37.「ショボい能力の使い道」
「待て、ユドル!」
「! 何で止めるドル!?」
俺の声に反応した魔王が、俺の代わりに、防御魔法でユドルの凶刃を止めてくれた。「別に止めなくても良いのでは?」という思いを、ありありとその顔に滲ませながら。
壁から生えた真っ赤な口で、ユドルは積年の怒りをぶちまける。
「コイツは勇者ドル! 三千年前、コイツが魔王討伐の際に、自分の力不足を補おうとして、ユドルのもとにやって来たドル!
世界中の冒険者たちを引き連れたコイツは、普通の大木サイズだった世界樹の葉も、枝も、幹すらも斬って、仲間たちに最強武具を装備させたドル!
そのせいでユドルは枯れたドル! 今こそ復讐の時ドル! 地獄の苦しみを味わわせた上でぶっ殺してやるドル!」
「落ち着けって。お前が辛かったのは分かった。でも、コイツはお前の命を奪った勇者じゃない」
「同じことドル! 勇者の末裔も同罪ドル!」
「いや、末裔ですらないんだ。コイツは、ただの異世界転生者。一ミリも血は繋がってないんだよ」
「ドル!?」
余程予想外の言葉だったのか、ユドルは素っ頓狂な声を上げる。
勇者を縛り上げているつるをボゥッと淡く光らせたユドルは、どうやら俺の『看破』と同じような能力を持っているらしく、力なく呟いた。
「……本当だドル……」
「な? 分かったら、もう殺すのは止めてくれ」
「でも、ストレス発散したいから、殺すドル!」
「何でだよ!? 滅茶苦茶やんのマジでやめろ。それに、見てみろよ。全く無関係にもかかわらず、既に半殺しにしたんだぞ、コイツのこと? 何の罪もないのに。もう十分だろ」
見ると、勇者は呼吸困難で白目を剥き、泡を吹いており、ピクピクと痙攣している。辛うじて生きている、という状態だ。
「……仕方ないから、このくらいで勘弁してやるドル……山よりも高く海よりも深いユドルの寛大な心を、ありがたく思うドル!」
ユドルは、真っ赤な口を壁の中に引っ込めると、勇者を捕縛していた無数のつるも、壁・天井・床の中へと消えた。
※―※―※
「ハッ!」
「気がつきましたね」
「……俺様は、生きてるのか……?」
残念ながら、と言いそうになって、グッと堪える。
「はい。ちなみに、もしこの温泉旅館内で暴れようとしたら、うちのやたらと強い戦闘能力を有する従業員たちだけでなく、先程の世界樹自身も排除しに掛かります。今度は、止めません。そのまま死ぬことになると思いますので、覚悟しておいて下さい」
「うっ……お、おう……」
またもや青褪める勇者。
勇者の〝ゆ〟の字もないな、この男。
「ちくしょう! 俺様に戦闘系の固有スキルがあれば! あのクソ女神が俺様にチート能力をよこしていれば! 魔王や世界樹ごときに後れを取ったりしねぇのに!」
おうおうおう。
弱い犬ほどよく吠えるとは、よく言ったもんだなおい。
だけど、そのくらいにしとかないと、知らないぞ?
魔王や世界樹に、またブチ切れられるぞ?
悲しいほどに三下臭が全身から漂っている勇者を、改めて冷静に観察する。
「………………」
ステータスと記憶を見るに、足りないのは能力というよりも、〝頭〟の方だ。
魔力感知が出来ないから誰が魔王かすら分からず。
それならば、出回っていた似顔絵を覚えておけば良いだけの話なのだが、情報収集を全くしない彼は、似顔絵が出回っていたことすら知らなかった。
固有スキル云々以前に、もう少し生活の仕方を工夫した方が良いんじゃないか?
そんなことを思いながら、『看破』で引き続き勇者のステータスを見ていると。
「あ」
俺は、あることに気付いた。
これって、上手く使えば、もしかして……
そうすれば、彼に一番足りていない成功体験にも繋がるのでは……?
一方、勇者は、なおも不平不満を吐き出し続ける。
「剣技も駄目、魔法も使えない。頼みの綱の固有スキルが、ショボい炎と氷の能力なんとか、本気で舐めくさってるだろ! 人間やモンスターに対して使えないだけじゃない!
自分よりもレベルが低い相手にしか使えないから、レベル1の俺様は、動物に対してすら発動できやしねぇ。そんな力、誰が欲しがるってんだ!」
そんな勇者に対して、俺は、静かに語り掛けた。
「勇者さん。世界を救う勇者にはなれないかもしれませんが、世界を驚かすような大商人にはなれるかもしれませんよ」
「!?」




