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聖女はとっくに召喚されている。日本に。【コミカライズ】  作者: 守雨
第一章 魔法使い、日本に放り込まれる
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5 保険調査部

「前田さん、どういうことです?レイって女性のこと、なんで掴めないんです?何度もスナックで顔を合わせてるんでしょう?」

「そうなんだけどさ。なぜか店を出ると顔を思い出せないんだよ。会話もおぼろげにしか思い出せないし」

「もう。なんですかそれ。前田さんともあろう人が。超小型カメラは? レコーダーも仕込んだでしょう?」

「仕込んでるって。でも、相手の顔がぼやけてて解析してもどうにもならないんだよ。レコーダーも同じく。ザーザーいう雑音だけなんだ」


 そう言って保険会社調査部の前田は部下に印刷した画像を見せる。

 目の粗いネットを被った女性の上半身が印刷されているが、肝心な顔の部分がぼやけている。レンズにべったりと指紋が付いていたかのようなぼやけ方だ。


「ちゃんと事前にレンズ拭きました?」

「拭いたよ! 当たり前だろう? 直前に動作確認だってしてんだよ。なのにさ」

「毎回顔が写らない、ですか。もう、『占ってもらうとなんか調子がいい』なんて喜んでる場合じゃないですって」


 後藤工業社長からは自殺未遂のあと、保険金の請求はなかった。死ななかったから当然と言えば当然だ。

 後藤工業は破産手続きをして会社を畳んだ。保険会社としての損失はなかったのだが、警察から仕入れた情報に怪しい点があった。


「後藤社長は練炭自殺を図って焼酎を大量に飲んだはずなのに、血中アルコール濃度はゼロ、血中の一酸化炭素濃度も全く問題なしって、おかしくないですか?」

「絶対におかしいな」


 すわ狂言自殺か?と調査部が色めき立ったが、後藤元社長は一円の得もしていないので理屈が合わない。


「助けたって女性はどういう人物だ?」

 と一人が言い出してその女性を調べた結果、これがきわめて怪しかった。五年前に海岸で保護され、過去の記憶が一切無いということで仮の戸籍と名前を与えられて暮らしている。


「この女が協力して狂言自殺をしたけど直前で仲間割れしたとか?」

「この女性が今後も似たような手口で加担するかもしれないな」


 さりげなく彼女の職場に出入りしている運送会社の若い男に聞いてみた。


「レイさんスか?美人スね。大食いッス。地味に暮らしてるみたいスよ。いつもドカ弁持参してるッスね」


 女性が通っていた保護司に聞いても「実に真面目な頑張り屋さんですよ」と、こちらも高評価。

 ところがある日、彼女の動向を探っていたら、夜に通夜客みたいな服装でスナックに通うことが判明した。週に二度か三度。店の客に聞くと占いをしているという。

 占い? と思ってそのスナックのママに話を振ってみたら

「レイちゃんはね、不思議な占い師さんなの」

 としか言わない。水割り一杯で粘って他の常連客に尋ねると

「ああ、具合が悪いところが楽になるんだよ。あんたも一度受けてみたら?肩こりも腰痛もすっきりするよ」

 と言う。


「なんか怪しい薬でも使ってるんじゃないか?」

「これは詐欺よりそっちかもな」

 という話の流れで保険会社調査部から馴染みの刑事に話が行った。事件ではないものの情報収集という名目で薬物事件を担当する刑事が何度か夏川レイの占いを受けてみたのだが。


 あやふやな占いをするだけで薬物を飲み物に入れられることもなかった。

 他の客が言っていたように、本当に疲労感や腰痛が楽になった。

 念のために彼女の指紋もスナックで使われたグラスをこっそり持ち帰って調べたが、前歴なし。ただただ「怪しい」というだけで「夏川レイは真っ白」という無駄足に終わった。

 ちなみに夏川レイは質素な生活をしているのは本当だった。スーパーでたびたび見切り品を購入している。


「でもおかしいでしょう。毎回顔が写らないって。なんかやってんですよ。録画機器を誤作動させるような何かを使ってるんじゃないですかね」

「彼女が訓練を受けた施設で聞いた話だと、パソコンもスマホも使い方をイチから教えなきゃならなかったらしい。見るのも初めてみたいな様子だったって施設職員の全員が口を揃えてた」

「そんな人、いるわけないじゃないですか。成人の儀式でライオンと戦うと言われてるマサイ族だって今やスマホを操る時代ですよ?」

「最近のマサイ族はそんなことしないって。俺、マサイ族の青年が書いてるブログ読んだことあるぞ」


 こうして夏川レイは某保険会社の調査部と地元警察署の刑事に怪しまれたものの、調べれば調べるほど「何もしてない」ことしか出てこなかった。


 ◇ ◇ ◇


「最近立て続けに隠しカメラとか録音機とか仕込んでるお客さんが来たけど、何かしら。私、法に触れることはやってないのに」

 

 夏川レイは今夜もスナックで占いをして小銭を稼いだ。

 そう、レイは法には触れてない。何しろこの国では魔法を使ってはいけない、という法律はないのだから。


 占い客の悪いところを探る際に全身を透視するのだが、その際に見つけた作動中の録画録音機器には顔や声が記録されないように魔法をかけておいた。電子機器は魔法の影響を受けやすい。作動部分に弱い魔法をぶつけるだけで働きが阻害される。

 そして占い客の誰に何を聞かれても「私の占いを受けると具合が良くなる」とは絶対に言わないようにしている。相手の自分に関する記憶も薄れるように魔法をかけている。備えは万全だ。


「さて、今夜は贅沢して映画を観ちゃおうかな」


 夜遅い時間だと映画の料金が少し安くなる。

 独り者の特権だから利用しなければ、とレイは『魔法使いの少年少女が集まる学校』の映画を観に行く準備を始めた。


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『コミック 聖女はとっくに召喚されている。日本に。』
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