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双子の姉妹の聖女じゃない方、そして彼女を取り巻く人々  作者: 神田柊子
第三章 学院の生活

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19/32

ジュリエットとの出会い

 十五歳を迎える春。ステラは学院に入学した。

 入学式が終わって、教室で明日からの説明を受けたら、今日は終わりだった。

 今日のように皆が一斉に帰る日は馬車が混むと聞いていたので、ステラは少し時間をずらして帰るとマーサに告げていた。

 ステラは図書館の横手の庭に来ていた。

「ここがお父様とお母様の思い出の場所なのね……」

 クスノキが一帯に植えられている。具体的にどれかはわからないけれど、木に登っていたクレアが木の下にやってきたダレルに話しかけたのが出会いだと聞いた。

 詳細は秘密と言われて教えてもらえなかったのだけれど、あまり一般的でないことは確かだ。

 ――私に登れるかしら?

 マーサに絶対に登らないようにと言い渡されているのでやらないけれど、ステラは木を一本一本吟味しながら木立の中を歩いて行った。

 パターリアス辺境伯家に引き取られて二年。

 日々の運動は続けているが、体力づくり程度だ。あとは最低限の護身術くらいか。剣は危ないからと触らせてもらえなかった。木登りはこっそりクレアが教えてくれた。

 木立は少しひんやりしていて、風が気持ちいい。どこかで咲いている花の香りが飛んでくる。地面は踏み固められており歩きやすかった。

 トラヴィスに会えたら、ここでピクニックするのもいいかもしれない。

 おととしの夏、トラヴィスはステラの怪我が治る前に帰ってしまった。去年は来なかったため、あれ以来会っていない。

 彼はステラに家名を教えてくれなかったけれど、あとでダレルからイストワーズ公爵家の嫡男だと聞いた。

 トラヴィスは存在を公にされていなかったようで、ステラが覚えさせられた高位貴族の令息名簿には載っていなかった。しかし、最新の貴族年鑑には次期公爵として名を連ねていた。後継争いは落ち着いたようだ。

