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女魔王と旅館経営~世界樹の中に作った異世界温泉旅館で、濃い仲間たちと共にクセ強お客さんの悩みを解決する話~  作者: お餅ミトコンドリア


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31.「舞台の主役は誰?」

「いやいやいやいや、どう考えてもおかしいだろ。〝女の子のアイドルグループ〟に〝野郎〟を入れてどうするんだよ?」


「いや、適任者は貴様しかいない」


 真剣な表情でそう言い切る魔王。


 ……うーん。


 もしかして、猫人間キャットヒューマンのコスプレがあまりにも恥ずかしかったせいで、魔王は気が動転しており、まともな思考が出来なくなっているのか?


「取り敢えず、何でその結論に至ったのか、教えてくれ」


「分かった」


 布団から立ち上がった彼女は、ビシッと俺を指差した。


「貴様が、この旅館の〝主役〟だからだ!」


「?」


※―※―※


 魔王いわく、この旅館の所有者も代表も俺だから、俺がこの旅館の〝主役〟、となるらしい。


 確かに、この温泉旅館は、俺が固有スキルで作ったものだ。

 代表も俺だ。


「それで、〝旅館の主役〟であるなら、〝フェニーチェの主役〟の座も相応しいと考えた、ってことか?」


「ああ、そうだ」


「滅茶苦茶だなおい」


 なんちゅう論理だよ。


 その考えでいったら、花屋の可憐な女性代表が、ムキムキマッチョ野郎たちのボディビルグループの代表にもなれるし、正義のヒーロー団体の代表が、悪の組織の代表にもなれちゃうじゃないか。


「それに、俺はこの旅館の〝代表〟であって、〝主役〟じゃない」


「何か違うのか?」


「大違いだ」


 座り直した魔王に対して、俺は、一緒に働いてくれている仲間たち一人一人の顔を思い浮かべながら、語り掛けた。


「〝主役〟ってのは、メインってことだと思う。その人がいないと、上手く物事が進まないとか、上手く運営できないとかとか。


 でも、俺はクークみたいなプロの料理人じゃない。魔王がいなきゃ、魚を獲りにいくことも運ぶことも出来ない。


 リアや、ロッカ、ニコ、ネーモがいなきゃ、天使のお客さんの対応をするために、世界樹の中を通って、高層にある温泉に一瞬で移動するなんてことは出来ない。


 そもそも、もしみんながいなきゃ、俺一人じゃこの旅館を回すなんて不可能だしな」


 本当、恵まれてるよな。

 こんなに素晴らしい人材が揃ってるんだから。


「だから、もし〝主役〟という言葉を使うなら、この旅館で働いている〝全員〟が〝主役〟だ。それぞれの役割を全うしている、掛け替えのない〝主役〟なんだよ」


「!」


 目を見開く魔王。


「我もか?」


「当たり前だろうが。どれだけお前に救われていることか」


「そうか……そうか……!」


 魔王は、噛み締めるようにそう重ねて呟くと、笑みを浮かべた。


「メグル。〝フェニーチェ〟も同じだと思うか?」


「そうだな。確かにククスさんは四天王のリーダーで、MCも担当しているけど、〝フェニーチェ〟の〝主役〟じゃないと思う。四人全員が〝主役〟だ」


「そして、それぞれの役割がある、ということだな?」


「ああ、そうだ」


 俺はうなずく。


 魔王は、「〝全員〟が〝主役〟……それぞれの役割がある……」とつぶやくと、立ち上がった。


「メグル、感謝する。貴様のおかげで、どうすれば良いのか――いや、〝我はどうしたいのか〟が分かった」


「そうか、それは良かった」


 すっきりした表情、魔王は、「おやすみ」と、女性従業員用の宿泊室へと戻っていった。


「魔王の〝悩み発散〟ならぬ、〝悩み解消〟が出来て、良かった……んだが……」


 一人になった俺は。


「こんな状態で眠れるかあああああああ!」


 先程の、やたらと色っぽかった魔王の記憶と残り香に、悶々としながら眠れない夜を過ごしたのだった。


※―※―※


 次の週の、休業日。


 俺たちのいる大陸中央の国――ウォアストーン皇国の皇都にある円形闘技場コロシアムにて。


「では、次の曲に行くです! 『ラブ精神操作マインドコントロール』!」


「「「「「きゃあああああああああ!」」」」」


「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」


 今日も四天王たち(フェニーチェ)は、絶好調だ。


 いつも通り、満員のお客さんの前で、彼女たちのライブは進んで行く。


 ただ一つ、通常とは違う点があるとすれば、それは。


「「「「「デレカさあああああん!」」」」」


 ライブのために伊達メガネを掛けてイメチェンした魔王が、本名で参加している、という点だ。


 前回センターにいた魔王は、今日は右端で歌っている。

 代わりに、センターを務めるのは、ククスさんだ。


 俺との会話を経た後、魔王は、下手したらグループ名すらも変える勢いだったククスさんたちに待ったをかけた。


 そして、フェニーチェのリーダーはククスさんのままで、センターもククスさんに譲ること、魔王は魔王とは名乗らず、デレカと名乗ること、魔王はあくまで一メンバーとして加入するということを伝えた。


