19.「魔法の理由」
俺の言葉に、人魚のお客さん――サクリラさんは、困惑しているようだった。
「一体、何を言って……!?」
ライさんに寄り添う彼女とライさん自身に、俺は声を掛ける。
「全部、彼女の魔法だったんですよ」
俺の背後から魔王が出てきて、俺とクークの隣に並ぶ。
「悪いが、貴様らに掛けさせてもらった。幻術魔法を」
「「!」」
俺は、二人に対して経緯を説明した。
※―※―※
最初にサクリラさんの話を聞いて俺が抱いた疑問。
それは、「ライさんが不老不死になるために人魚であるサクリラさんの肉を食べたがっているというのは、本当だろうか?」ということだった。
世の中には、色んなカップルがいて、様々な愛の形が存在する。
「二人で自殺するのが究極の幸せなんです」
中には、そんな者たちもいるかもしれない。
悲しいことだし、目の前でしようとしたら、もちろん止めるけど。
もしサクリラさんの肉を食べて不老不死になることがライさんの幸せであり、彼にそうさせてあげることがサクリラさんの幸せであるならば、口出しすべきことではないのかもしれない。
まぁ、サクリラさんは肉どころか命まであげようとしていたから、さすがにそれは止めなきゃとは思っていたけど。
そこで、俺はライさんに対して密かにスキルを発動して、記憶を確認してみた。
「『看破』」
すると、ライさんはサプライズをしようとしているだけで、サクリラさんは誤解しているだけだということが分かった。
そのままサクリラさんに伝えることも出来たけど、俺はそうしなかった。
その代わりに、俺は魔王に幻術魔法を使ってもらうことにした。
しかも、痛みすら感じる、現実と区別がつかない高度な幻術魔法を。
「うちの料理人――クークは本物ですが、手に持っている包丁は幻だったんですよ」
俺がそう言った瞬間に、クークが両手に持っていた包丁がフッと消える。
「しばらく触ることを禁じられて、寂しかったのじゃ。眠りにつく時ですら肌身離さずが常じゃというのに」
「うん、それは頭おかしい。寝る時くらいは離せよ、この包丁狂いが」
クークは背中に手を回すと、改めて自分が愛用している包丁を取り出し、その腹に頰擦りする。
「コホン」
咳払いをして、仕切り直す。
二人を――つまりお客さんを騙すことになるが、それでもやるべきだと、俺は覚悟を決めた。
何故なら。
「いかに愛する人のためとはいえ、簡単に死んで欲しくないと思ったからです」
「!」
〝自分が命を投げ出すことで愛する人が喜ぶ〟等ということは、有り得ないからな。
「そう……だね……。あんたの言う通りさ。身に染みたよ。痛い程に」
サクリラさんは、ライさんを見詰める。
先程までその瞳から滲み出ていた悲壮感は消え、ただ愛しい人への想いだけが溢れていた。
「もうこれからは、ライのためだからって、自分を犠牲にしたりしない。二人で一緒に幸せになるのさ!」
「ああ、そうだね、サクリラ。おいらたち二人で幸せになろう!」
抱き合う二人に、俺は安堵の溜息をついた。
「メグルよ。我も幸せになりたいな~。誰かプロポーズしてくれないかな~。チラッ」
「何のアピールだそれは?」
何故か魔王が、頬を赤らめながら上目遣いで見て来たが、俺は華麗にスルーした。
※―※―※
次の日。
サクリラさんとライさんを含むお客さんを全員見送った後。
夕刻になり、営業日五日目が始まった。
今日が終われば、最初の一週間が終了。
二連休となる。
仲間たちと共に、もうひと踏ん張りしよう。
「……本当にこうしなければ、飛べないんだな?」
「無論だ! 仕方なく、だ!」
いつものように、早朝に北の海へと食材を獲りに行く俺と魔王だったが。
最初は片手で、握るというよりも触れる感じだったのが、途中から指を絡ませて恋人繋ぎになり、今では、何故か両手で恋人繋ぎをして、二人とも横を向いた状態でスライドするように飛翔している。
シュールなことこの上ないが、とにもかくにも、俺たちは今日も、無事にたくさん海の幸を手に入れることが出来た。
※―※―※
世界樹旅館の玄関の目の前に舞い降りた瞬間。
「!」
俺は、ある異変に気付いた。
「何枚か若葉を摘んでいくから、先に旅館に戻っていてくれ」
「ああ、分かった」
海水ごと大量の魚介類を旅館内に運んで行く魔王を見送った後。
俺は一人で、反時計回りに世界樹の幹をぐるりと回って歩いていく。
先程、一瞬だったが、向こうの方から俺に対して強引に自分のステータスを見せる者がいた。
間違いなく世界最強レベルの戦闘能力を誇るうちの魔王たちですら、そんな芸当は出来ない。あまりにも時間が短くてステータスの内容までは把握できなかったが。
一体どうやって俺に見せたんだ?
固有スキルだろうか? それとも、何か特殊な種族だろうか?
そのまま少し歩き続けた後。
俺の目に飛び込んで来たのは、地面に倒れている少女。
プラチナブロンドの長髪に、紫水晶色の瞳という、恐ろしく綺麗な顔立ちで白くゆったりとした衣装に身を包んだ彼女だが、驚くべき特徴はそこではなく。
「……助け……て……! ……地上……息……出来……ない……の……!」
必死にそう訴え掛ける瀕死の彼女は、純白の翼が生えた天使だった。




