26.「運命の邂逅」
「二千年……だと……!?」
驚愕に目を見張る魔王に、「やっぱりご存知なかったですよね」とククスさんが反応する。
「では、この二千年の間にククスたちに何があったかを、三千年前からの歴史と共に、ご説明させて頂くです!」
そう言えば初めて会った時にリアが、『三千年振りのユドル様!』とか言っていたな……
俺がそんなことを思っていると、「事の発端は、ククスたちが生まれるよりずっと前――三千年前に、勇者が異世界から転生してきたことだったです」と、どこか遠くを見るような目をしたククスさんが、語り始めた。
※―※―※
三千年前。
ククスさんによると、当時の魔王(男)は、今の魔王と違い、邪悪な存在だったらしい。
モンスターの大軍を操って、人間を襲わせていたのだ。
このままでは人類は滅ぶ。
そう危惧した、とある人間の国王が、高名な魔法使いに勇者を召喚させた。
異世界から召喚された少年は、勇者として魔王に挑んだ。
が、返り討ちに遭った。
命からがら王都に逃げ帰って来た彼は、自分の力不足を補おうと、ある策を講じた。
「勇者は、〝世界中の冒険者たち〟を集めまくったです!」
そう。
いわゆる〝人海戦術〟――〝数の暴力〟である。
勇者は、世界各国の冒険者ギルドに頼んで大勢の冒険者たちを仲間にし、引き連れていった。
今に比べると大分小さかった当時の世界樹の葉を全て毟り取り、高価で数も限りがある最上級回復薬の代わりに仲間たちに持たせて。
枝も全て斬り落として、加工して僧侶と魔法使いのための最高の杖を作り。
幹すらも斬って、最高硬度を誇る武具と防具を作って、剣士たちに装備させた。
その結果。
「勇者は、先代魔王さまを倒すことに成功してしまったです」
顔を曇らせるククスさん。
ちなみに、世界樹はそのせいで枯れてしまったようだ。
そのまま、三千年間の間、俺の固有スキルによって再び生み出されるまで、この世界から世界樹は失われたままだった。
一方、前魔王が倒されてからというもの、長い間新たな魔王は生まれなかった。
※―※―※
そんな中。
今から二千年と少し前――つまり、前魔王が倒されてから千年後に、ククスさんたち四天王は生まれた。
しかし、仕えるべき王は既に殺されていた。
「でも、きっとその内、次の魔王さまが誕生するです!」
彼女らは、いつか新たな魔王に出会えることを夢見ていた。
そして、先代魔王の仇を討つために、武力で人間たちに復讐しようとしていた。
人間社会に大打撃を与え、その数を大幅に減らしておけば、新魔王に出会った時に、きっと喜んでもらえるに違いない。
そんな思いもあった。
「やってやるです! 魔王さまの仇を討つです!」
ククスさんたち四天王は、吼えた。
その後、人間たちの国の中で、一番大きな国の王都を襲撃する計画を立てた。
※―※―※
王都襲撃の当日。
城門から少し離れた森の中に、覚悟を決めた四天王たちがいた。
「みんな、準備は良いですか?」
「わーい! お祭りなのだ!」
「計画通り、まずは着実に王城を攻め落とすべきだと思うのだわ」
「小さい子どもたちがたくさんいると良いのら~」
彼女たちが、拳を突き上げて気勢を上げた。
「それじゃあ、行くです!」
「「「おー」」」
直後。
「こんにちは~♪」
「「「「!!!!!!」」」」
突如背後から聴こえた挨拶に、四天王たちが一斉に振り返りつつ、素早く跳躍して距離を取る。
「誰ですッ!?」
先程歌うように為されたそれは、言葉だけ捉えれば、何の変哲もない挨拶だった。
しかし、実際に聞こえたそれは、大気を震わせており、ただの挨拶とは到底思えず。
ましてや、自分たち四天王が、知らず知らずのうちに、超至近距離まで接近を許してしまったのだ。
最大限の警戒と共に、彼女たちがにらみ付けた先にいたのは。
「何だ、ただの一般人ですか」
フリフリのドレスに身を包んだ人間――手ぶらの美少女だった。
輝きを秘めた瞳が印象的ではあったが、剣士でもなく、魔力を感じないことから、魔法使いでもない。
所詮はただの人間――しかも、戦闘能力を一切持たない、一般市民だ。
「丁度良いです! 手始めに、コイツを血祭りに上げるです!」
邪悪な笑みを浮かべたリーダーのククスさんが、四天王たちに号令を出す。
「みんな、やってしまうです!」
だが。
「身体が動かないのだ!」
「何が起こってるのだわ!?」
「おかしいのら~」
彼女たちは、攻撃を仕掛けることが出来なかった。
ふと、その時。
ククスさんは気付いた。
今もまだ、先程と同様に大気が震えていることに。
――否。
「これは……違うです!」
そう。
震えていたのは、大気ではなくククスさんたち自身だった。
