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聖女はとっくに召喚されている。日本に。【コミカライズ】  作者: 守雨
第一章 魔法使い、日本に放り込まれる

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8 八百万の神々が共存する国

「あら、ラー油のお土産? ありがとうね、レイちゃん」

「由紀子ママ、このラー油好きでしょ? 出先で見かけたから」

「よく見てるわねえ。これ大好物なのよ。佐乃原に行ったの?」

「ううん、九つ星神社に行ったの」


 佐乃原は九つ星神社の近くの観光地だ。

 今夜のスナック由紀子は空いている。カウンターにはレイと常連のご老人の二人だけ。他に客はいない。レイが玉絞りという低温圧搾ラー油を手渡すと、由紀子ママは嬉しそうな顔になった。


「九つ星神社、私も好き。何度も行ったわ。霊験あらたかって感じよね。よかったでしょう?」

「はい。清々しい神社でした。そこでね、変な人に声を掛けられたの。金色の光が見えるとかなんとか」

「なにそれ」


 苦笑するママ。その時、椅子を二つ挟んだ先に座っているご老人がこちらに顔を向けてきた。


「あそこの海獣昆虫鏡が金色の光を出してるって話だろう?私も聞いたことがある。昔からそれは有名だよ。インターネットで検索してみると出てくるはずだ。光を見るために超能力があると自称する人が全国から来るようになったらしいぞ」

「ああ、そういう……」

「若い人は自分が特別だって思いたいのよ、シゲさん。そういう時期ってあるから」

「ふふふ。まあな」


 この世界の超能力はたいていマジックだ。すくなくともレイが見た動画は全部マジックだった。


「そういえば今日、その超能力の集まりが近所の区民ホールで開催されてるんじゃなかった? 商店街にお知らせがきてたわよ」

「全国から厄介な若者が集まってるのかい? それはまた」

「さすがに超能力者の集まりと申請しちゃうと区民ホールの使用許可が下りないから『超能力研究の集い』とかいう名前だったかな」


 シゲさんと由紀子ママが苦笑している。

 レイはなんとなく胸騒ぎがした。心の声が『早く帰った方がいい』と催促するのだが、今夜はなんとなく人恋しくて(あと少しだけ)とカウンターに座っていた。


「こんばんはー」

「いらっしゃいませー」


 スナックのドアが開いて三人の若い男性が入って来た。

 レイはそちらを見て一番後ろにいる男が昼間に声をかけてきた天然パーマに眼鏡のあの若者であることに気がついた。

(うわっ、めんどくさっ)


 レイは慌ててお財布からお金を取り出してカウンターに置き、つり銭はいらないと告げて顔を背けながらドアに向かおうとした。

 だが運は眼鏡の方に味方したらしい。


「あれえ?昼間のお姉さんだ。偶然ですねえ」

「アキラ、知り合いか?」

「今日の昼間、九つ星神社で会った人です。具合悪そうにしてたから光が見えたのかなって思って声をかけたんですよ」

「お前、集会に来ないと思ったらそっち行ってたのか」


(詳細な説明をするのはやめなさいよ)と思いながらその三人に記憶阻害の魔法をかける。三人の若者の表情が少しだけぼんやりしたものになった。


「じゃ、ママ、シゲさん、おやすみなさい」

「はあい、またね」


 若者たちは追ってくる気配がなかった。

 少し歩き出したところで背後のドアが開いたのを察知する。記憶阻害の魔法を強めにかけるしかないか、とため息をつく。魔法発動の準備をしながら振り向くと、そこに立っていたのはシゲさんと呼ばれているご老人だった。

 いそいで笑顔を作って足を止めると、シゲさんは歩み寄りながら話しかけてきた。


「金色の光が本殿から四方八方に出てたんだろう?あそこは特に霊力が強いから。敏感な人は体調を崩すこともある。具合が悪くなったのなら気をつけるといいよ。東京にもいくつかそういう場所があるからね。じゃ、おやすみ」

「はぁ。おやすみなさい」


(シゲさんは見えるってことだろうか)

 レイはシゲさんというこのご老人にも魔法をかけておくべきか迷ったが、常連中の常連だからやめておいた。繰り返し記憶阻害の魔法をかけるには年をとり過ぎていて危険だ。脳の働きが継続して悪くなる。それに、それ以上は老人が絡んでこなかった。


 帰宅途中にスマホで猛烈に検索する。

 九つ星神社はやはり霊力が強いと評判だった。その光が見えた、とする書き込みもちらほらあった。


「日本人にはアレを見える人がいるんだ。何パーセントくらいの人が見えるんだろう」


 八百万(やおよろず)の神を信仰すると言われる不思議な国民、日本人。唯一の神ラーシェを信仰する世界から来た身としては、常々その精神構造を不思議に思っていた。

 石にも木にも神が宿ると当たり前のように信じるこの国の人たち。なんにでも神がいると思っているのに揉めないのか。どの神が一番かと争う様子もない。

 信仰心が無さそうな由紀子ママでさえ酉の市にはきらびやかな熊手を買ってきて飾っているし、カウンターの上の方には防火の神が宿るというお札を貼っている。


「もしや私、不思議の国に飛ばされたのかしら」


 つぶやきながら歩く帰り道、小さな四つ角に道祖神があるのに気付いて眺める。古すぎて表情が読めないほどすり減っている道祖神は、いったいいつからここにあるのか。百年か、二百年か。安全で文化レベルが高くて優しい国だと思ってたけど、様々な神がたくさん共存している謎の国なのかもしれないと思う。




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『コミック 聖女はとっくに召喚されている。日本に。』
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