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女魔王と旅館経営~世界樹の中に作った異世界温泉旅館で、濃い仲間たちと共にクセ強お客さんの悩みを解決する話~  作者: お餅ミトコンドリア


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23.「魔王と天使の仁義なき戦い」

 時は少し遡って。

 〝温泉耐久〟が始まる少し前。


 まず俺は、金貨一枚を世界樹ユドルに食わせて、高空に臨む露天風呂を作った。

 魔王とファティルの勝負なので、女風呂のみだ。


 そして、考えた。

 二人きりにしておくと、マズいなと。


 そこで、監督者を一人置こうと思った。


 誰が良いだろうか。

 リアとクークならば、どちらでも問題なく任せられる。

 ただ、受付のリアはともかく、料理を作れるのはクークだけだから、残念ながら無理だな。


 スゥスゥ……は無いな。


 ロッカ、ニコ、ネーモ――木娘ツリーガールズたちはみんなしっかりしているから、任せても良いかもしれない。


 俺が思考を重ねていると。


「なんか面白そうなことしていますねぇ! あたしも一緒に空の温泉入りたいですぅ! とうっ!」


 スゥスゥが再び俺の身体を乗っ取りやがった。

 女体化する俺の身体。


「………………」


 じゃあ、俺がやるか。


 こうして、監督者(兼審判)は俺(スゥスゥに身体を乗っ取られてはいるが)に決まった。

 

 まぁ、逆に良かったかもしれない。


 どちらにしろ、クークは料理担当だし。


 冷静に考えると、温泉に茹でられている二人を見て、「良い出汁が出たのう。あとは湯から出して、切り刻むのみじゃ」とか言って、自慢の包丁で二人を料理しかねないしな。


 木娘ツリーガールズたちには、給仕の仕事をしてもらえば良い。


 そして、よく考えたら、リアにはこの仕事は任せられないんだった。


 何故なら、もし俺がやろうとしていることを知れば、彼女は、「神聖なるユドル様の体液を汚すだなんて! 万死に値しますわ!」とか言って、木の精霊の力を存分に発揮して殺戮を始めてしまう危険性が高い。


 ということで、俺は魔王とファティルが行う〝温泉耐久勝負〟の監督兼審判をすることにした。


 始める直前に、俺は一つ条件を付け加えた。


「ただの〝温泉耐久〟だと面白くない。〝大量に飲み食いしながら〟〝温泉耐久〟してもらう」


「メグル! 直前に何言ってるんだ!」


「そうなの! 話が違うの!」


「あれ~? 二人とも、人智を超えた力を持つ〝魔王〟と〝天使〟だよな? そんなことも出来ないのか? それとも、負けるのが怖いのか?」


「くっ! そんな訳ないだろう! 我は誇り高き魔王だ! それくらい出来る!」


「天使に不可能は無いの! 望むところなの! やってやるの!」


 と、相変わらずのチョロさのおかげで、問題なく〝大食い勝負〟も、追加することが出来た。


 普通に考えると、〝大食い勝負〟とは、〝どれだけたくさん食べられるか〟だが、今回の〝策〟においては、本質はそこにはない。


「よ~い、スタート!」


「勝負だ! 天使!」


「受けて立つの! こんなの、いくらでも食べてやるし、いくらでも入ってやるの!」


 ファティルは堂々と真っ裸で温泉に入っており、同様に一糸まとわぬ魔王も、目の前の勝負に集中しているためか、前回のような恥じらいは見られない。


 そのおかげで、俺も前回ほどはドキドキせずに済んでいる。


 ちなみに。


『あぁ~! 気持ち良いぃ! 最高ですぅ!』

 

 俺の身体を乗っ取っているスゥスゥも、二人と同様、早速温泉に入っている。


 さて。

 〝大量に飲み食いした後にどうなるか〟が、今回の〝計画〟の肝だ。


 当初、〝酒を飲ませて二人ともべろんべろんに酔わせる〟ということも考えたが、普段から見ていると、魔王はかなり酒に強く、『看破ディテクション』で見たファティルのステータスと記憶からすると、彼女も酒豪だ。


 そのため、違う作戦を練る必要があった。


 そこで考え付いたのが、この作戦だった。


 〝温泉耐久〟とは、〝温泉から出てはいけない〟というもの。


 勝ちたければ、何があっても、どんな非常事態でも、決して湯船から出てはいけないのだ。


 クークに頼んで、料理をガンガン作ってもらい、世界樹内を一瞬で移動出来る木娘ツリーガールズたちにお願いして、下層からこの上層へと、じゃんじゃん運んで来てもらった。


 魚介類を使った天ぷら、刺身、寿司、うな丼、世界樹の華・葉・皮・根を使った炊き込みご飯、野菜炒め、味噌汁、それに、〝世界樹のはな〟の花酵母を使った日本酒、などなど。