目の前の少女の声は、それ程大きかったわけではない。
単純な声量であれば、自分たちの方が上。
それは間違いない。
しかし、何故かは分からないが、鳥のさえずりや風に揺れる木々のざわめきなど、常に雑音が満ちている森の中で、その透き通った少女の声は、どこまでもクリアに、ただ真っ直ぐに心に響いた。
そして。
「あれ?」
ククスさんの頬を、涙が伝っていた。
「な、何でです!?」
拭っても拭っても、次から次へと涙が溢れ出てくる。
見ると、他の四天王たちも、感極まっているようだ。
このような異常事態を引き起こした張本人はというと。
「みんな~♪ 感受性豊かで~♪ とっても素敵ね~♪」
「「「「!!!!!!」」」」
まるで女神のような、柔和な微笑を浮かべて、たたずんでいた。
その顔を目にし、声を耳にした四天王たちは。
「ああッ!」
一瞬で心が満たされ、あまりの多幸感に、膝から崩れ落ちた。
それが、異世界の地球という星で〝伝説のアイドル〟と呼ばれた美少女との出会いだった。
※―※―※
「ククスたちを、弟子にして欲しいです!」
四天王たちは、全員土下座して、弟子入りを願った。
「まぁ~♪ なんて素敵な申し出でしょう~♪ 喜んで~♪」
伝説のアイドルは、二つ返事で快諾した。
感銘を受けたことは確かだが、ククスさんたちには、下心もあった。
「アイドル……すごい力です! この力があればきっと、新たな魔王さまが生まれてきた時に、簡単に世界征服出来るです!」
「アイドル、楽しいのだ!」
「人間たちに比べて圧倒的な武力を持つスララたちが、もし精神操作能力までも手にしたら、着実に人類を滅ぼせるのだわ!」
「小さい子どもたちの心を操るのら~」
だが。
残念ながら。
「なんでです!?」
四天王たちは皆、壊滅的に歌とダンスが下手だった。
伝説のアイドルが歌えば、植えたばかりの種が瞬時に芽を出して花が咲く。
四天王たちが歌うと、咲いたばかりの花が、瞬時に萎れて枯れてしまった。
伝説のアイドルが踊れば、人々は熱狂し、感動し、涙した。
四天王たちが踊ると、人々は嘔吐いて、嘔吐して、涙した。
「こんなんじゃ、アイドルになんてなれないです……」
弱音を吐くククスさんたち。
しかし。
伝説のアイドルは、彼女たちを決して見放さなかった。
「大丈夫~♪ きっと出来るから~♪」
四天王の心が折れそうになる度に、笑顔でそう励まし続けてくれた。
絶対に諦めようとはしなかった。
「昨日はこのトレーニングを試したわよね~♪ じゃあ、今日はこっちをやってみましょう~♪」
四天王たちに合ったものは無いかと、色々なトレーニングを試していった。
ある日。
伝説のアイドルの前で、ククスさんは、口を滑らせてしまった。
「アイドルになりたいのは、世界征服をするためだ」
と。
「あ、ヤバいです。バレてしまったです」と思ったククスさんだったが。
「〝アイドル活動で世界征服〟って、とっても素敵だと思うわ~♪ あたし、全力で応援するから~♪」
「!!!」
伝説のアイドルは、それまでと全く態度を変えず――否、それまで以上に熱心に指導してくれるようになった。
おかげで、ほんの少しずつ……本当に、ほんの僅かずつではあるが、四天王たちは、歌とダンスが上手くなっていった。
だが、一つ問題があった。
どう考えても、時間が足りないのだ。
その時点で、すでに数十年経っていた。
フェニックス娘であるククスさんは、死ぬ度に炎に包まれ、若返った姿で復活することが出来る。
しかし、レレムさん、スララさん、ガガオさんは違う。
彼女たちの寿命は、人間と同じ程度の長さだった。
そこで、ククスさんは、ある決断をした。
それを聞いた仲間たちは、愕然とした。
「楽しそうなのだ! でも、本当に良いのだ?」
「そりゃあスララたちにとっては願ったり叶ったりだわ。でも、ククスはそれで良いのだわ?」
「正気なのら~?」
ククスさんは、静かに、しかし力強くうなずいた。
「もちろんです! みんなでアイドルになるです!」
その言葉に、顔を見合わせた四天王の仲間たちは。
「分かったのだ! やるのだ!」
「本気みたいだわ! それなら、お言葉に甘えるのだわ!」
「うん。ガガオも、頑張るのら~」
やる気に満ち溢れた顔で、心を一つにした。
ククスさんの決断。
それは。
「立派なアイドルになるために、ククスの〝甦る能力〟を、みんなに分け与えるです! ククスが限界を迎えるまで、何度でも! この力を使って、四人でアイドルになるです! 何千年掛かろうとも!」
自分の能力を無理矢理仲間たちに分け与え続けることで寿命を延ばして、その間にトレーニングを重ねて歌とダンスを窮めて、アイドルになる、というものだった。




