33.「戦わずに穏便に済ます方法」
「まさか!?」
「はい」
「そのまさかです」
「我々」
「全員が」
「世界各国の」
「大司教」
「「「「「です」」」」」
全員が、一斉にクイッと眼鏡の位置を直した。
いや、わざわざ台詞を区切るなよ。
最後バッチリ揃ってるし。
仲良しか。
新たに現れた五人の中年男性に対して密かに『看破』を使うと、やはり全員本物だった。
この異世界において、宗教は一種類しかない。
〝光輝教〟と呼ばれる、太陽を神格化して崇めているものだ。
それ故、彼らの結束は固く、対立させて――といった策を用い辛い。
「……ということは、六ヶ国全てで法律を変えた、ということですか?」
嫌な予感しかしないが、確認せずにはいられなかった。
「その通りです」
「昨日、それぞれの国で」
「法律を変えて」
「国王さまのものだけでなく」
「大司教の署名も必要になりました」
「そして、マルティクルーズ王国同様、新法は、二ヶ月前までさかのぼって適用されるということ」
「「「「「です」」」」」
再び、六人全員が、クイッと眼鏡の位置を直す。
兄弟か何かかな? それとも分身?
年齢も近く、服装も容姿も似てるし。
「これで、世界各国において、これら許可証は、何の意味もないということです」
ショプチーさんから返してもらった許可証に目を落とす。
後ろの受付でリアが持ってくれている他の五枚の許可証も、これで意味が無くなったということに。
……って、ちょっと待て、リア!
右手を木製の刃に変えて、左手を食獣植物に変えて、どうするもりだ!?
「恐れ多くもユドル様の胎内に足を踏み入れた下賤な虫けらどもに、天罰を下しますわ」
何か怖いことつぶやいてるし!
……って、ふと左斜め後ろを見たら! 魔王、お前もか!?
「腸を焼き、脳髄を焦がし、悪しき愚者ども死の灰となれ。『漆黒獄炎』」
上に向けた手の平から、何かどす黒い炎が膨れ上がってるし!
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
「と、取り敢えず! 皆さん! 奥で詳しくお話を聞かせてください! 大したおもてなしは出来ませんが、お料理とお酒もお出ししますので! もちろん、無料です!」
慌ててそう言った俺は、振り返ると、空気を読んで控えていてくれたあの三人に声を掛けた。
「ロッカ、ニコ、ネーモ! お客さまを、大司教の皆さまを、食堂にご案内して!」
「ロッカは、了解でっす」
「ニコは、旦那様の言葉に、了承するに、至りました」
「ネーモは、分~かりましたで~す」
木娘たちが、「お客さっま、こちらでっす」「お客さまに、ご案内です」「お客さ~ま、ついてきて欲しいで~す」と、満面の笑みで接客を始める。
ショプチーさんたちは、「何と、無料ですか。これにはワタシも驚きました」「では、せっかくですので、ワタシもお言葉に甘えることにしましょう」「まぁ、断るのも悪いですからね。ワタシも行きましょう」と、同時にクイッと眼鏡の位置を直しながら、ついていった。
※―※―※
ショプチーさんたちの姿が見えなくなった後。
「ふぅ~。危なかった」
俺が冷や汗を拭うと、魔王とリアは、怒りを爆発させた。
「我が、アイツらを殺してやる!」
「食獣植物のエサにしてやりますわ!」
「まぁまぁ、二人とも。殺すのはマズい」
俺は、二人を必死になだめた。
「何故だ!? 腹が立たないのか、メグル!」
「あんなにバカにされて! 我慢の限界ですわ!」
「もちろん、俺もムカついてる。でも、ここで六ヶ国全てと敵対するのは、出来れば避けたい」
「問題ないぞ。どれだけ敵が攻めて来ようが、我が全て蹴散らしてやる」
「ええ、そうですわ。全部叩き潰せば、問題ありませんわ」
本当に出来ちゃいそうなんだよな~。
うちの従業員、戦闘力がおかしいのがゴロゴロいるからな~。
「多分、俺たちなら負けないとは思う。けど、俺は、出来れば人殺しはしたくないんだ。俺たちは、善良な市民だ。アイツらとは違うだろ? 〝悪しき愚者〟でもないし、〝下賤な虫けら〟でもないだろ?」
「……まぁ、そうだな」
「……当然ですわ。私は、高貴な存在ですもの」
先程二人が吐き捨てた煽り文句を使った説得が、何とか功を奏する。
「じゃあ、どうするんだ?」
魔王の問いに、俺は、うつむいて思考する。
「そこなんだよなぁ。戦わずに、何とか穏便に済ませたい……けど、ちゃんと今まで通り営業出来るようにはしたいし。うーん……」
ショプチーさんたちにこの場で署名を求めても、国に来いと言われるだろうし、行ったら行ったで、何だかんだ言って署名を断るだろうし。
そもそも、転生直後に女神によって世界各国に連れて行ってもらった時と違って、今は、本日中に六ヶ国に行く手段がない。
「うーん……」
受付の前で考える俺だったが、他のお客さんは誰も来ない。
あ。
そう言えば、次の月の集客のために改めて世界樹に華の香りを飛ばしてくれと頼むのを忘れていた。
まぁ、逆に良かったかもな。
正直、今日はショプチーさんたちへの対応で一杯一杯だから。
それは良いとして。
「どうすれば良いんだ……」
俺が頭を抱えていると。
「あ!」
リアが、何かを思い付いたらしい。
「それなら、私に良い考えがありますわ!」
そう言ったリアは、受付から出て来て、魔王へと近付いて行く。
魔王の背中にそっと腕を回して。
元に戻った両腕で抱き締めて。
「な、何だ貴様!?」
頬を紅潮させながら戸惑う魔王に、顔を近付けて。
もっと近付けて。
更に近付けて。
二人の唇が触れ合う。
寸前に、リアの両腕が丸太のように巨大化。
「ふんぬっ! これですわ!」
「きゃあああああああああ!」
「!?」
リアが魔王の着物の上部分を一気に脱がし、魔王は半裸になってしまった。




