13.「巨大な目玉のモンスター」
「はい、仰る通り、ここは温泉旅館〝世界樹〟です。ようこそお越し下さいました」
受付のリアが驚いている中、俺は本日二組目のお客さんである巨大目玉モンスターに御辞儀する。
まぁ、色んなモンスターがいるだろうと思っていたから、これくらいで言葉を失ったりはしない。
っていうか、リアよ。
世界樹関連以外でもお前が動揺することがあったんだな。
魔王を少しは見習ったらどうだ?
ほら、全然動揺していないだろ?
と、俺は思ったのだが。
「よ、よよよよよよく、き、きききききき来たな!」
「めっちゃ動揺しとるやんけ」
魔王は、局地的に地震でも起きたのかってくらい、全身をプルプルと震わせていた。
ちなみに、つい先程来た本日最初のお客さんの接客を、スゥスゥ、ロッカ、ニコ、そしてネーモに任せているため、彼女たちはここにはいない。
魔王と相対した巨大目玉モンスターは。
「ブーブー!」
不満気に声を上げた。
「ヒッ」
その声に、魔王が過剰に反応する。
目玉モンスターは、もしかしたら、魔王に何か恨みでもあるのか?
いや、でも、恨みて。
確かにコイツは魔王だが、千年間ずっと引きこもっていたような奴だぞ?
そんな奴に恨みを抱くことがあるか? しかも、モンスターで。
しかし、実際こうして魔王は狼狽しているしな。
少なくとも、面識はありそうだ。
俺が思考を重ねる中、巨大目玉モンスターは、リアの案内により、受付で名前を書いていく。
無数に生えている手足の一つを使って。
書き終わり、改めて魔王と向き合った目玉モンスターは、数多の手の内の一つで指差した。
「魔王ちゃん♪」
「な、ななななな何だ?」
「ううん。べっつに~♪ ちょっと話したかっただけ~♪」
先程と同じく、見た目と違って可愛い声でそう言った目玉モンスターは、何でもないというように、スキップしながらひらひらと手を振った。
と、そこに、一組目のお客さんの接客をしていたスゥスゥがフワフワと飛んで戻ってきて、目玉モンスターに声を掛けた。
「あたしがご案内しますぅ」
「本当!? ありがと~♪」
うん、一組のお客さんの接客に四人は多いと思ったんだよな。
よくぞ戻って来てくれた、スゥスゥよ。
まぁ、元々俺はただの温泉旅館巡りが趣味というだけの奴だから、まだ人員配置とか、従業員への指示とか慣れてないんだよなぁ。
目玉モンスターは、スゥスゥによって客室へと案内されていった。
二人を見送った後。
「あのモンスターだが……」
魔王が、ポツリとつぶやく。
もしかして、何か恨まれるような心当たりがあるのだろうか?
魔王は言葉を続けた。
「口も無いのに、どうやって喋っているんだ?」
「いや、そっちかよ。確かに気になってはいたけど」
が、全然関係ないことだった。
「もしかして、貴様……我のことを心配していたのか? 心配していた、ということは、結婚したい、ということだな? 何!? そんな、ま、まさか子どもまで!? まだ早いと言っているだろうが!」
「いやだから何言ってるんだお前は?」
何か良からぬ因縁がありそうなお客さんが来たにもかかわらず、魔王は金髪を揺らし頬を紅潮させて身をよじり、通常運転だった。
……いや、もしかしたら、誤魔化すために、わざとそうしているのかもしれないが……
※―※―※
四組のお客さんを迎えて、厨房で料理の出来具合の確認をした後。
まぁ、考え過ぎかもな。
別に、魔王に対して不満があった訳じゃないかもしれないし。
例えば、急に車に乗りたくなって、「ブーブー!」と言っただけ、とか。
いや、異世界で自動車て。しかも、赤ちゃん言葉て。
などと、俺が心の中で、一人ボケ突っ込みをしながら通路を歩いていると。
「た、大変ですわ! すぐに来て下さいまし!」
リアが慌てて走ってやって来た。
「どうした? 〝ユドルと同化する方法〟でも思い付いたか?」
「ああ! ユドル様と!? そんなのもう幸せ過ぎて毎秒昇天してしまいますわ! って、そうではなくて!」
一瞬恍惚とした表情を浮かべ涎を垂らしノリ突っ込みをしつつ、リアが、「本当に大変ですの! 早く!」と、俺についてくるように促す。
「分かった」
一体何が起きたんだって言うんだ?
とにかく俺がついていくと。
「先程の目玉のお客さんが! 〝ユドル様の体液〟に入った後、光り輝いて!」
「うん、〝温泉〟な」
相変わらずおぞましいことこの上ない表現をするリアに、げんなりしながら走り続けると、目玉モンスターの客室へと到着した。
リアが引き戸を開けると。
「え?」
そこには、目玉モンスターはおらず。
「千年振りだね、デレカちゃん♪」
「……アイジェ……」
代わりに、ピンク色のツーサイドアップと病的なまでに白い肌を持つ、ポップな印象の虹色の衣装に身を包んだ美少女モンスターが、両拳をアゴに当てるぶりっ子ポーズで、魔王と対峙していた。




