12.あてがはずれた(エイダ視点①)
あたしはエイダ。十八歳。
王宮の職員専用食堂で給仕の仕事をしていたの。
自分で言うのもなんだけど、顔も身体もイケてるのよ。
王城勤め人や文官さま、騎士団の騎士さまから声かけられてるんだから! それもイケメンのね!
庭師のダンは、いつもお花くれるし顔はイケてるけどぉ……いつも泥だらけなのが、ちょっと気になるのよね。あたしと会うときくらい手を洗ってほしいなぁ。
文官のフレッドは頭いいし美味しいお菓子もくれるんだけど……彼、平民なんだよね。(って、わたしも平民だけどね☆)
でもね、その中でもイケメンなのが騎士団の第三部隊の隊長さん、デリックさまよ。
シュッとしてて爽やかで、いつもなんかいい匂いがするの。しかも騎士爵位もお持ちなんだって!
なんでも異例の大出世をしたんだって。スゴイよね。
二十九歳で、わたしよりちょっと年上だけど……おとなの魅力ってやつ?
いつもエイダちゃん可愛いねって言ってくれて、デートに誘ってくれて……。
王都で評判のレストランにエスコートしてくれて、うっとりしちゃうの。
でね、彼は奥さんのことで悩んでいるんだって。奥さんは冷たい人でずーっと夜の生活を拒まれてるんだって。可哀想でしょ?
でもね、奥さんも可哀想なの。
だって子どもができないから、もう旦那さまとエッチしたくなくなったらしいのね。
ふたりとも可哀想。
そう思ってたらあたし、妊娠したの!
デリックさまに言ったら喜んでくれてね。
デリックさまに、奥さんと離婚してあたしと結婚してってお願いしたんだ。
でもね、なんだかんだで離婚は難しいって言われて納得できなかったんだけど、一緒に住むことは賛成してくれたの。
第二夫人っていう立場になるけど、それでいい? って聞かれたからオッケーしちゃった。
凄いね、第二夫人だって。
貴族みたい、って思ったけどデリックさまは貴族だったわ。
その第二夫人ならあたしも貴族ってことだよね?
これってすごくない?
デリックさまのおうちは郊外の閑静な住宅街の一角にある一軒家。
落ち着いた風合いの客間とやらに通された。
第一夫人である奥さまにもいちおう挨拶をした。茶色の髪を結い上げて、碧の瞳が印象的な可愛い感じの上品な人だった。なんか文句でも言われるかと思ってたけど、笑顔で『エイダ嬢は客室へどうぞ』とか言われちゃった。
そして翌日には出てっちゃったの。
離婚したんだって。
おばあちゃんのメイドさんから聞いてびっくりしたわ。
でもそれって、あたしが奥さまに勝ったからだよね。やっぱり妊娠したあたしが一番たいせつにされるべきだって、奥さまも思ったのよ。だから身を引いてくれたのよ。
奥さまの使ってた部屋、ドレスもアクセサリーもそのままって感じで残ってたの。ぜーんぶあたしの物ってことで使っていいよね!
婚姻届もちゃんと提出して、あたしがデリックさまの第一夫人になった。
嬉しかったんだ、けど……。
嬉しかったのは一ヶ月くらい。子どもを生んだあたりから状況が変わっていった。
まず、食事が変わった。
冷たいものが増えて、温かいものが減った。
お風呂の回数が減った。
お庭が荒れてきた。
デリックさまが薄汚れてきた。
なんだかぱっとしない。
汚れてくたびれて、ちょっと臭い。
おばあちゃんメイドが赤ん坊の世話で腰を悪くして寝込んでしまった。食事状況がさらに悪くなった。
おじいちゃん執事さんが教えてくれたんだけど、魔石がないんだって。
このうちには最新式の家庭用魔導具がたくさん完備されているんだけど、そのために必要な魔石を使い切っちゃったんだって。
洗濯も満足にできないし、冷蔵庫も動かないから毎日買い出しに行かなきゃダメだけど自分や妻(おばあちゃんメイドさんのことね)には体力的に難しいって。
しかたがないからわたしが買い出しとか調理とかしてるんだけど、あれ? 変じゃない? って思った。
あたし、貴族の奥さまなんじゃないの?
貴族の奥さまって働かないんじゃないの? って。
それにね。
デリックさまが渡してくれるお給料だと、氷の魔石までは買えないんだって。貴族なのに変よね。
おかしいなぁって、思ってたとき。
騎士団から招待状を持った女騎士さまが我が家に来た。
騎士団長さまのお屋敷で行われる夫人会の招待状だった。
騎士団長の奥さまは伯爵夫人なんだって!
女騎士さまはなんだか気まずそうな顔であたしに言った。
『出席すると、たぶん、肩身の狭い思いをすると思います。欠席したほうが身のためです』
だって! なにそれ。わけがわからない。
奥さまの残したドレスがあるもん。行くわよ、夫人会。




