第6話:赫鬼の群れ
森の中に響く唸り声。
斎宮は赫肢を構えたまま、静かに息を整える。
五体———
視界の端に、赫鬼の影が次々と現れる。
さっきの赫鬼よりも一回り大きい個体が、じりじりと間合いを詰めてきている。
四つ目の獣型、異様に長い腕を持つ人型、這いずるように動く異形……どれもが、人間の原型を留めていない。
「群れで行動する赫鬼なんて、聞いたことねぇ……」
斎宮は唾を飲み込む。
赫鬼は単独で行動するのが普通のはず。
だが、目の前の光景は、まるで「狩り」をする肉食獣の群れだ。
赫鬼たちは、斎宮を試すように囲い込む。
一体でも厄介なのに、五体同時に相手するのは———
「———無理だな」
戦えば死ぬ。
ならば———
「逃げるしかねぇ!」
斎宮は地を蹴った。
一気に森の奥へと駆け出す。
「グギャアア!!」
赫鬼たちが唸りを上げ、追ってくる。
足を止めるわけにはいかない。
振り返る暇もない。
木々の間を縫い、枝を避け、獣道を駆け抜ける。
———だが、その時。
視界の先に、巨大な崖が現れた。
「チッ……!」
行き止まり。
振り返れば、赫鬼たちが迫っている。
詰んだ。
———否。
斎宮は赫肢を自身の腕に巻きつける。
刃ではなく、赫鬼の筋繊維を利用して———
「いける……!」
次の瞬間、崖下へと飛び降りた。
赫鬼たちが驚いたように動きを止める。
だが、斎宮はそのまま墜落することはなかった。
赫肢を崖の岩肌に突き立て、勢いを殺す。
ギリギリのところで宙吊りになりながら、慎重に降りていく。
「……ッ、成功だ」
赫肢を使えば、人間では不可能な移動もできる。
この力を上手く使えば———生存率を上げられる。
崖下に降り立った斎宮は、息を整えながら辺りを見渡す。
その時———遠くに、人の姿を見つけた。
「……あれは」
赫鬼ではない。
まともな服を着た、人間だった。
斎宮は、迷わずその人影へと向かって駆け出した。