第5話:赫鬼の核
赫鬼の肉塊が蠢く。
斎宮は赫肢を構えたまま、じりじりと距離を取る。
赫鬼は真っ二つに裂かれてなお、再生しようと足掻いていた。
裂けた断面から黒い血が滲み出し、内臓が脈打つようにうごめいている。
「……やっぱり、ただ切っただけじゃダメか」
赫鬼の驚異的な回復力。
それを完全に断つには、何か決定的な方法が必要だった。
赫鬼の肉塊が、ぬるりと形を変える。
裂かれたはずの腕が再形成され、四つの眼が斎宮を捕らえた。
「グギャアアア……!」
再び襲いかかってくる赫鬼。
その爪が空を切る。
———避けるだけじゃダメだ。
この怪物を仕留めるには、「核」を潰すしかない。
赫鬼の中心にある“赫核”———それが奴らの心臓のようなものだと、斎宮は直感した。
「なら……そこを狙う!」
赫肢が鈍く光を放つ。
全身の筋肉を締め上げ、一気に跳び込んだ。
赫鬼の腕が振り下ろされる。
しかし———遅い。
「お前の核は……ここだろッ!」
赫肢を赫鬼の胸部に突き立てる。
ズブッ……!!
赫鬼が断末魔のような悲鳴を上げた。
その身体の中心、心臓の位置に相当する部分が、赫肢の刃によって抉られる。
「ギャ……ア……ァ……」
赫鬼の身体が痙攣し、黒い血が噴き出した。
そして、ゆっくりと崩れ落ちる。
「……ふぅ」
赫肢を引き抜くと、赫鬼はもう動かなかった。
やはり、「赫核」を潰せば再生はできないらしい。
「これで……確実に殺せる」
赫鬼を狩る術を知った。
これで生き残る確率が少しは上がる———
だが、斎宮の安堵は一瞬で終わる。
遠くから、異様な気配が迫っていた。
「……嘘だろ」
森の奥から、複数の赫鬼がこちらへ向かってきている。
目だけがぼんやりと光り、獲物の匂いを嗅ぎつけた獣のように低く唸っていた。
「チッ……休む暇もねぇってか」
斎宮は赫肢を握りしめ、次なる戦いに備えた。
赫鬼との戦いは、まだ始まったばかりだった———