35.「豹変した経緯」
数時間前。
まずはショプチーさんたちに、通常の料理と酒を提供した。
色々と難癖をつけられるだろうな。
と、正直、そのように思っていたのだが。
「ほほう。ウナギの〝カバヤキ〟、というのですね、この料理は」
「はい。大きな骨は取り除いてありますが、細かい骨はあるので、よく噛んで食べて下さい」
まずは、スゥスゥには女体化した俺の身体だけ動かしてもらって、俺が説明をしていく。
テーブルについた彼ら六人の大司教たちの反応は、意外なものだった。
「おお! これは!」
「ウナギを食べるだなんて最初は驚きましたが、こんなに美味しいのですね! とても脂がのっています!」
「熱々のウナギに齧り付くと、炭火焼でムラなく均一にカリッと焼き上がった表面とは対照的に、その肉厚な身はふっくらと柔らかく適度な弾力もあり、中に閉じ込められた旨味が、上等な脂と、とろりとした甘辛いタレと共に、口の中いっぱいに広がります!」
「高級な炭で焼かれたために、まるで煙で燻されたかのような上品かつ香ばしい香りのするウナギは、その身から、そして脂から存分に旨味を感じられますね!」
「食べやすいようにと切り分けられたその身を、一切れ、二切れと食べた後、ふと山椒を加えてみると、独特な風味が加わり、更に味わい深くなりますよ!」
「いえいえ、まだ終わりませんよ! そこに、初めから掛かっている甘辛いタレを更に追加で掛けながら食べるのです!」
「ああ! 白い米が進みます!」
「ウナギ! 白米! ウナギ! 白米!」
「あまりの美味しさに、手が止まりません!」
めっちゃ食レポしてくれるじゃん。
意外過ぎてビビるわ。
これ、映像魔導具を使って録画して、そのまま各国王都・帝都・皇都で街中ででかでかと空中に映写してもらえば、それだけで滅茶苦茶集客出来るのでは?
そんな風に考える俺だったが、ショプチーさんたちの食レポはまだまだ続く。
「これが世界樹の葉、華、幹の皮、それらを使ったサラダですか!」
「植物特有の青臭さが全くありませんね!」
「それどころか、甘いです!」
「シャキシャキ感を楽しめます!」
「一口サイズが大きくて!」
「肉厚! 食べ応えもあって、美味しいです!」
俺たちの提供するデザートも、絶賛してくれた。
「ほう! 世界樹の葉の〝ヨウカン〟というのですね、この料理は!」
「なるほど! 白小豆を原材料とする白あんを用いて、世界樹の葉で作ったお茶を混ぜて作ったのですね!」
「ふむ。新緑を思わせる緑色が目でも楽しめますね!」
「おお! これは! 美味しい!」
「甘い……けれども、決して甘過ぎず、絶妙なバランス!」
「ほほう、寒天の原材料であるテングサという海藻を、世界樹のすぐ北側にある海で採り、それと、この周辺に自然に群生しているサトウキビから得た砂糖と使っていると!」
「自然を感じられる、深い甘みが美味ですね!!」
「〝世界樹茶〟の風味も白あんとよく合っていて、絶妙なハーモニーを奏でていますね!」
ヤバい……嬉しい……。
ここまでべた褒めしてくれたんだから、もう許可証への署名なんか貰えなくても、良いんじゃないか?
……って、いかんいかん!
予想外過ぎる褒め言葉の連続に、動揺してしまった!
あくまでもこれは、〝酒池肉林で骨抜き大作戦〟の一環だ!
