40.「二人きりの買い物」
魔王の指摘に、皆が俺の方を一斉に向く。
「……そうだ。俺が幼い頃に描いた、両親の絵だ」
ちなみに、二枚とも、両親の絵の右側――少し離れた場所に、真っ赤な口のような形の花を咲かせる草花が描かれているが、小さく描かれており目立たないためか、特に誰も突っ込まない。
俺はうなずくと、遠い過去に思いを寄せた。
「俺が生まれたこことは違う世界の国では、母の日と父の日っていうのがあってな。それぞれ、母親と父親に感謝することを目的としているんだ。
で、幼稚園――っていう、小さな子どもたちが行く学校で、母の日と父の日に『お母さんの絵を描きましょう』『お父さんの絵を描きましょう』と先生に言われたんだ。
けど、どうしても二人とも描きたくて、どちらの日も、二人が並んでニコニコ笑っている絵を描いたんだよ。
多分、俺は欲張りなんだろうな。俺みたいなやつは、少なくとも俺の周りには誰もいなかったから」
あと、持病が悪化した際も、仕事を辞めず、ライフワークである温泉旅館めぐりも止めなかったし。まぁ、仕事は辞めたら生きていけないってのはあったけど、それでも、どちらも諦めなかったんだよな。
「それにしても……何で俺の幼少時代の絵が、こんな所にあったんだろう?」
首をひねる俺に、魔王が何か言おうとして、一瞬躊躇った後、意を決して訊ねた。
「元いた世界に帰りたい、という貴様の気持ちの表れなんじゃないか?」
「!」
思わず俺は目を見開いた。
そうだ。世界樹は俺の固有スキルだ。
であるならば、俺の精神状態が何らかの形で反映されても何もおかしくはない。
「貴様、やはり家族に会いたいか?」
「そりゃ会いたいさ。会えるものならな……って、え?」
瞬間。
何故か目の前の壁にウインドウが現れる。
俺は『ウインドウ』と言っていないのに。
そこには、メニューが表示されていて。
「! 新たに、『元いた世界の家族との通信』っていうメニューが増えてる!」
だが……高い!
金貨八百枚て。
まぁ、切りが良い千枚とかだったらもっと絶望的だったから、これでもまだマシな方か。
日本だと八百万神が有名だから、それと掛けてるのか?
いや、それだと八百万だし、洒落にならんな……
じゃあ、八百屋とか? 八百屋に特別な思い入れは無いけど。
「まぁ、少しずつ金を貯めていくよ。何年も掛ければ、きっと通信出来るようになるだろうし」
「そうか。きっと『次元を超えた映像魔法』みたいなものなんだろうな。その願いが叶うと良いな」
「ああ」
こうして、〝宝箱事件〟は幕を下ろした。
※―※―※
翌日からは、例の世界樹の華の香による集客のおかげで、お客さんで賑わった。
忙しい日々を送っている内に。
ふと、俺は、あることに気付いた。
「何か、最近、アイジェさんが来る事が多いないか?」
アイジェさんとは、魔王の幼馴染であり、魔王によって呪いを掛けられてから千年間、巨大な目玉のモンスターの姿で世界中を旅していた女性だ。
この旅館の力で、今は無事に元の姿に戻った彼女だが、最近、頻繁にうちに来ている気がする。
「まぁ、仲良きことは美しきかな。休業日の魔王はアイドル活動があるから、こうやって営業日に客として来れば、会って多少なりとも話が出来る、ということなのかもしれないしな」
※―※―※
そんなことを考えている間に、休業日になった。
その日のお客さんを、朝見送った後。
「……メグル」
「ん? どうした?」
「休みの日に悪いが、今日、我は王都へと、アイジェの誕生日プレゼントを買いにいくのだが、良かったら、つ、付き合ってくれないか?」
「別に良いぞ」
「やったー! ……じゃなくて、感謝する。改めて我が掛けた呪いに対する謝罪の意味も込めて、もう直ぐ誕生日のアイジェにサプライズで渡したいんだ」
「素敵じゃないか。俺で良ければ、全然付き合うぞ」
「よしっ!」
ガッツポーズをする魔王。
余程気合いを入れているらしい。
紆余曲折はあったけど、何だかんだ親友って言って良いんじゃないか、この二人?
こんなに相手のことを想ってくれる友人なんて、本当に貴重だと思う。
※―※―※
そのような経緯を経て、南西にあるマルティクルーズ王国の王都まで、魔王と手をつないで飛んで行ったのだが。
色んな店を回り、小休憩とばかりに、少し遅めの昼食を食べている最中に、ふと魔王が俺に放った言葉は、全く想定していないものだった。
「あの夜のことだが……貴様は……その……我にドキドキしたか?」
「!?」