 ステラはぐるりと周辺を歩いて雰囲気を堪能してから、木立を出ようとして足を止めた。

 話し声が聞こえる。

「殿下に相手にされていないのですから、自ら身を引いたほうが良いんじゃありません?」

「マーガレット様のおっしゃる通りですわ」

「その体型ではねぇ。殿下が嫌がられるのもわかりますわ」

「本当にそうですわね、マーガレット様」

「あら、私たちの婚約は政略ですもの。相手にされるかどうかなんて考慮に値しませんわ」

 令嬢が四人。見たところ、二人はステラと同じクラス――上位貴族家の令嬢――だ。

 出て行って止めたほうがいいのか、このまま隠れていたほうがいいのか迷う。

「それに私が辞退したからって、あなたが選ばれると思えませんけれど? 私が婚約者に決まる前、あなたは候補にも上がっていなかったですわよね」

 つんっと顎をあげて言い返したのは、イストワーズ公爵令嬢ジュリエットだった。

 トラヴィスの妹で、王太子の婚約者。

 つまり、この口喧嘩の中心になっている婚約の相手は王太子なのだ。

 アテナリスク公爵令嬢マーガレットは反論できなかったようで一度押し黙ると、「いい気にならないことね!」と残り二人の令嬢を引き連れて去っていった。

 ミモザナ王国に公爵家は五つある。そのうち、王太子と年周りの近い令嬢がいるのが、イストワーズ家とアテナリスク家だ。ライバル同士なのだろう。

 ロマンス小説に出てきそうな場面だったわ、とステラは感心する。

 小説だと、気弱な令嬢が一方的に責められているところにその婚約者の令息が登場して助けてくれる展開なのだけれど、ジュリエットはひとりで言い込めてしまった。

 ――王都の社交界って大変ね。

 ステラが学院入学までに参加した茶会は、辺境伯家で主催した領内の下位貴族家との茶会くらいだ。結局ステラは領地を出ることなくすごした。

 マーガレットたちを見送ったジュリエットは、くるりとこちらを振り向いた。

「どなたかいらっしゃるのでしょう? 出ていらっしゃいませ」

 そう声をかけられて、ステラは身を小さくしながら木立から出る。気づかれているとは思わなかった。

「失礼いたしました。偶然通りかかってしまって、出るに出られず……」

「いいえ、こちらこそお見苦しいところを」

 ジュリエットはステラの顔を見て、

「あら、あなた」

「教室で自己紹介はしておりますが、改めてご挨拶いたします。パターリアス辺境伯家の長女ステラと申します」

「イストワーズ公爵家のジュリエットですわ」

 社交的な笑みを交わして、ジュリエットの出方を見る。彼女にすぐに立ち去ろうとする気配がなかったので、ステラは無難――ではないけれど順当な話題を出した。

「先ほどの方は、アテナリスク公爵令嬢でらっしゃいますよね?」

「ええ、そうですわ。いつもああやって突っかかってきて困っておりますの」

「まあ」

「あなただから言いますけれど、殿下が私に興味がないのはわかっているのですよ。それでも、結婚しなければならないのが王族でしょう? 私だって愛されない結婚なんてしたくはないのに」

 なかなか重い話だ。しかし、「あなただから言いますけれど」の枕詞がステラは気になった。ジュリエットとは初対面のはずだ。誰かと間違えていないだろうか。

「あの、私だから、とは?」

「え? あなたはステラ・パターリアス様ですわよね?」

「はい」

「お兄様――トラヴィス・イストワーズはご存じでしょう?」

「はい。トラヴィス様はお元気でらっしゃいますか?」

「ええ、元気ですけれど……」

 ジュリエットは困惑した様子で、

「連絡はとってらっしゃらないの? お手紙ですとか……あなた宛てでなくても辺境伯宛てに何か届いていたり……」

「いいえ。特に何もございませんが……」

 ステラがそう答えると、ジュリエットは少し考えるようにしてから、

「失礼いたしました。お手紙は私の勘違いでしたわ」

 それから、ステラに頭を下げた。

「あなたのことは、兄から聞いております。辺境伯領では大変お世話になったそうで、私からも感謝申し上げます」

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、領地内での不手際、申し訳ございませんでした」

「いいえ、ご迷惑をおかけしたのはこちらですわ。お怪我はもうよろしいの?」

「はい。とっくに治っております」

 頭の下げ合いになったのがおかしくて、ステラがふふっと笑うと、ジュリエットも微笑んだ。

「このお話はもうおしまいにいたしましょう」

「はい。ジュリエット様はこのあとは?」

「私はもう帰る予定ですわ。あの方たちに呼び出されていなかったらもっと早く帰っていたのですよ」

「そうなのですね。馬車停めまでご一緒してもよろしいですか?」

 ステラとジュリエットは歩き始める。

 同じクラスの女子と仲良くなれそうでステラはほっとした。

 歩き出してすぐ、

「きゃっ!」

 隣を歩いていたジュリエットがつまずいた。

 ステラは転びそうになった彼女の腰を支え、なんとか倒れずに済んだ。

「あ、危なかったですね……」

「ええ、ありがとうございます。私、よくつまずいたり転んだりするのです……」

「まあ」

「ステラ様は力持ちでらっしゃるのね」

「そうでしょうか。普通だと思うのですが……」

 ジュリエットは意を決したように両手を握ると、「あなただから聞きますけれど」とステラを見た。

 また「あなただから」と言われて内心首を傾げながら、

「はい、なんでしょうか」

「どうやったら痩せられるかしら?」

 先ほどマーガレットが攻撃の種にしていた通り、ジュリエットは少しふくよかだった。

 でも、教会の女神像よりは痩せている。食事に気を配ったり運動したりすればすぐにすっきりするのではないだろうか。

「まずは運動でしょうか」

「運動……」

 苦い顔をする彼女に、

「あとは甘いものを控えたり……」

「…………」

 無言になってしまったジュリエットに、ステラは、

「もしよろしければ、侍女長のダイエット特訓で使う、あまり太らないお菓子のレシピをお持ちしましょうか?」

「本当に? よろしいの? 秘伝ではなくって?」

「いいえ、領地では領民も受けられる人気の特訓です」

 ジュリエットはステラの両手を握りしめた。

「ステラ様、お友だちになりましょうね!」


 ステラは馬車に乗ってから、マーサとブルーノにジュリエットと仲良くなったことを話す。

「ジュリエット様は何もないところでよくつまずかれるんですって」

 ブルーノが「ああ、それをお嬢様が助けるんですね。最悪の組み合わせですね……」と小声で言っていたけれど、ステラには聞こえなかった。

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