16.「自分の身体を食べて欲しい人魚」
「そうか。では、遠慮なく、捌かせてもらうとしようかのう」
「いやまて。人語を話す種族を、即座に解体しようとするな」
両手に持った包丁を嬉々として振り上げるクークを、俺は慌てて止める。
「さぁ! ズバッと! 一思いにやっておくれ!」
「あなたも煽るのやめてもらって良いですか、サクリラさん?」
クークを見上げながら両手を広げ、魚の下半身をピチピチさせる人魚に対して、俺は待ったをかけた。
「メグル! き、貴様! 裸の女性を床に転がして、何をしているんのだ!?」
「話がややこしくなるから、お前は入って来るな。むしろ俺は止めてるし。それと、人魚は初めからこの格好だし。転がってるんじゃなくて、足が無いからこれが普通なんだよ」
背後からやって来てよく分からない勘違いをする魔王に対して、俺はげんなりとする。
「とにかく、何があったのか話してもらえますか?」
「ハッ! 仕方が無いねぇ」
そう言うと、サクリラさんは経緯を説明し始めた。
※―※―※
サクリラさんは、この世界樹から見て南東にあるカプティワード帝国の東の海に住んでいるらしい。
姉御肌っぽい言動の彼女だが、ある日、うっかりと漁師たちの魚網に捕まってしまった。
「彼らは、あたいを見て口々に言ったのさ。『これは大きな魚だな。刺身にしてみんなで食おう』って」
「この世界そんな奴らばかりかよ。〝上半身が人間〟の相手を簡単に殺そうとするな」
思わず口を挟み突っ込む俺。
「それで、あたいは刺身になる覚悟を決めたのさ」
「いや、あなたも諦めるの早過ぎでしょ。会話出来るんだから、もう少し粘りましょうよ」
「でも、そんな彼らを止めてくれた男が、一人だけいたのさ。『みんな、やめろ! 彼女は人魚だ! こんな美しい女性を傷つけようだとか、何考えてるんだ!』ってね」
サクリラさんは頬を紅潮させ、うっとりと胸の前で両手を組む。
「それがあの人……ライだったのさ」
そんな運命的な出会いを経て、二人は付き合い出した。
サクリラさんは、現代日本人が抱いている印象とは違って、陸上でも下半身は足に変化したりせずそのままだが、ピチピチと跳ねるようにしながら、器用に歩ける。
だから、陸上でライさんと共にデートをした。
また、ライさんが泳ぎが得意だったこともあり、二人で海の中を泳いでデートをすることもあった。
「幸せだった。本当に幸せだったんだ、あたい……でも……そんな夢のような時間は、長くは続かなかったのさ」
サクリラさんがうつむき、顔を曇らせる。
「ある日。待ち合わせまで少し時間があったあたいは、時間を潰そうと、港町の酒場に寄ったんだ。そしたら、数人の男たちと一緒にいるライを目撃してさ。
声を掛けようとしたんだけど、何かいつもと雰囲気が違う彼に、戸惑っちまって。声を掛けられなかったんだ。
何を話してるんだろうって思いながら、あたいは物陰に隠れて、こっそり会話を聞くことにしたのさ。そしたら……
ライが、『人魚の肉を食えば、不老不死になれる』って言った後に、仲間たちに向かって、こう続けたんだ」
顔を上げた彼女は、俺たちに向かって告げた。
「みんなで、あたいを襲おうって」




