第五章:静寂の夜、揺れる心
塔から戻ると、リリスは透を再びあの豪奢な寝室へと案内した。
「今日は、もう休みましょう。契約の儀も済んだし、あなたの魂もまだこの世界に安定していないはず」
「……ああ。正直、頭の理解すら、まだ追いついてない」
透はベッドの端に腰を下ろし、深く息を吐いた。異世界、魔族、契約者、そして自分の力――すべてが現実とは思えないのに、肌に感じる空気の重さだけは確かだった。
リリスは静かにカーテンを閉め、部屋の灯りを落とす。月明かりだけが、淡く二人を照らしていた。
「ねえ、透」
「ん?」
「……あなた、本当に不思議な人ね。普通なら、私のような“魔王”を前にして、もっと怯えるはずなのに」
「怯える理由がない。君は俺を殺さなかったし、ただ輪廻転生してリセットされる俺を「神谷 透」を助けてくれた。……それに、君の目は、誰かを傷つけようとする目じゃなかった」
リリスは驚いたように目を見開き、そしてふっと笑った。
「……そんなふうに思われていたのはうれしいわ」
その笑顔は、どこか寂しげで、けれど温かかった。
透は少しだけ視線を逸らす。心の奥が、わずかに波打つのを感じた。
「……なあ、リリス」
「なに?」
「君は、俺を“契約者”として見てるんだよな。でも……それだけじゃない気がする。違うか?」
リリスは少しだけ黙り、そしてベッドの反対側に腰を下ろした。
「……まだ、わからない。でも、あなたと話していると、心が少しだけ軽くなるの。たぶん、それが“始まり”なんだと思う」
その言葉に、透は小さく頷いた。
夜は静かに更けていく。
まだ恋ではない。けれど、確かに何かが、二人の間に芽生え始めていた。
描き貯めを最初は出してます、
更新頻度は数日ごとには更新したいな