その後、酒に関しても、「飲みやすい」とか、「深い味わいがある」とか、「初めて飲んだ新鮮な風味」だとか、色々と褒めてくれたのだが。
「確かに美味しいですし、アルコール度数も高いようですが、この程度でしたら、ワタシたちは永遠に飲み続けられますよ? クックック……」
「「「「「クックック……」」」」」
との事だったので、アレを使うことにした。
「皆さま。実は、デザートはもう一品ありまして。宜しければ、こちらもどうぞ」
「ほう。見た事ないですね、これは」
「では、早速頂きましょうか。ただ、酒から遠ざかると、ますますワタシたちは酔いが醒めてしまいますが、良かったのでしょうか? クックック……」
「「「「「クックック……」」」」」
余裕綽々といった様子で、乾いた笑い声を上げる彼らだったが。
それを一口食べた途端に。
「なんれすかこれぇ~!?」
「すっごく、おいひいれすぅ~!」
「こんなのたべたことないれふぅ~!」
泥酔した。
それは、世界樹の果実だった。
今までお客さんには一度も食べさせたことがなかった食材だ。
そして、営業を始めて最初の週末に、休み返上でクークに朝から晩まで料理を作ってもらうために、あげたものだ。
実は、世界樹の果実は、食べた者を必ず酔わせる果実だったのだ。
俺もよく分かっていなかったのだが、それまで二千年間で一度も酔ったことがないという大酒飲みのクークが、「生まれて初めて酔ったのじゃ……」と、驚愕に目を見開いているのを見て、やっと気付いた。
「くっ! い、意識をしっかり保つのです! 皆さん!」
「そ、そうです! こ、これしきのことで!」
必死に酔いに抗うショプチーさんたちだったが。
「ほら、口調も戻って来ました~あはん♪」
「そうそう、もう何も問題ないですよ~うふん♪」
完全に酔っていた。
彼らは、先程こう言った。
「酒豪で、今まで一度も酔ったことがない」
と。
だが、それが仇となった。
それこそが、彼らの弱点だったのだ。
今まで一度も酔ったことがない人間が、もし、べろんべろんに酔っぱらったら、どうなるか?
心のガードが全て取っ払われて、無防備になるのだ。
その結果。
「ん~? 許可証に署名ですか~? しちゃうしちゃう~♪」
「あれ~? 何か、今、ワタシ、しちゃ駄目なことをしちゃった気がしますけど~?」
「まぁ、いっか~♪ あはは~♪」
簡単に許可証に署名をしてしまい。
酔っぱらう前は、「女の色香で惑わせようなどと、ワタシたちを誰だと思っているのですか?」と、クイッと眼鏡の位置を直す彼らだったのだが。
「おっぱい~♪」
「パイパイ~♪」
魔王がはだけた胸元に、鼻の下を伸ばして。
「所詮は男ですわね! さぁ、私の洗練された美しさに頭を垂れるのですわ!」
ふぁさっと髪をなびかせるリアを見て。
「おっぱ……あれ? 無い……」
「うん……パイパイ~無い無い……」
頑張ってリアがはだけた慎ましい胸元に、男たちが、がっかりと肩を落とすと。
「ケンカ売ってるんですのおおおおおおおおおおお!?」
怒号を上げたリアが、両腕を無数のつるに変化させ、ショプチーさんの全身を縛り上げた。
「くぅ! な、何ですか、この感覚は!? は、初めてです! こんな……こんな快感!」
恍惚とした表情で涎を垂らすショプチーさん。
するとそこに、一通り料理を作り終えたクークが、両手の包丁を光らせながらやって来た。
「面白そうなことをしておるのう。どれ。余も一つ、大司教とやらを料理して……と思ったが、あまり美味しくなさそうじゃのう、お主たち」
「おお! 包丁持った爆乳ちゃん♪」
「では、しょうがないのう。料理以外で、少々遊んでやるとするかのう」
代わりに、クークがそのドラゴン尻尾を軽く振り、男たちの一人を吹っ飛ばすと。
「ぐはっ! ああ! この全身を突き抜ける甘く切なく狂おしい衝撃! た、堪りません!」
鼻血を垂らし、軽く吐血しながらも、男は目を爛々と輝かせ、頬を紅潮させて。
「すごく面白そうですぅ! あたしも何かやってみたいですぅ! とうっ!」
更に、俺の身体から抜け出したスゥスゥが、大司教の一人の身体に入り込み、乗っ取ると。
「ワ、ワタシの身体が女体化ですと!? うっ!?」
身体の変化に戸惑う暇もなく。
『今身体の主導権はあたしにありますからぁ! もしあたしが息を吐くばかりで、吸わなければ、どうなるでしょう~?』
「い……息が出来な……い…… く……苦しい……けど……ア……アヘェ……♪」
呼吸困難に陥りながらも、男は顔を赤らめ目を潤ませ笑みを浮かべて。
「ロッカについて来て欲しいでっす」
