21 山菜の天ぷら
その男性は体格が良く、角刈りの髪型。
由紀子ママとレイにつかず離れず山菜を採っている。それを由紀子ママが訝し気な顔で見ている。
「ママ、どうかしましたか」
「んー、ケチくさいこと言うようだけどね、普通、山菜を採る時は離れて採るものなのよ。だけどあの人、ずっと私たちから離れないでしょう。地元の人じゃないのかしらね」
レイは別の答えを考えていた。
アレたちがジリ、と距離を詰めてきた時を見計らったように登場し、その瞬間にアレたちが消えた。もしかしてアレらを追い払うために来てくれたのではないか、と思っていた。
(考え過ぎかな。そんなにあちこちにアキラ君みたいな存在がいるわけないのに。最近アレのことばかり考えてるから)
ママの背負っている大きな籠がいっぱいになり、レイが交代して籠を背負う。竹製の籠がずっしり重くなっている。
ママが籠を覗き込んで満足げにうなずいてから男性に声をかけた。
「じゃあ私たちは帰りますね。お先!」
「はい。ご一緒してくれてありがとうございました!」
ママと男性が声を掛け合うのを眺めていたら、男性が腕で押さえていた木の枝が跳ね返って、ピシリと男性のおでこを強かに打った。男性がおでこを撫でながらこちらを見て苦笑していた。
来た道をたどってママの実家に帰る途中、保育園の赤ちゃん組がリヤカーのようなものに乗せられてこちらに向かって来た。
「こんにちはー」
「こんにちはー」
「ばいばい」
「ばばーい」
リヤカーを引いている先生とママが挨拶をする。子どもたちも回らない舌で挨拶をする。田舎は知らない者同士が当たり前のように挨拶をするんだな、と微笑ましくなる。歩くか歩かないか、くらいの小さな子どもたちがリヤカーの枠につかまってこちらを見ている。ぷくぷくの腕を必死に振っている子もいる。とても微笑ましい。
「そうだ、レイちゃん。父のお墓にお参りしていいかしら」
「もちろんですよ! 私にもお参りさせてください」
保育園の手前を左に折れてお寺の境内を目指して歩いた。車も入れるようにコンクリートが打ってある道の右側に、六体のお地蔵様が並んでいた。生花が手向けられている。赤いよだれ掛けをしたお地蔵様の前には小さな器。水がなみなみと入っている。
一番右端のお地蔵様の頭にしおれたシロツメクサの冠が載っていて、レイがギョッとする。
「まさかね」
「ん? なんか言った?」
「ねえ、由紀子ママ。保育園の子どもが先生なしで園から出て遊ぶことってありますか」
「あるわけないじゃない。このご時世よ? そんなことを許して怪我でもしてごらんよ。こんな田舎だって裁判になるわ」
「そうですか」
じゃあ自分が追いかけっこしたあの子どもたちは何だったのか。一時間は遊んでいたはずだ。そうだ、あの子たち、何人いた?とレイは子どもの顔を思い出す。
冠を載せてあげた小さな女の子。
リーダー格の男の子。
髪をツインテールにした女の子。
シュッとした顔の男の子。
坊主頭の男の子。
おかっぱの女の子。
指折り数えてちょうどお地蔵様と同じ六人なことに気づき、ゆっくりお地蔵様を振り返る。
「あははは」と子どもの笑い声が聞こえた気がして、また固まる。
「レイちゃんこっちよ」
「はい」
ママさんのお父さんのお墓にはシャキッとした生花が供えられていて頻繁にお参りされているのがわかる。
ママはハンカチをポケットから取り出して水場で濡らし、墓石をゴシゴシと拭いた。それからお墓の前にしゃがんで、手を合わせた。
「父さん、夢枕に立つ時は私のとこに来なさいよ。若い美人さんがいても娘のとこに来るのが礼儀ってもんよ」
ママの声が柔らかい。
レイの国では遺体はそのまま土に埋める。この国では骨にしてから壺に入れて納骨する。日本に来てすぐにそれを知った時は大ショックだったけれど、今はなんとなく火葬も耳馴染んでいる。きれい好きで潔癖症にも思える日本人らしい、と思う。
「さ、帰ろう。山菜は下ごしらえが手間なの。手伝ってくれる?」
「もちろんです」
「灰汁が強いから指先黒くなるけど」
「気にしません」
二人でそんなことをしゃべりながら帰る途中、道祖神の前を通りかかった。
「ママ、ちょっと待っててください」
「いいわよ」
道祖神の前にしゃがみ、頭を撫でようとして伸ばした腕が止まる。道祖神のおでこに緑の木の汁が横一直線に付いていた。
「道祖神様、さっきは助けてくれてありがとうございます。あとで何かお届けしますね」
立ち上がり、ママのところに駆け寄った。
二人で家に帰り、大量の山菜を仕分けし、ゴミを取り除き、洗い、少しの塩を入れて大鍋で茹でた。
その夜の夕食はママとレイが作った。主菜は茹でずに取り分けておいた山菜の天ぷら。
「美味しい美味しい」と食べるお兄さん夫婦とママ。レイもほろ苦く風味の強い山菜の天ぷらを楽しんだ。
食後、残った天ぷらをひとつだけ貰って「道祖神様にお供えしてきます」と断ってから家を出た。家を出た瞬間からずーっと呪文を唱えながら足早に歩く。
数分で道祖神の前に着き、山菜の天ぷらをひとつだけお供えした。
「今日はありがとうございました。ひとつだけですけど、天ぷらです。どうぞ」
そう話しかけてからハンカチを取り出し、道祖神のおでこの汚れを拭き取った。拭きながら離れたお寺に立っているはずのお地蔵様を思い出してしまう。
「さっさと帰ろう。早く帰ろう。素早く帰ろう。道祖神様、お休みなさい」
レイは全力疾走でママの実家まで帰った。
日付が変わったからもう我慢はやめた!w
投稿しちゃえ。とニヤニヤする深夜一時半。自分でもアホかと思う。でも楽しくて。この小説。





