アレクシスと国王
アレクシスが執務室に入ると、父である国王は何も聞かずに人払いをした。アレクシスが自分に会いに来た理由に心当たりがあるのだろう。
「パターリアス辺境伯からです」
辺境伯から預かった書状を渡す。
「王妃の件は厳重に抗議するそうですよ」
国王は受け取って、表裏をちらりと見たのち、「後で確認しよう」と手紙を書類入れに入れた。
「これだけか?」
「パターリアス辺境伯令嬢のマルヒヤシンス聖国行きに関して、私のほうで対策を立てるつもりです」
「ほう、お前が?」
「ええ。辺境伯とイストワーズ公爵を相談役とします。詳細をまとめたら、宰相に提出しますので、ご確認ください」
「いいだろう」
鷹揚にうなずく国王に、アレクシスは一度言葉を切ると。
「元アテナリスク公爵の件は、お手をわずらせて申し訳ありませんでした」
「ああ、いい勉強になっただろう。次からは気を付けるように」
友人たちを教材のように言われ、アレクシスは不快に思ったが、それを顔には出さなかった。何か言ったところで疲れるだけで、父には響かない。
アレクシスは一番言いたかったことを口にする。
「私の失態は失態として、王妃もそろそろどうにかしてはいかがですか?」
「どうにか、とは?」
「これを機に陛下の部屋の奥の扉に閉じ込めてはどうですか?」
国王の寝室の奥には、鍵のかかる隠し部屋がある。父が即位したときに作ったそうだ。
アレクシスは幼いころに父に自慢げに見せられた記憶がある。いずれ母を閉じ込めるのだ、と。
「そうなるだろうな」
何でもない予定のように国王は言う。
「結婚して数年ほどで王妃が失態を犯すと思っていたのだよ。こんなに長く続くとは思っていなかった。臣下が皆優秀すぎたな」
私の誤算だ、と笑った。
――気持ちが悪い。
アレクシスはそう思う。この父とあの母の間に生まれたのが自分だ。
「このためにわざと隙を作ったのではないでしょうね?」
ふと思いついて、アレクシスは聞く。
元アテナリスク公爵もこの人が裏で手をまわして煽ったのではないか?
国王は笑った。
「まさか。私はずいぶん信用がないのだな」
「いえ、信頼しているからこそですよ」
アレクシスは話を切り上げると、礼をしてから退出した。
聖女探しは国の事業になる。アレクシスが主導しなくてはならない。
父や母と顔を合わせるとどうしても陰鬱な気分になる。
こんなときはジュリエットを見に行きたいな、とアレクシスは思った。




