48.「新たな目標と決意(エピローグ)」
金貨千六百枚で、〝元いた世界と自由に行き来出来る〟ようになる、か。
「今回の〝異世界との映像通信〟の丁度二倍だな……」
実は、一年経ったのを機に、俺はみんなの給料を二倍にしようと思っていた。
低層温泉に比べて割高であるにもかかわらず、天使たちが毎日複数で、高層の温泉に来てくれており、その分売り上げが伸びている。
また、ショプチーさんたち大司教たちも、時々バラバラにやって来ては、割高の〝指名+特別プレイ〟を注文してくれるし。
「あと、お土産の売り上げもあるし」
更には、お土産として、どれだけ瀕死の重傷でも一瞬で治す力を持つ〝世界樹の葉〟を売るようにしたら、これまた結構売れてるし。
ということで、一年前に比べてかなり売り上げが上がっているので、俺も含めて、全従業員の給料を二倍――つまり、月に金貨二十枚にしようと思っていた。
正直、金貨千六百枚はかなり高い……けど、さすがにもう、仲間たちに頼る訳にはいかない。
「それに……正直、胡散臭いんだよな」
今回の〝映像通信〟と同じく、温泉旅館の経営状態を知る世界樹が、「そろそろ給料を二倍に出来るだろうから、仲間たちに協力してもらえば、また一年間で金貨千六百枚を貯めることは可能だろう」と踏んで値段設定しているとしか思えない。
そんなことをしなくても、俺とデレカで頑張って貯めていけば、四年もすれば、貯まるはずだ。
と思っていたら。
『ウインドウ』を覗き込んだ仲間たちが、声を上げた。
「異世界ですかぁ! あたしも行ってみたいですぅ!」
え?
〝時をかける少女〟ならぬ、〝時空を超える幽霊少女〟!?
「異世界に、ちょっぴり小さくて可愛らしいユドル様の分身体が!? これはもう、異世界に行って、小さくてかわゆいユドル様をペロペロするしかないですわあああああ!」
……俺の両親に一番見せてはいけない奴が決定したな。
「異世界の人間たちは、美味いのかのう? 料理してみたいのう」
……人類の敵が今、決定したな。
「ロッカは、旦那さっまの愛人でも良いので、ついて行きたいでっす」
「ニコは、旦那様に、二番目の女でも良いから愛して欲しいと思うに、至りました」
「ネーモは、旦那さ~まの妾でも、大丈夫で~す」
うん、何も大丈夫じゃない。
デレカがすごい目でにらんでるから、そういうこと言うの、マジでやめてー。
スゥスゥたちは皆、「そのためなら、金は出す」と、口を揃えて言う。
いや、ありがたいけど……
と思っていたら。
「ククスたちにも、協力させて欲しいです!」
「レレムたちは、最近かなり稼げているのだ! 金貨もたくさん持ってるのだ!」
「スララは、魔王さまの御力になりたいのだわ!」
「うん。ガガオも、魔王さまと異世界に行くのら~」
「きゃぴるーん♪ デレカちゃんとの異世界旅行、すっごく楽しみ♪ もちろん、アイジェも協力するよ♪ お金結構持ってるから♪」
四天王たちと、アイジェさんまで協力を申し出てくれた。
今回、仕事の手伝いをお願いした際に、リアたちから業務内容を聞いてもらったんだけど、恐らくその際に、今日のサプライズの内容と、世界樹の『ウインドウ』メニューのことと、仲間で力を合わせて金貨を貯めたことを耳にしたんだろうな。
「マジか……」
予想外の事態に、俺は呆然とした。
まぁ、「ワタシたちの推しの特別プレイを、異世界で味わえるですって?」「甘美な響きですね……クックック……」と、六人揃ってクイッと眼鏡の位置を直しているが、もちろん、何がどうなっても、彼らは絶対に連れて行かない。
「魔王さま! 魔王さまが行くというなら、当然僕もついていきます!」
鼻息が荒いダイーマも、もちろん連れて行かない。
絶対暴走するし……危険過ぎるからな。
とまぁ、それは良いとして。
どうしよう……
俺が俯き、思案していると。
「メグル」
デレカが俺の腕に触れて、顔を覗き込んで来た。
「仲間たちに申し訳ないという貴様の気持ちも分かる。だが、良いではないか。皆、やりたくてやっているのだ。今回サプライズした際も、皆、楽しそうだった。無理して行った者など、誰一人としていない」
「それに、父君と母君に会いに行けるのが、大分早まるだろ?」と言ったデレカは、更に言葉を継いだ。
「あと……正直、二人きりで貴様の両親に会いに行くのは、緊張でどうにかなってしまいそうだったから、仲間たちと一緒に行けるのは、助かる」
まぁ、俺としては、二人きりで両親に挨拶、という、ベタで王道な里帰りの方が良かったんだが……
でも、どこか安堵した様子のデレカの微笑と、仲間たちの笑顔に、俺は心を決めた。
「分かった」
頷いた俺は、まずは、ユドルに確認することにした。
こっち側には、真っ赤な唇のアイツはいないが、現代日本の方には映っていて、どちらもアイツであるとのことだったから、スクリーンに向かって語り掛ける。
「ユドル。〝元いた世界と自由に行き来出来るフリーパス〟だが、俺とデレカの二人だけじゃなくて、みんな一緒でも大丈夫か?」
すると、ユドルは、映像の向こう側で、ため息と共に答えた。
「仕方ねぇドル。てめぇはガキの頃、母の日と父の日とやらに、両親だけじゃなくて、ユドルの絵も描いたからドル。出血大サービスドル! 人数制限は取っ払ってやるドル!」
珍しくデレたな。
どうやら、幼少時代の俺が絵に描いたことが、嬉しかったらしい。
俺は、改めて映像に映っている両親に向かって言葉を紡いだ。
「という訳だからさ。父さん、母さん。里帰りは、大所帯になると思う。しかも、多分、来年には行けると思うよ」
「がははははは! なかなかロックだな!」
「あらあら~。巡ちゃんとデレカちゃんだけじゃなくて、そっちでお世話になっているみんなにも会えるのね~。楽しみだわ~」
そんな俺たちのやり取りを見ていた仲間たちは。
「「「「「わああああああああ!」」」」」
大盛り上がりだった。
「異世界のユドル様! 待っていて下さいまし! すぐにペロペロしに行きますわあああああ!」
「異世界旅行に向けて、余も包丁を研いでおくとしようかのう」
「異世界の温泉も楽しみですぅ! あ、もちろんその時は、メグルさんの身体を乗っ取りますぅ!」
「ロッカは、旦那さっまとの異世界旅行が、楽しみでっす」
「ニコは、旦那様に、異世界でもぎゅーして欲しいと思うに、至りました」
「ネーモは、旦那さ~まと、異世界でも楽しく過ごしたいで~す」
お客さんたちからも、「ハッ! 絶対に叶えなよ!」「おいらも応援してるよ!」「しょうがないから、ファティルもエールを送ってあげるの! 感謝するの!」と、拍手と共に、激励の言葉が投げられる。
俺は、デレカの手を握ると。
「デレカ。これからも、二人で……いや、みんなと一緒に、温泉旅館〝世界樹〟で頑張っていこうな! そして、両親に会いに行こう!」
「ああ! 我らの力を合わせれば、きっと大丈夫だ!」
互いに笑みを浮かべ、決意を新たにしたのだった。
―完―
最後までお読みいただきありがとうございました! お餅ミトコンドリアです。
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