「フッ。この程度か! 楽勝だ!」


「天使の力を甘く見過ぎなの! こんなの、赤子の手をひねるよりも簡単なの!」


 運ばれてきた大量の料理と酒を、次々と平らげていく二人。


 初日は、何の問題もなかった。


※―※―※


 異変が起きたのは、二日目だった。


「うっ……」


「あっ……」


 本来ならば、今日から二連休だ。


 チェックアウトで、リアと木娘ツリーガールズたちが、他のお客さんたちを御見送りした後。


 リアには、「特に頑張って働いてくれていたからな。せっかくの休みだし、羽根を伸ばしてくれ」と伝えておいた。


 彼女は、「分かりましたわ! この二連休で、存分に堪能させて頂きますわ! ペロペロペロペロペロペロ!」と、〝羽根〟ではなく〝舌〟を伸ばしながら、さっそく自分が敬愛する世界樹ユドルの幹の内部、外部、葉などを、ペロペロと舐め回し始めた。


 クークには、「本当に申し訳ない! 来週とその次は三連休にして、ちゃんと今日明日の分は休めるようにするから!」と、平謝りして、今日明日の二日間を、引き続き料理し続けてもらうことにした。しかも、夜通しで。


「仕方が無いのう。では、〝世界樹の果実〟を食べさせてもらおうかのう。それで引き受けてやるのじゃ」


 クークはそう言って、うなずいた。

 

 万が一の時に使えるカードとして、お客さんにすら食べさせないでおいたものだ。

 

 やはり、いざと言う時のために、切り札は取っておくものだな。


 そして、木娘ツリーガールズにも平謝りして、連休中も引き続き給仕してもらった。これまた一日中ずっと。


 ただ、相手は魔王とファティルの二人だけなので、三人で適宜交代で休憩して欲しい、と伝えておいた。


「ロッカは、旦那さっまがぎゅって抱き締めてくれるんだったら、いくらでも働けまっす」


「ニコも、余分に働く条件に、〝旦那様に抱擁して頂く〟という御褒美を付け加えるという考えに、至りました」


「ネーモも、旦那さ~まにぎゅ~して欲しいで~す」


 なんて良い子たちなんだ。

 俺のハグごときで良ければ、いくらでもあげよう。


 ……何となく魔王の反応が怖いから、彼女がいない場所で、だけどな。


※―※―※


 ということで、初日に引き続き、料理をガンガン作って運んでもらっては、魔王とファティルに食べさせ続けた。


 本来ならば、いかに気持ち良かろうと、温泉に入り続けるなど不可能だ。


 のぼせてしまうし、皮膚がボロボロになり剥がれてしまうからだ。


 しかし、世界樹温泉ならば、〝怪我や病気を一瞬で治す〟効能が〝常に〟得られるために、このような事態には陥らない。


 睡眠不足になり、眠って溺れてしまい重体になったとしても、即座に回復させられるので、絶対に死ぬことはない。


 であれば、何故魔王とファティルに異変が起きたのか?


