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双子の姉妹の聖女じゃない方、そして彼女を取り巻く人々  作者: 神田柊子
第三章 学院の生活

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22/32

夏の学内舞踏会

 ステラはお茶を飲みながら、ため息をつくジュリエットを見る。

 夏休みの前に学内舞踏会がある。ダンスの授業の成果発表と社交の練習を兼ねている。

 ジュリエットはその学内舞踏会に向けて痩せたいとがんばっていた。

「全然痩せられないのよ」

「そうなの? 少しすっきりしたように見えるけれど」

 今日は休日。パターリアス家の王都屋敷にジュリエットを招いてお茶をしていた。

 トラヴィスに対するような気軽な態度で接してほしいと言われて、ステラとジュリエットはお互いに呼び捨てで話すようになった。

「まあ、そうね。引き締まったといえばいえないこともないのだけれど、ぱっと見てわかるほどではないでしょう? もう少し、こう、マーガレット様を見返せるくらいになりたいの」

 学内でアレクシスがジュリエットを特別にかまうようになったため、アテナリスク公爵令嬢マーガレットも「殿下に相手にされていない」とジュリエットに言えなくなった。しかし、あちらがジュリエットを敵視しているのは変わりなく、女子学生だけのダンスの授業などではジュリエットの体型をあげつらう。

「マーサ、何かいい案はある? 侍女長の教えとか聞いてない?」

 ステラは給仕をしてたマーサを振り返った。

「僭越ながらよろしいでしょうか」

 ジュリエットもうなずいたため、マーサは続ける。

「ドレスのデザインを工夫してみたらいかがでしょうか」

「ドレス?」

「ええ。ジュリエット様はフリルの多い服をお好みでしょうか?」

「ああ、これ? 好んでいるわけではないのだけれど、今の流行りでしょう?」

 ジュリエットは襟元のフリルをつまむ。

 学院では制服なので、ジュリエットの私服を見た回数は多くないが、確かにフリルのある服が多かった。

「そういえば、ステラはあまりフリルがある服は着ないのね?」

「そうね。私、流行りとかってよくわからなくて。好み優先なの」

 ステラの王都での服は、ミモザナ王国に来たばかりのときにお世話になった仕立て屋のマダム・ポンパーリーに頼んでいる。

 似合う服と好きな服は別で、すり合わせてより良いものを作るのが仕事だと言っていた。

「ねえ、私が注文している仕立て屋でジュリエットも仕立ててみない?」

「良い考えだけれど、長年注文しているお店だから急に変えたら角が立つわ」

「そうか、そうよね……。あ、でも舞踏会のドレスなんだし、殿下からのプレゼントにしてもらったらどう? それなら何も言えないんじゃない?」

「まあ! いいわね!」

 ジュリエットも手をたたく。

 翌週に再度集まることになったが、マーサが「もう一点よろしいでしょうか」と進み出た。

「以前から気になっておりましたが、ジュリエット様はお目が悪くてらっしゃいますか?」

「いいえ、見えているわよ?」

 マーサはワゴンから紅茶の缶を取ると、数歩下がる。

「こちらの文字がなんて書いてあるのかお読みになれますか?」

「いいえ。そんなに遠くては読めないわ」

「私は読めるわよ」

「まあ、本当に?」

 ステラが読めると言うとジュリエットは驚く。

「遠くのものがぼやけてしまって見えにくい場合、つまずきやすかったりするようです」

「まあ! もしかして私のこと?」

「一度お医者様にご相談されてはいかがでしょうか」

「そうね、そうするわ」

 こうしてジュリエットは眼鏡を使うようになり、何もないところでつまずくことは減った。その結果、ブルーノが胸をなでおろしたのはステラの知らないことだ。


::::::::::


 ジュリエットのドレスも無事に完成して、学内舞踏会当日。

 ステラのもとにはトラヴィスが迎えに来た。

 婚約は内定という状態に落ち着いている。

 王城の貴族籍管理室に婚約証書を提出することもできるが、必須ではない。条件のある政略や、あまたの恋敵を制して婚約した場合など、当事者間や他者から文句をつけられないために書類に残す意味が強い。

