手慣れた仕事 その1
とある大病院の廊下に「立入禁止」とデカデカと印刷された黄色と黒色のテープが貼られている。廊下の壁から壁に貼られ人の往来を断ち切ったそれらの周りには、その内側にある一つの部屋を守るようにして二人の警官が立っている。何よりも異質なのが、その部屋の扉から得体のしれない紫色の光が漏れ出ていることだ。異様な光景になんだなんだと野次馬にきた人々は、「なんの光だ......?」「怪しい科学実験かしら」「ドラマの撮影かもよ」「ここで亡くなった患者の亡霊の呪いじゃ......」などと口々に騒いでいる。
普通なら静かなはずの病院がガヤガヤし始めてからしばらくすると、患者や看護師その他諸々の群衆をかきわけて異変に近づこうとする者が現れた。「すまない、通してくれないかい」と口にしながら進むのは、赤色の長い髪を一本に束ねた長身の若い女。シルクの薄い黒色のシャツに黒のフレアパンツを身に着けた彼女は人混みを脱出し、ずれてしまった茶色のキャスケット帽を正しくかぶり直す。新たな展開の予感に野次馬たちは少し沸き立つ。
「やあどうも。私が有神探偵事務所代表取締役の有神イロハだ。」
彼女が警官にそう告げ、ウエストポーチから取り出した名刺を渡す。警官はその名刺に目を通すとイロハに向かって敬礼した。
「有神イロハ様ですね、お待ちしておりました!どうぞお入りください!」
ありがとう、と告げてイロハは身をかがめて虎柄のテープをくぐる。そして紫色の光が漏れ出る病室の扉をなんのためらいもなく開き、中へ入っていった。
その様子を見守っていた群衆の中のひとりの少年は、彼の、皆の疑問を警官にぶつける。
「おまわりさん、さっきの人だれ?」
「あの人はね、『夢探偵』だよ」