聖女じゃない方の
途中で襲撃があったものの、マルヒヤシンス聖国には無事に辿り着いた。
襲ってきたのは、ステラたちを招いたエコノマーク副司祭とは別の陣営に雇われた者だった。
使節団の誰かを人質にして、自分たちの陣営に寝返らせようとしたそうだ。ひそかに侵入しようと、屋上から降りて三階の窓の外から伺っていたところをステラに気づかれた。女だけなら攫えると思って侵入したが、トラヴィスがいたためあえなく失敗。――という顛末だった。
「いい取引材料ができました」
と言っていたのは、ムスカリラ王国から来たジョージ司祭だ。次代争いで副司祭が勝たないと聖国で聖女制度が始まらない。この襲撃を敵陣営を追い落とすネタに使うのだろう。
使節団の馬車が止まると、集まった市民がわっと沸いた。今朝の出発からここまでずっとパレード状態だった。
「すごい熱気」
「教会の本拠地だものね。副司祭が負けても聖女制度を採用しないと収まらないのではない?」
「確かにそうかも」
ジュリエットとそう話して、馬車を降りる。
そのエコノマーク副司祭が教会の前で出迎えてくれた。
先にアレクシスがジュリエットをエスコートして進む。そのあとに、近衛騎士の制服を着たトラヴィスにエスコートされたステラが続いた。
トラヴィスは紺の制服が似合っている。旅の間中、何度もそう思った。
「何かあったか?」
少しぼーっと見上げていたら、トラヴィスに心配されてしまった。
「ううん。トラヴィスが格好いいって思っていただけ」
「っ! そ、そうか」
小声で話していたつもりなのに、前を歩くアレクシスがごほんと咳払いした。
礼拝室には、聖職者のほか、信者の代表もいた。満席のうえ、壁際には立ち見もいる。
「ミモザナ王国の使節団の皆さんです。ムスカリラ王国にしかいないと思われていた聖女が、このたび他の国々でも生まれることがわかりました。その聖女認定会の様子を紹介してくださいます」
エコノマーク副司祭の隣に立った側近らしき司祭がそう説明した。
アレクシスとジュリエットは一番前の席に座る。ステラと、ネモフィラーゼ共和国で見つかった聖女のアリスが祭壇前に残った。トラヴィスとアリスのエスコート役の騎士は横に避ける。
ジョージ司祭が聖女認定のやり方を簡単に延べる。そのあと、アリスに目くばせした。
「まずは、聖女の見本です」
アリスはマルヒヤシンス聖国の聖女になりたいと自分から志願した人だ。二十歳は越えていると思う。
彼女はゆったりと落ち着いた仕草で女神像の前にひざまずき、女神の足に触れた。
アリスの身体は淡い光を放つ。
何度見ても、誰がやっても綺麗だ。
「おおっ!」
「これが聖女か」
あちこちで声が上がる。
アリスはそっと手を離すと、立ち上がって戻ってきた。
ステラの横に並んでから、わざわざこちらを見て、ふふんっと自慢げに笑う。
アリスが使節団に混ざるようになってから毎回のことで、気づいたジュリエットは憤慨していた。でも、ステラは妹セレナを思い出して懐かしくなってしまう。
「それでは次に、聖女じゃない方の見本です」
ジョージ司祭がそう言って、ステラを促す。
ステラは一度女神像を見上げた。
どの国の教会でも、女神の姿は同じ。ふくよかな体型をたっぷりとした衣装に包み、軽く手を広げている。
ステラは女神に近づき、ひざまずいた。そっと足の甲に触れる。
――女神様。私は聖女じゃありませんが、祈らせてください。
ステラの身体は光らないが、それはそれで礼拝室内はざわついた。
ステラは構わずに、祈りを捧げる。
ここに来るまでにたくさんの人が協力してくれた。
――私に親切にしてくださった皆が幸せでありますように。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。




