閃撃・一ノ型”」
その一撃は、まるで風が通り過ぎたかのようだった。
次の瞬間、ユリウスの剣が折れ、彼の鎧には横一線に切れ込みが入り、地面に膝をついていた。
だが、透の刃はユリウスの肉体の手前で止まっていた。
ユリウスは目を見開き、そして苦々しく呟いた。
「……貴様、何故とどめを刺さない……」
透は剣を収め、静かに答えた。
「俺は神谷透。――この世界の“理”に抗う者だ、殺戮者じゃない、お前たちと違って、
ただ、俺の守ろうとするものを傷つけようとするなら、次は容赦しない」
剣を収めた透は、静かにユリウスに向き直った。
「兵を引け。そして二度と攻めてくるな次は――その命をもらうことになる」
その言葉に、ユリウスはしばらく沈黙していたが、やがて剣を納め、手を挙げ号令をかけた。
「全軍、撤退」
白銀の軍勢が静かに引いていく。
その背中を、透は追わなかった。ただ、風の吹く中に立ち尽くしていた。