38.「チート」
「どういうことだ? ガセネタだったら、ただじゃおかねぇぞ!」
あれだけ酷い目に遭わされたというのに、勇者は再びクソガキムーブをかます。
結構タフだなおい。
まぁ、それだけのタフネスがあれば、成功出来るかもな。
「私は『看破』で、相手のステータスの詳細を見ることが出来るんですよ。それによると、勇者さんの炎と氷の固有スキルは、意外と使えます。まぁ、まずは実際にやってみてもらいましょう」
俺は魔王に、「魚を一匹、厨房の水槽から持って来てくれるか?」と、頼んだ。
「心得た!」
手を翳して、物体操作魔法を発動しようとする魔王だったが。
「……我ら以外にも、予想外の客人に興味を持つ者がいたようだ」
「?」
手を下ろした。
と同時に。
「余も交ぜてもらうとするかのう」
「クーク!」
片手に二本の包丁を持ちコック棒を被ったドラゴン娘が現れた。
もう片方の手に、ピチピチと身をよじる魚を持って。
「では、勇者さん、氷の能力で魚を凍らせてもらえますか?」
「無駄だって言ってんだろうが! 何で俺様がそんなことを――」
「『漆黒獄炎』」
「ヒィッ! わ、分かった! やるよ! やれば良いんだろ!」
魔王が再び漆黒の炎を手の平から膨張させて、勇者は慌てて手を翳した。
「『氷』!」
だが。
「ほらな。駄目なもんは駄目なんだよ!」
肩を落とす勇者。
しかし、俺の狙いはここからだ。
「よし、クーク。その活きのいいのを殺してくれ」
「おお! 任せるのじゃ! いやぁ、勇者ともなると、レア度が高いからのう。さぞかし美味いんじゃろうな」
「勇者さんじゃねぇよ! 魚の方だよ!」
クークは残念そうに、口を尖らせた。
「仕方が無いのう」
魚を上に放り投げると、両手に持ち替えた包丁を一閃。
頭を見事に切り落とされてクークの手に戻って来た魚は、今の一瞬で内臓を引き抜かれ、血抜きまで済ませてある。相変わらず、常軌を逸する包丁さばきだ。
「さぁ、勇者さん!」
「ええい、ままよ! 『氷』!」
物体操作魔法でプカプカと内臓と血を浮遊させているクークの手中にある魚に向けて、勇者は固有スキルを発動した。
すると。
「おお! ちゃんと冷たいのじゃ! 冷凍されておるぞ!」
「なっ!?」
成功した。思わず目を丸くする勇者。
「何でだよ!? 今まで一度も成功したことなかったのに!」
俺は、何が起きたかを説明する。
「自分よりもレベルが低い相手にしか使えないっていうのは、あくまでも〝相手が生きている場合限定〟なんですよ。死んだら、レベルも何もあったもんじゃないですからね。〝ただの肉塊〟です」
「そんな……!」
勇者は、愕然とする。
『看破』で記憶も少々覗いてみたが、勇者は十年間色々と試していた。それでも活用方法が全く見付からなかったのに、会ったばかりの俺に教えられたのが、ショックなのかもしれない。
「ここからは、勇者さんもご存知の通りです。その固有スキルは、魔力を使いますか?」
「いや、一切使わない」
「ですよね。体力も精神力も使わない。そして、その効果の持続時間ですが、それはどうやって決まりますか?」
「俺様が任意で指定できる。永遠に効果が途切れない、という風にも出来るし、この魚なら、荷馬車で運んで、王都に入った瞬間とか、露店に並んだ瞬間とか、客が買った瞬間とか、客が買って家に帰宅した瞬間とか、細かく指定可能だ」
勇者さんも、俺の言わんとすることが徐々に分かって来たようだ。
「この異世界では、魚や肉の保存方法が限られています。塩漬け、燻製、干物、干し肉などなど。科学が未発達で、冷凍技術がないため、勇者さんの固有スキルが滅茶苦茶役立つんですよ」
「で、でも、氷魔法使えるやつなんて、いくらでもいるだろうが!」
「彼らの魔法は〝魔力〟を使います」
「!」
「しかも、いつ魔法の効果が切れるかを、指定したり出来ません。もし遠くの地方から魚や肉を運ぼうとして、長い間鮮度を落とさないようにしようと思ったら、せいぜい、めっちゃ大きな氷の中に入れるとかしか出来ないんですよ。
でも、勇者さんの固有スキルは、ご覧の通り、魚そのものが冷凍されているから、氷を入れる分のスペースを考える必要が無いんです。はっきり言って、〝チート〟ですよ、こんなの」
そこまで話を聞いた勇者は、目を輝かせた。
「俺様、すご過ぎだな! さすが俺様だぜ!」
「そうですよ。炎の能力に関しても、〝永遠に消えない炎〟とか生み出せるから、松明要らず・魔力要らずで、王都の照明に最適です。王都の商人ギルドとかに売り込めば、良い商売になると思いますよ!
万が一人間やモンスターに触れたり家に触れたりしたら、炎が消える、というような条件付けをしておけば、保険にもなりますし」
「おおお! 良いじゃねぇかそれも! こうしちゃいられねぇ、早速王都に帰って、商人ギルドに登録して、事業を始めるんだ! 世話になったなてめぇら! アバよ!」
勇者は、そそくさと帰っていった。
※―※―※
「休業日だってのに、魔王もクークも、本当にありがとうな!」
「気にするな。我が好きでやったことだ。……ちなみに、この〝好き〟っていうのは、そういう〝好き〟じゃないからな!」
「惜しかったのう。貴重な肉だったんじゃが……」
相変わらずよく分からない理由で頬を紅潮させる魔王と、目の前の相手を料理することしか考えていないクークに、俺は苦笑する。
特に魔王は、本来休業日は四天王とのアイドル活動もあるはずなのに、こっちを優先してくれて、ありがたい限りだ。
「とにかく、何とかなって良かった」
俺は、ヤベーやつへの対処を終えたことへの安堵感から、息を一つ吐いたのだった。
※―※―※
この日は、もうそれ以上の来訪者はいなかった。
リアやスゥスゥ、それにロッカ、ニコ、ネーモの木娘たちは、しっかり休めただろうか? せっかくの休業日だしな。
そんなことを考えながら、温泉旅館〝世界樹〟の入口を閉めていると。
「たたたたた、大変ですわ!」
リアが慌てふためき、走って来た。
「どうした?」
「ユドル様の胎内をペロペロと舐め回していたら、宝箱が出て来ましたの!」
「!?」