 それは、生物しての根源的な欲求であり、どうしようもない生理的現象だった。


「も、漏れる……!」


「ヤバ……いの……!」


 そう。

 排泄である。


 食料がほとんどない魔王城の中で千年間も生き延びた魔王は、どうやら何も食べずとも、長期間生きていくことが可能であるらしい。


 が、俺は知っている。

 魔王がトイレに行くことを。


 食事を取れば、他のモンスターや人間と同じく、トイレに行きたくなってしまうのだ。


 更に、ファティルに対して『看破ディテクション』を発動したところ、彼女も魔王と同様の身体能力を有していることが分かった。


 つまり、食べずとも生きていけるが、食べてしまったが最後、必ずトイレにいかなくてはいけない、ということだ。


 その結果。


「ううっ!」


「ああっ!」


 二人は、眉根を寄せ、悩まし気な表情で、尿意と便意を同時に我慢することになった。


 ただ、優しい俺は、両者に伝えてあげた。


「世界樹温泉には、〝汚れ〟を一瞬で〝浄化する〟効力がある。だから、どんだけ漏らしても大丈夫だぞ。一瞬で〝浄化〟して、消滅させてくれるからな」


「そういう問題じゃない!」


「ふざけないで欲しいの!」


 そう。

 乙女にとって、そういう問題ではないのだ。


 漏らした瞬間に、〝全てが終わる〟。


 真剣にそう考え、それ故二人は苦悩しているのだ。


※―※―※


 翌日。

 勝負三日目となった、この日の朝。


「ううううううううううッ!」


「ああああああああああッ!」


 限界が近づいていた。


 だが、俺は容赦しない。


「ま、まだ食べさせるのか!」


「き、鬼畜なの!」


 クークと木娘ツリーガールズたちに頼んで、料理と酒を大量に作り、運び続けてもらった。


 そして、同日の夜。


「も、もう無理……!」


「ゆ、許してなの……!」


「ん? 別に俺は良いが、それは負けを認めるってことか?」


「くっ! 我は認めんぞ! ……うううッ!」


「ファ、ファティルも、絶対に認めないの! ……あああッ!」


 強がるも、どう見ても限界はすぐそこに迫っていた。


 そして。


「ああッ! くうッ! もう限界だッ!」


「で、出ちゃうのッ! いやあああああッ!」


 とうとう、その瞬間が訪れた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 二人は――決壊した。


※―※―※


「……うう……何で我がこんな目に……?」


「……ひ、酷過ぎるの……ぐすん……」

 

 放心状態の二人の目からは、光が失われ、もはや戦う力は残っていなかった。


 新たに運ばれてきた料理と酒に全く手を付けていないことから、俺は判断を下した。


「二人とも、アウト。どっちも失格だ」


 両者揃って負けだと、宣言した。


「くっ」


「くすん」


 目を閉じて唇を噛む魔王とファティルだったが。


「……ファティルだったな。貴様、なかなかやるじゃないか。こんなにも手強いとは思っていなかった。引き分けだ」


「……あんたも結構やるの。思った以上だったの。いい勝負だったの」


 固い握手を交わす二人。


 色んな意味で〝出し尽くした〟二人の間には、地獄の戦場を共に駆け抜けた者にしか築けない、掛け替えのない絆が結ばれたようだ。


 こうして、〝モンスターと人間〟対〝天使〟という、世界を破滅へと誘う戦争は、無事に回避されたのだった。


 そして、この日以来、ファティルの仲間の天使たちが、時々、(泊りではなく)高層にある温泉のみに入りに来るようになった(温泉のみの利用で金貨三枚と、うちの普通(下層)料金の三倍にもかかわらず)。


 高層にある温泉の脇に、天使たち用に入口とベルを設置して、ベルを押せば、下層にある受付担当のリアが気付けるようにして、その都度木娘ツリーガールズたちに知らせて、対応をしてもらうことにした。


 なお。

 身体を乗っ取っとられているとはいえ、ただの人間である俺は、この三日間、どのようにして〝生理的欲求〟を乗り越えたかというと。


『ご飯美味しいですぅ!』


 相変わらず温泉に浸かったままのスゥスゥが、運ばれてきた豪華な料理を勝手に食べて〝食欲〟を満たし。


『ぷはぁ! 五臓六腑にしみわたりますぅ!』


 普段は全てが擦り抜ける五臓六腑に酒をしみわたらせ。


『すぴぃ~。すぴぃ~。……ゴボボボッ! ゲホゲホッ! 危なかったぁ! 死ぬかと思いましたぁ!』


 眠くなり溺れかける度に、〝幽霊ジョーク〟を飛ばしつつ〝睡眠欲〟を満たした。


 ちなみに、もう一つの生理的欲求だが。

 スゥスゥは、()()()()()()()()()()質らしく。


 その結果、どうなったかというと。


『ふぅ~。()()()()しましたぁ!』


 ……推して知るべし、である。


※―※―※


 そして、翌日。

 新たな一週間の初日営業日。


 昨日からずっと、どこかよそよそしい魔王に俺が訊ねる。


「どうかしたのか?」


「なんで貴様はそんな平然としているんだ!」


「え?」


「だって、わ、我は……見られてしまったのだぞ! その……絶対に見られたくない、一番恥ずかしい場面を!」


「ああ、そういうことか」


「そういうことか、じゃない! 一大事だ!」


「そうか? だって、恥ずかしかったかもしれないが、あれを見られようが、お前が可愛くて美人なことには変わりないんだからさ」


「ひゃいっ!?」


「良い女ってのは、多少恥ずかしい場面を見られたくらいじゃ、何も変わらない。そんなことで、本物の魅力は失われないんだ。ほら。今日も着物が良く似合ってるぞ」


 俺の言葉に顔を真っ赤にした魔王は、「そ……そうか……!」と呟くと、今度は満面の笑みを浮かべて、尻尾をぴょこぴょこと動かし、黒翼をバサバサと羽ばたかせた。


 元気になったようで良かった。

 うんうん。


「それと、もう戦争するとか言うなよ? 平和なのが一番なんだからさ」


「分かっている。我もそこまで愚かではない! 同じ轍は踏まない!」


 力強くうなずく魔王だったが。


 この日来た、一組目の四人組のお客さんは。


「魔王さま! さぁ、今こそ、()()()()を成し遂げるです!」


「!?」


 世界征服を目論む、魔王直属の配下である()()()だった。

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