 きっとこのままトラヴィスと結婚することになると思う。でも、それは全然嫌じゃなかった。

 こうやってエスコートしてもらったり、お揃いの衣装を着たりするのは、とても楽しかった。

 馬車に揺られながら、ふふっと笑うと、向かいに座っていたトラヴィスが「どうした?」と聞く。

「トラヴィスは深い色合いがよく似合うと思って」

「っ! そうか……」

 ありがとう、とうつむき加減に言われる。

「ステラも似合っている」

「ありがとう」

 濃い青のサテンのドレスだ。スカート部分は、さらに一段濃い色合いのオーガンジーが重ねてある。髪は結いあげて、まとめずにふわふわ巻いて垂らしていた。

 騎士団の休みで屋敷にいたオスカーにも好評だった。

 会場になる講堂に入ると、さっそくジュリエットとアレクシスを見つけた。

 ジュリエットは、縦にピンタックが入ったすっきりしたドレスがよく似合っている。眼鏡が目元の印象をやわらげて、こちらも良い感じになっている。

 トラヴィスにエスコートされて、ステラたちはまっすぐに彼らのところに向かった。

 挨拶を交わしたあと、

「どんなドレスなのか当日までわからなくて、楽しみにしてたんだ」

 ジュリエットを見てアレクシスが笑う。

「公爵家だったら探れたんだけれど、辺境伯家は王都屋敷でも手ごわいね」

 冗談なのか微妙な発言にステラは笑ってごまかす。

 アレクシスはステラにも目を向けた。

「パターリアス辺境伯令嬢も素敵だね」

「ありがとうございます。あの、殿下、前から気になっていたのですが、ステラと呼んでくださって構いませんが……」

 ジュリエットやトラヴィスを通じてそれなりに親しくなったと思っていたけれど、アレクシスはステラをずっと家名で呼んでいた。

「私は、自分以外の男がジュリエットを名前で呼ぶと不愉快に思うから、トラヴィスもそうかと思って遠慮していたんだ」

 ときどき飛び出すこういう発言に、ジュリエットはまんざらでもなさそうだ。うまくいっているようでよかった。

「トラヴィス、どう思う? 私もステラって呼んでいいの?」

「お前ならいいよ。許す」

「うん、許された。それじゃあ、ステラ。今後ともよろしくね」

「はい。よろしくお願いいたします」

 そうしているうちに舞踏会は始まる。学長の挨拶があり、曲が流れ出し、ステラはトラヴィスに誘われてフロアに出た。

 踊りながら気になっていたことを聞く。

「トラヴィスは二年前まで公に出ていなかったのよね? 殿下とは昔から仲が良かったんでしょう? どうやって知り合ったの?」

「ああ。どこかの茶会でジュリエットを見初めた殿下が、公爵邸に忍び込んできたのを捕まえた」

「まあ……」

 そのふたりは楽しそうに踊っている。

「あいつらのことはもういいよ。ステラ、こっちのダンスに集中してくれ」

 近くで見下ろされ、ステラは頬を染めてうなずく。

 そういえば、レッスン以外で初めて踊った異性がトラヴィスなのだった。それがうれしくて、ステラは微笑んだ。


 一曲踊って壁際に避ける。アレクシスたちも戻ってきた。

 軽食でもつまむかと話していたところで、令嬢が数人近寄ってきた。そのうちのひとりはマーガレットだ。ジュリエットが身構えるものの、いつもと違って彼女たちはトラヴィスに向かう。

 マーガレットに背を押された一人が、トラヴィスに話しかけた。

「あの、トラヴィス様、一曲踊っていただけませんか?」

「いや、申し訳ないが、ステラとしか踊らないことに決めている」

 トラヴィスは間髪入れずに断った。

 それはそれでうれしいが、社交の練習なのだから踊ってもいいのではないだろうか。

 勇気を出して声をかけてきた令嬢に威圧するような態度なのもどうかと思う。

「トラヴィス、私はここで待っているから」

「だめだ。俺が他の令嬢と踊ったらお前だって他の男と踊るだろ?」

「踊らないわ」

 トラヴィスは頑として譲らず、いたたまれない様子でうつむいていた令嬢に向き直ると、

「俺とステラは婚約するんだ。だから他の令嬢とは踊れない。申し訳ない」

 そう頭を下げた。

 最終的に断るならもっと軽く流せるような雰囲気にするべきだった。たぶんステラが悪手を打った。

 どうするか、とジュリエットと目くばせしあったところで、ずっと黙っていたマーガレットが口を開いた。

「トラヴィス様はご存じないのかしら? だからステラ様と婚約なんておっしゃるのね」

 何を言うのかと皆が注目する。

「ステラ様は聖女じゃないから捨てられたんでしょう? それを隠して次期公爵と縁を結ぶなんて、だますようなものなんじゃありません?」

「聖女……?」

 ミモザナ王国では全くなじみのない聖女という単語に、トラヴィスが怪訝な顔でステラを振り返った。

 ステラは真っ青になっていた。

 ――聖女じゃない。

 久しぶりに言われた。

 ステラの中ではもう終わった話だと思っていた。だからトラヴィスに話さないとならないことだと思い至らなかった。

 そのくらい忘れていたのだ。

 それなのに、今またショックを受けている。

 ――私、まだ聖女に未練があるの?

 ステラは、言われたことそのものよりも、自分がショックを受けた事実に打ちのめされる。

「ステラ様はトラヴィス様にはふさわしくないと」

「黙れ」

 低い声で短く、マーガレットを遮ったのはアレクシスだった。いつもの口調と全く違う。

「アテナリスク公爵令嬢、その話はどこで聞いた? 誰からだ?」

「え……」

「いや、いい。ここで答える必要はない。別室を用意しよう」

 マーガレットを含む令嬢全員の顔を順番に見てから、アレクシスはジュリエットの腕を軽く叩いた。

「ジュリエット、学院の職員に頼んでどこか部屋を開けてもらってくれるかい?」

「はい。承知いたしましたわ」

 さすがのジュリエットは動揺を見せず返事をした。彼女が歩き出そうとしたところ、前方から職員がやってきた。近衛騎士を連れている。

「殿下」

 騎士が近づいて、アレクシスに耳打ちした。

 アレクシスの表情がいっそう厳しいものに変わる。

「学院はどうする?」

「舞踏会は切り上げていただくことになりました」

「わかった。この令嬢たちは別室へ」

 騎士に指示を出してから、アレクシスは振り返り、

「ジュリエット、トラヴィス、ステラは一緒に来てくれ」

 ステラはなんとかうなずく。

「ステラ、大丈夫か?」

 トラヴィスが背中を支えてくれた。

 講堂を出て、辺りに人がいない廊下で立ち止まり、アレクシスが言った。

「王都の隣町で、瘴気溜まりが見つかり、魔獣が大発生している」


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― 新着の感想 ―
[一言] アレクシスが本当に気持ち悪いな!!出会いがそれってどうよ!??びでーな!! でもそんなところも好きなんだろうなぁ…。すげー権力も地位もある男が自分にだけ本気になるって乙女の夢ですもんね…。実…
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