第一章:魔王との契約
目を覚ましたとき、そこはまるで王族の寝室のような豪奢な部屋だった。
天蓋付きのベッド、金糸で織られたカーテン、壁には見たこともない紋章が刻まれている。だが、
それ以上に目を引いたのは――ベッドの傍らに座る、あの少女の姿だった。
「……夢じゃ、なかったのか」
金髪の少女、リリス・ティナは静かに微笑んだ。
「おはよう、契約者様。ようこそ、現実へ」
その声はどこか哀しげで、けれど優しかった。
透はゆっくりと身を起こし、彼女を見つめた。昨夜の夢と思われる出来事――契約、そして「この世界を滅ぼす」という言葉が脳裏をよぎる。
「……説明してくれ。ここはどこで、君は何者なんだ?」
リリスは一度目を伏せ、そして語り始めた。
「この世界、《エンドフェルド》は、かつて神々に見守られし地、エンドフェルドは現在の見捨てられた地の名前。
世界を回していた七つの王国は滅び、今は“聖教連盟”と“魔族の残党”が争いを続けている世界よ」
「君は……魔族なのか?」
「ええ。私は“最後の魔王”、でも、もう戦う力は残っていないけど...
だからあなたを呼んだの。異界の魂を持つ者――“契約者”として」
リリスの瞳が、まっすぐに透を射抜く。
「この世界は、もうすぐ終わる。聖教連盟が“神の火”を解放すれば、すべてが灰になる。
私はそれを止めたい。でも……それには、あなたの力が必要なの」
「俺の……力?」
「あなたの魂の輝きは強く、この世界の理からも外れている。だからこそ、“運命を壊す力”を持っていると思った、だからあなたを召喚したの。
透は言葉を失った。自分がそんな大それた存在だとは思えない。
だが、リリスの瞳には偽りがなかった。
そして、彼女はそっと手を差し出した。
「お願い。私と一緒に、この世界を救って。たとえ、それが“滅ぼす”という形でも」
その手を取ることが、どれほどの責任を伴うのか――透にはまだ、知る由もなかった。