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TSの謎に迫る。そしてイベントのお知らせ

 打ち上げを終えたおれ達は反省会を開いた。とはいってもそこまでガチなやつじゃない。次はどうしようだとか、ミスを減らしてパターン化するようにしようとかそんな感じである。

 そしてそれが功を奏したのか、二十数回ほど、ダンジョン攻略に成功した。お宝は良質な鉄の塊を数個手に入れた以外は自分達では使わない装備品やミナトさんの手に入れた怪しい触手のような謎のアイテムばかりだった。大当たりであるスキルブックは無し。確率渋いなあ。

 謎のアイテムとは言ったが、あれが装備品を作るための素材だと知ったのはダンジョン周回を終えてからの話。

 プレイヤーのショップを見てみると、ダンジョン産の素材として高額で売りに出されていた。自分の持っているものと同じものを買い集めて新たな装備にするか、自分も売って金にするかは悩ましいところだ。

 パーティとはとりあえずダンジョン前で解散している。メンバーがリアルの方の食事なので一旦ログアウトするという、つまり飯落ちというやつだ。

 おれは母さんが作ってくれるのを待っているため、こうしてアストの町でダンジョン産のアイテムを調べ、謎アイテムが素材である事を突き止めていた。

 本当は夕食も栄養補助食品で済ませてゲームの世界に入り浸りたいんだが、それは母さんに禁止されている。

 おれがゲーム大好きなのは知っているが、どんなにハマっても夕食はきちんとしたものを二人で取ろう、という我が家のルール。

 ……そう、二人で。

 おれには父親というものがいない。母子家庭というやつだ。父親の顔なんて見た事も無い。生まれた時から俺は母さんと一緒だった。

 なにか事情があるのだと思っていたが、それはまさか自分の出生。TS病に関する事なんじゃ……そう思うと一度調べてみたくなった。

 このゲームをからログインしたまま、ブラウザを開く。検索してみよう。TS病、原因でエンター。

 そこに映っていたものは……衝撃だった。

 女性と女性の同性婚とその子の成し方。

 女性Aの細胞から作成した精子を女性Bが受精。そこから生まれた赤ん坊は九割以上が女であり、残りの一割未満の男もほとんどの場合TS病を発症し、細胞が変化して女性へと変わる。これは本来女性二人から生まれた子が女の性別で生まれるのが自然な事であり、むしろ男として生まれる事が異例――

 なんという事だ。おれの父さんなんて存在しなくて、実は父親役の母親がいる……?

 衝撃だった。

 だとしたら、なぜ一緒に暮らしていない。どこの誰が、なぜ。

 いや、一人だけ候補になりそうな人物がいる。母さんの先輩で、いいところのお嬢様だという女がうちに一週間に一回は遊びに来るのだ。

 おれはいつも自分の部屋でゲームしてるから会ってないけど、その人が来た日は夕食の時に母さんが楽しそうに話すのだ。

 その女が怪しい。

 だが、それをどうやって問い詰める? そもそも問い詰めるべきなのか? おれと母さんの関係が今と変わってしまうのではないか。そう考えると、こわい。

 恐らくこの考えは合っているだろう。他にTS病について書いてあるページはさらっと見た感じ無いし、セアズさんの言っていた血は争えないという意味も分かる。同性愛者の親を持つなら同性愛者の子になってもなんらおかしくないという意味だろう。なんせ今のおれは可愛らしい幼女なのだから。

 偏見だ。

 おれにそのつもりはないし、そもそも女が好きになるのは精神が男のおれにしてみれば当然の事なのだ。いや、でもそれって結局セアズさんもストライクゾーンに入ってしまうという事で、向こうの狙いとしては問題無い……?


 頭がぐるぐるしてきた。と、そこで階下から母さんの声が。おれはブラウザを閉じてゲームからログアウト。一階へと降りていった。

 夕食を食べているおれは母さんの方を見て、おれの中に生まれた疑問を口に出そうとしたがその勇気が出せなかった。白米と一緒に飲み込んでしまう事になる。

 食べ終わって二階の自分の部屋へ。こんな気分の時どうするべきか。決まってる。ゲームをするのだ。

 嬉しい時、悲しい時、辛い時。いつだってゲームは寄り添ってくれる。おれにはゲームしかないのだ。ゲームをしていれば大体の事は忘れられる。

 それが念願の脳波PCによるVRMMOなら尚更だ。おれはヘッドセットをつけるとゲームにログインした。

 ログインして最初に来たのはメッセージ。セアズさんからだ。


『君に渡す銃が出来たよ。受け渡しがてら銃のトレーニングもどうだい?』


 そういえばパーティを解散する前に良質な鉄の塊を渡してたっけ。


『いいですね。よろしくお願いします』

『それじゃアストの町北入口前で合流しよう。よろしく』


 おれ達は合流すると、まず一本の銃を渡してきた。良質な鉄の銃だ。

 それと弾丸が五十発。


「銃の道は険しいからね。今晩だけでマスターとはいかないけれど、アシストのあるこのゲームで困らないくらいには指導できると思うよ」

「ありがとう、セアズさん」

「まかせてよ。それじゃ、銃のリロードのやり方から……」


 短剣を外したおれの動きは明らかに鈍っていた。慣れない武器だというのも勿論あるが、それ以上に<短剣使い>による強化が得られないのが大きい。こんな調子じゃメイン武器に出来ないのは明らかだ。まあ、元々そのつもりはないんだが。あくまでサブウェポンだ。