 ククスさんたちにも、観客たちにも、特別扱いして欲しくなかったのだろう。


 更に、魔王は、「〝全員〟が〝主役〟で、それぞれの役割があるからな!」と彼女たちに告げた。


 今、目の前にある舞台で、フリフリの衣装(コスプレは無し)で歌って踊っている魔王は、その声質を活かして、低音を支え、ハモっている。


 その結果、音に厚みが出て、元々完成度の高かったハーモニーが、更に美しくなっていた。


 これが、魔王が考える、彼女の〝役割〟だった。


※―※―※


 この日のライブは、いつも以上に大盛り上がりで、大成功だった。


「すごい! すごいです! 魔王さ――デレカさん、本当にすごいです!」


「わーい! すっごく楽しかったのだ!」


「あんな美しいハモリ、生まれて初めて聞いたのだわ!」


「うん。ガガオは、もっと一緒に歌いたいのら~」


 四天王たちから大好評で、興奮冷めやらぬ彼女らは、魔王に抱き着いていた。


「そ、そうか? なら良かった」


 照れてはにかむ魔王に、俺も口許が緩んだ。


※―※―※


 魔王と手を繋いで、一緒に飛行しつつ、世界樹へと戻る途中。


「そういや、お前、確か本名がバレるの嫌じゃなかったか? 良いのか?」


 俺は、ふと疑問に思って、問い掛けた。


「別に偽名でも良かったんじゃないか?」


「いや……二千年も待たせてしまったんだ。これくらいは良いさ」


 「それに」と、俺をチラリと一瞥した魔王は。


「ククスやファンたちにデレカと呼んでもらえれば、その内、()()()()()()()()()()にも呼んでもらえるようになるかもしれないしな」


「本当に呼んで欲しい者?」


「いや、何でもない!」


 よく分からないが、まぁ、取り敢えず、魔王自身が納得できる形で、無理なくアイドル活動を出来るようになって良かった。


 よく分からないと言えば、魔王がククスさんたちにアイドル活動に誘われた際も、謎だったな。


 俺は、「もしそっちに専念したければ、それでも良いからな。無理してうちの旅館で働き続けなくても」と伝えたのだが、「なんでそんなこと言うんだ! そんなことする訳ないだろうが!」と、何故か怒られてしまったんだよな。


 うーん、謎だ。


※―※―※


 温泉旅館〝世界樹〟の営業を始めて、一ヶ月が経った。


 異世界の宿としてはかなり高額な値段設定であるため、リピーターは全く期待していなかったのだが、二回目や、中には三回目の来館、というお客さんもいて、嬉しい限りだ。


 料理・酒・温泉、そして接客と、全てのサービスに対して、多種多様なお客さんが満足して下さり、本当にありがたいなぁと思う。


 そして、仲間たちに対して、無事に給料も払うことが出来た(ちなみに、俺の給料もみんなと同じで金貨十枚だ。余った金は、何かあった時の保険の意味も含め、取っておいてある)。


「こうやって自分の努力が形になって返って来ると、頑張って良かったと思えるな」


「案外嬉しいものですわね」


 魔王は黒翼をパタパタと羽ばたかせて尻尾を振り、長い緑髪を優雅に揺らすリアは、翠色の瞳を細めて。


「余は、給金なんぞよりも、お主らを料理して食べたい……ではなくて、ありがたくもらっておくのじゃ」


「いやだから、全部言っちゃってるんだってば」


 両手に包丁を持ちコック帽を被ったドラゴン娘はいつも通りで。


「はわわわわ! 本当にあたしも貰えるんですねぇ! 嬉しいですぅ!」


 〝身体乗っ取らせろ妖怪〟――もとい、幽霊少女のスゥスゥは、触れないため〝念力〟でフワフワと金貨を操り顔に近付け、目を輝かせる。


 そして、ロッカ、ニコ、ネーモの、木娘ツリーガールズたちは。


「ロッカは、旦那さっまが大好きでっす」


「ニコは、旦那様に、ますます好意を抱くに、至りました」


「ネーモは、旦那さ~まが、大好きで~す」


「貴様ら! 抱き着くなと言っているだろうが!」


 ギュッと俺に抱き着いて来て、また魔王に引き剥がされた。


※―※―※


 まだ一ヶ月しか経っていないが、経営が軌道に乗ったと言って差し支えないだろう。


「きっとこのまま、みんなに愛される旅館になっていくんだ。そうに違いない」


 未来は順風満帆だ。

 ……そう思っていたのだが。


 一ヶ月が経った直後の、この日。


「皆さん、はじめまして」


 世界樹から見て南西にある国――マルティクルーズ王国の大司教がやって来て。


「突然ですが、本日より、アナタたちの旅館を、()()()()させて頂きます」


「!?」


 クイッと眼鏡の位置を直しながら口角を上げると、そう告げた。

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