42.「喪失」
不気味な雰囲気の漂う、薄暗い玉座の間にて。
「僕の城へようこそ」
ダイーマさんは、玉座にゆったりと腰掛け、手を優雅に伸ばしてくる。
そして、彼の目の前には、うちの仲間たち七人全員が背中を向けた状態でたたずんでおり、魔王たちを挟んで、ダイーマさんの対面に、俺は立っていた。
問題は。
「魔王! みんな!」
魔王たちが皆、触手によって束縛されていることだ。
「おっと、動いたら殺しちゃうよ?」
「!」
背筋に悪寒が走るほどの〝殺意〟に、彼女たちに駆け寄ろうとしていた俺は、思わず立ち止まる。
さっきはただのナンパ野郎という印象だったのに、今は冷酷な暴君のようだ。
「良い子だ。僕は、聞き分けが良い子は嫌いじゃないよ」
「………………」
マズい。
あれだけ高い戦闘能力を有する魔王、リア、そしてクークが、こうもあっさりと捕まるだなんて!
俺は、この状況を打開するための策を練ろうと、高速で思考を重ねる。
ここは世界樹から遠く離れた場所だと思った方が良いだろう。
だから、世界樹の力は借りられない。
そうだ、スゥスゥは?
彼女なら、触手なんて擦り抜けて、自由に行動できるのでは?
きっと今は、油断させるために、わざと捕まった振りをしているだけなんだ!
ダイーマさんの身体を乗っ取ってもらえば、肉体の主導権は彼女のもの!
そしたら、こっちの勝ちだ!
「スゥ――」
声を上げかけた俺は。
スゥスゥを見て、自分の勘違いにようやく気付いた。
「………………」
どういう訳か、スゥスゥまでもが、触手によってその肉体を束縛されていた。
先程スゥスゥが目を丸くしたのは、セクハラされたと思ったからじゃない。
決して触れることが出来ないはずの霊体の自分に、ごく自然に触れてくる者がいたことへの驚きだったのだ。
「………………」
ヤバい。
全然策が思い浮かばない。
それどころか、仲間たちの状態を観察すればするほど、絶望感が募って来る。
どのようなカラクリなのか、触手によって縛められている彼女たちは、指一本どころか、一ミリたりとも動かせない。
うめき声くらいは聞こえそうなものだが、声すら全く聞こえない。
そもそも彼女たちなら、魔法を使えばいくらでも自力で脱出出来そうなものだが、それをしていないということは、魔法そのものを封じられている可能性が高い。
同時にいくつの魔法を重ね掛けされているのか、俺には想像も出来ない。
「何が目的だ? 金なら、持ってるだけ全て渡す。もしもそれで足りないと言うなら、俺が出来ることなら、何だってやる! だから、頼む! 彼女たちを解放してくれ!」
こうなるともう、最後の手段は交渉だけだ。
突破口――と呼ぶにはあまりにも頼りないが、今俺に出来るのは、このくらいしかないからな。
「そうだね、金も良いけど……僕は、もっと面白いものが見たくてね。気が遠くなるほど長生きしていると、ちょっとやそっとのことじゃ感情を揺さぶられなくなっちゃって。つまり、刺激を求めているのさ」
ダイーマさんは、得意気に、ペラペラと勝手にしゃべり続ける。
「でも、さっき七人同時に無力化したのは、見事だっただろ? さすがの僕でも、これだけ戦闘能力が高い者たち相手に、同時に仕掛けて同時に仕留めるのは至難の業なんだ。
だから、念入りに下準備をしたって訳だ。それが、〝気付かれない程の小さな魔法陣〟を相手の肩に埋め込むっていうことだったのさ。
あとは、タイミングを見計らって相手の魔力を最小限に抑えつつ、同時に自分の魔力による干渉を最大限にまで膨張させれば良いって寸法だ」
その間に、ダイーマさんの弱点を探すべく、俺は密かに『看破』を発動した。
あまりにも焦り過ぎていて、今の今まで忘れていたのだ。
しかし。
「!?」
弾かれてしまい、ステータスも記憶も盗み見れなかった。
何者なんだ!?
女神の固有スキルを弾くとか、化け物にも程があるぞ!
ただ、逆にそのおかげで、何となく俺は、彼の正体がつかめた気がした。
こんなことが出来るようなモンスターなんて、恐らく世界に一人いるかいないかだ。
そして、もしいるなら、それは――そのモンスターの名前は――
「ってことで、君には彼女たちとは違って、特別にこれをプレゼントしよう。どうかな?」
「!?」
不意に、ダイーマさんが俺に向けて手を翳した瞬間――
「……あ……れ……?」
ぐにゃりと世界が歪み。
立っていられなくなり、俺は倒れた。
「さぁ、ここからが本番だよ?」
どこかから誰かがそんな風にほくそ笑む声が聞こえた気がする。
起き上がった時。俺は――
「ここは……どこだ? なんで俺はこんな場所に……?」
見たこともない場所で。
「それに……誰だ? なんで知らない人たちと一緒にいるんだ、俺は……?」
「「「「「!!!」」」」」
見知らぬ人たちと一緒にいた。