「ニコは、お客さまに、天国に、ご案内することに、いたしました」
「ネーモは、未知の快ら~くを、あげま~す」
それぞれ男たちの手を一人ずつ引っ張って、食堂の壁まで連れて行った木娘たちは。
「おお!?」
「これは!?」
「何と!?」
彼らを世界樹の幹の内部――旅館の空間ではなく、樹木としての本来の幹の部分で、木娘たちが高層の温泉へ一瞬で行く際に使用しているルート――へと誘う。
ただし、今回は、ゆっくりとその内部を移動しつつ。
彼らの手を、途中で離して。
「ここでしばらくお楽しみ下さいでっす」
「天に、昇る気分に、なれるに、違いない、です」
「心地良~く、なれま~す」
幹の中に置き去りにされ、〝生き埋め〟とされた男たちは。
「……く……苦し……い……で……す……」
「……か……身体が……押し……潰され……ま……す……」
「……で……でも……」
「「「……き……気持ち……良い……です……!」」」
生死の境目にありつつも、快感に上擦った声を上げた。
一応、〝殺さないように〟と俺が釘を刺しておいたので、誰一人として命を奪う者はおらず、途中で〝ちょっぴり刺激的な接待〟を止めて、ギリギリ死なない程度で加減していたのだが。
死なない代わりに、彼らは。
「ああ! リアさま!」
「ああ! クークさま!」
「ああ! スゥスゥさま!」
「ああ! ロッカさま!」
「ああ! ニコさま!」
「ああ! ネーモさま!」
「「「「「もっと! もっとワタシを苛めて欲しいです!! どうか!!! どうかもっとおおおおおお!!!!!!」」」」」
一人一人バラバラに〝推し〟が出来ると同時に、完全にドMに調教されたのだった。
※―※―※
翌日の朝。
「まぁ、その……ワタシたちが許可証に署名をしてしまったのは確かですので……」
「誠に遺憾ですが、今後の営業を許可します」
「全然気持ち良くなんかなかったですし、全くハマってなんかいませんからね」
そうか、ハマったのか。
どこかスッキリとした表情の彼らは、肌がツヤツヤとしており、何故〝酔っぱらった際の署名を無効にしなかったのか〟を、如実に語っていた。
よし、次来た時には、ちゃんと金を取ろう。
指名料金も取って。
特別プレイ料金も追加で請求して。
※―※―※
ショプチーさんたちを見送った後。
「ふぅ。みんな、本当にありがとう! 本当によくぞ乗り越えてくれた! みんなのおかげで、これからも営業を続けることが出来るよ!」
俺は、仲間たちに頭を下げた。
笑みを浮かべる彼女たちと対照的に。
胸元をしっかりと閉じた魔王が、みんなの後ろから、おずおずと現れた。
「今回、我は特に何も出来なかったな……」
うつむいて顔を曇らせる彼女に、俺はきょとんとする。
「何言ってるんだ、しっかり給仕してくれたじゃないか!」
「そ、そうか? でも、それだけじゃ、みんなの頑張りと釣り合わんだろ?」
「それだけじゃない。魔王が男たちを悩殺してくれたおかげで、その後の流れが決定づけられたんだ。リアがブチ切れてドS攻めをして、男たちが悦び、他のみんなも追随する、という完璧な流れがな!
ってことだからさ、魔王。お前も立派に役目を果たしてくれたんだ。胸を張ってくれ」
「……そうか、なら良かった」
ようやく笑顔が戻った魔王に、俺も安堵する。
良く分からんけど、魔王が元気が無いと、俺まで悲しくなるんだよな。
で、魔王が笑顔だと、俺まで嬉しくなるんだ。
何でだろう……?
うーん、分からん。
※―※―※
〝世界樹の華の香り〟による新たな集客をやっていなかったため、その日の夕方は客が来なかった。
改めて、「ちゃんと忘れずに、余裕を持って事前に食わせろドル!」と悪態をつく世界樹に、俺は金貨を一枚食べさせた。
これでまた集客が出来るが、二日ほど待つことになる。
ただ、先日のショプチーさんたちのように、イレギュラーが起こる可能性もゼロではないので、念のために、温泉旅館は開けてはある(もちろん、出来るだけ仲間たちには休んでもらっている)。
万が一休業日に厄介な奴が来て、旅館が閉まっているのを見て、改めてお客さんがいる営業日にでも来られたら、目も当てられないからだ。
それなら、お客さんのいない休業日に処理した方がずっと良い。
「まぁ、あんな酷い営業妨害をする奴は、もう現れないだろうけどな」
確率としては、かなり低いし。
そう思っていたのだが。
翌日。
ある男がやって来てしまった。
それは。
「出て来い魔王! この勇者さまがぶっ殺してやる!」
RPGでは、〝魔王を倒して世界を救う者〟として、あまりにも有名な〝勇者〟だった。




