15.「千年前の悲劇」
「アイジェさん。誠に勝手ながら、スキルで記憶を拝見させて頂きました」
そう断ってから、俺は魔王に対して、千年前に何があったのかを説明し始めた。
※―※―※
千年前。
見た目のみならず年齢的にも紛うことなき少女だった魔王――デレカとアイジェさんは、幼馴染だった。
二人はとても仲良しで、いつも一緒に遊んでいた。
まるで姉妹のようで、微笑ましい姿は周囲の者たちを笑顔にした。
だが、ある時。
〝言葉を省略するのがオシャレ〟だと思って、一人遊びをする際にハマっていたアイジェさんは、大好きなデレカが実は〝二千年振りに生まれた魔王〟であると判明したことが嬉しくて、テンションが上がっていた。
そして、デレカを褒めて、褒めて、褒めちぎった。
それまで一度もデレカの前では使った事が無かった〝オリジナル省略言葉〟を使いまくって。
「デレカちゃんの髪の毛、とっても最高♪」
「さ、〝サイコ〟!? サイコパスみたいな髪の毛ってこと!? 我が癖っ毛だからだ……我の見た目は、そんなにヤバいんだ……」
「デレカちゃんったら、本当、麗しい♪」
「〝うわ~〟って、引いちゃうくらいヤバいんだ、我は……」
「デレカちゃん、美形~♪」
「赤子が〝ビイビイ〟泣いちゃうくらい、我は醜いんだ……」
「デレカちゃん、愛くるしい~♪」
「見た人を〝苦しめ〟ちゃうくらい、我は醜いんだ……」
「デレカちゃん、魅力的~♪」
「〝敵〟だと思われるくらい、我は醜いんだ……」
「デレカちゃん、〝華やか〟〝可憐〟〝かわちい〟~♪」
「我はサキュバスだから、すごく〝ハレンチ〟な感じがして最低って思われているんだ……」
激しくけなされたと勘違いした魔王は。
「うわああああああああああああああああああ!!! 『呪術魔法』うううううううううううううううううう!!!」
大きなショックを受けて、〝『呪術魔法』〟を発動してしまった。
しかし、この時点では、事態はそれ程深刻ではなかった。
何故なら、悪魔族であるアイジェさんと違って、魔王は呪術魔法は専門ではなかったからだ。
もしも魔王の『呪術魔法』をそのまま食らっていたとしても、耳がケモ耳へと変化するだけの、大した影響のない物だった。しかも、持続時間は一分足らず。
そのまま受けていれば、何の問題もなかったはずなのだ。
が。
「『呪術魔法』!」
呪術魔法がいかに恐ろしいかを知っている悪魔族のアイジェさんは、とっさに、魔王の呪術魔法を防ごうとして、自分も呪術魔法を使ってしまった。
折り重なる二つの呪術魔法。
それが、事態を急激に悪化させた。
呪術魔法は専門ではない魔王だが、〝圧倒的な魔力量〟と〝天性のセンス〟により、アイジェさんの呪術魔法を吞み込んでしまったのだ。
その結果。
「そんな……!」
〝呪い〟が変化するとともに、強化されてしまった。
アイジェさんは、〝無数の手足が生えた巨大目玉モンスター〟へと変貌し、〝術者が生きている間はその状態が永遠に続く〟という恐ろしい効果を持った呪術魔法を、食らってしまった。
醜く変貌してしまった親友の姿に、魔王は。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
再びショックを受けて、魔王城に〝認識阻害魔法〟と〝不可触魔法〟を掛けた上で、閉じこもった。
と同時に〝毒魔法〟が発動。
無意識に放ってしまった毒が周辺一帯を汚染したため、魔王は慌てて、この土地に住んでいたモンスター全員を、空間転移魔法で毒エリア外へと避難させた。
一方、アイジェさんに掛けられた呪いだが、二人の呪術魔法が合体したためか、決して解呪出来ない強力なものとなってしまった。
その後。
千年が経過した。
そして、ここ世界樹旅館を訪れたアイジェさんは、世界樹温泉の力で何とか元の姿に戻ったのだ。
※―※―※
「……そうだったのか……」
愕然とする魔王が、アイジェさんを見上げる。
「じゃあ……我のことを、怒ってないのか……?」
「え? なんで? だって、あの呪いはアイジェが自分で掛けちゃったものだし」
「でも、我が呪術魔法なんて発動しなければ、あんな事には――」
「それを言ったら、アイジェが変な風に言葉を省略しなければ、デレカちゃんもショックを受けたりしなかったでしょ?」
「それは……そうだが……」
戸惑う魔王の手を取り。
「あっ」
アイジェさんが引っ張って、立ち上がらせる。
「それにね、魔王のデレカちゃんと違って、アイジェは普通のモンスターだから、本当は寿命だってそんなに長くない。
それが、ちょっと個性的な見た目にはなっちゃったけど、これだけ長生きできたんだもん。むしろ、ラッキーだよ♪」
アイジェさんは、想いを馳せるかのように目を閉じた、
「色んな所を旅して、色んな人に会ったんだ♪ みんな初めはビックリするけど、中身が普通の女の子だって分かったら、仲良くしてくれるんだよ?
あと、色んな物を見たのも、楽しかった♪ ……けど、その度に思ったんだ。デレカちゃんと一緒に見たいなって」
「!」
「だからね、お仕事がない時に、また一緒に遊んでくれる?」
「ああ……勿論だ!」
「やったー♪ 近頃〝フェニーチェ〟っていうグループがすごく可愛くて格好良くて素敵なんだ♪ 異世界だと〝アイドル〟って言うんだって♪ 一緒に見ようね♪」
満面の笑みで魔王に抱き着くアイジェさん。
目に涙を浮かべる魔王もまた、優しく抱き留めながら微笑んだ。
※―※―※
翌日、アイジェさんたちお客さんを全員見送った後。
夕刻になり、営業日四日目が始まった。
客室はもう増やさなかった。
最大で四人×四組で、十六人となるからだ。
うちの個性豊かな従業員たちは、みんな優秀だが、きめ細かく質の高いサービスを提供しようとすると、このくらいが限界だろうからな。
この日の最初に来たお客さんは、珍しく、クークに会いたい、とのことだった。
「この旅館には〝凄腕の料理人〟がいるって聞いたんだけど、合ってるかい?」
「はい、確かにいます」
「あたいは、そいつに会いに来たのさ!」
もう噂になってるとはな。
いつも通り受付にて記名と料金の支払いを先に済ませてもらった後。
厨房の近くまで連れて行って、クークを呼んで来ると。
その妙齢のお客さんは。
「あたいを料理しておくれ!」
水色のウェーブが掛かった長い髪の毛により辛うじて胸が隠れるという半裸姿で、魚の下半身をピチピチさせながら、そう告げた。