 銃の訓練は、頭を使って銃を撃つという事がメインだった。どのくらいの距離まで届くのか、どのくらいの距離から弾丸が落ち始めるのか。そういう事を頭に叩き込む事になる。

 セアズさんに魅了されて同士討ちを始めたスライムを的にして、とにかく撃つ。エイムはある程度ゲーム側が狙ってくれるが、距離感覚は自前であるというのがセアズさんの論だった。


「いいね。それじゃあダンジョンに向かおうか」

「え!? 二人だけでですか?」

「ふふ、二人っきりだね。というのは冗談としても、ダイコウモリ相手に出来ないと訓練の意味がないだろう?」


 それはまったくもって正しかった。なんせ短剣ではどうしようもないから銃があってもいいという考えだったのだから。

 という訳でダンジョンまでセーフスフィアに触れてワープ。装備は短剣だ。まずは他の敵を片付けてからダイコウモリとタイマンを張ろうという訳だ。

 今回のルートにいるのはゴブリンが三体とダイコウモリが二体。おれがヘイトアクションで集めたところを、セアズさんが狙撃。ゴブリンにヘッドショットを決めていた。

 そうして残ったダイコウモリを、武器を変更して狙う。短剣で届かない距離を容易く補ってくれるこのサブウェポンは、確かに頼もしかった。


「ま、問題もある」


 戦闘終了時に、セアズさんがそう語る。


「それは?」

「お金がかかるという事だ。ボクは三匹、ダイアは二匹倒したけど、弾丸は一発二十ゴールド。稼ぎはそれに満たない。敵を倒すだけならいいけど、赤字は良くない」


 確かに。今回は弾丸一発にも満たないちょっとのお金だけでドロップ品も無し。マリーさん抜きだとこうなるから困る。


「ケチになれって訳じゃないけどさ。使いどころは選んだ方が良いよって話」

「それじゃあ、おれが練習に使った銃弾の代金……」

「それくらいは奢るさ。可愛い子には貢ぎたくなるってね」


 そう言って、恐らくウィンクしたのだろう。そんな軽い調子だった。髪の毛で隠れているから見えないが。


「ん、そう言ってくれるならこれからの活躍で返すさ」

「そうだね。これからも遊んでくれると嬉しいな」


 そんな話をしていると、マリーさんからメッセージが入った。


「今ミナトさんとスライム狩りをしているのです! よかったら来るのです! ランサーももうすぐご飯終わるって連絡来ているのですよ!」


 テンション高いな。一拍置いて、セアズさんにもメッセージが入ったようだ。口を弓の形にして彼女はおれに手を差し出した。


「行こうか」

「おう!」


 セアズさんと手を繋ぐ。

 さあ、また馬鹿みたいにダンジョンを周回しよう。そうすれば悩みなんてどこかに忘れて来てしまう。少なくとも、今この時だけは。


 で、五人揃ったのでダンジョン周回をしている時にそれは起こった。

「あ、スキルブック。【フレイムランス】……。魔法かな? いや、これ槍の必殺技だ」

「くれー! 頼む!」

 人数が多いから喋れないと言っていたランサーさんによる、即座のおねだり。現金というかなんというか。


「いいですよ。その代わり、なんとかして短剣の必殺技も手に入れてくださいね」

「助かるよ。ああ、きっちり礼はする。あ、これいる?」


 そう言っておれに渡そうとしてきたのはゴーレムの盾。

 この辺の通常ゴーレムが持ってるレアドロップだ。


「いらない」


 大きい盾なのでスピードが下がってしまうので使わないんだよな。


「だよなあ」


 そう言って溜息一つ。


「ま、借りは返すさ。社会人だからな」

「え? ランサーさんって社会人なんですか?」

「おう。あたしの事なんだと思ってたんだお前」


 そうか、自分が学生だから他の人も……と思っていたがそうじゃないよな。


「いやあ。そうすると明日は夜までお仕事です?」

「ん? あー、そうか。一緒にプレイできないかって事ね。そういう事ならマリーも仕事だぞ」

「仕事なんてしたくねーのです」


 地雷である。げんなりした顔の三人。そう、三人。


「あーいやだねえ。いやだねぇ。明日はさっさと帰ってくるからねえ」


 ミナトさんも社会人だったらしい。あれ? これダンジョン周回できなくない?


「ちなみにボクは公式配信者だからね。ここでの冒険がお仕事さ」


 セアズさんとは長い付き合いになりそうだ。変に距離さえ近くなければいい人だ。都合のいい人とも言う。


「お」


 ランサーさんが一声あげた。結構喋れるようになってきた?


「どうかしました?」

「いや、今公式見てたんだけど。イベントだってさ」


 そう言われてそれぞれが公式サイトを見てみると、こんな事が書かれていた。


『アストの町の拡張工事!

 渡来人が集まるアストの町は人を収容するのに不自由するほどになってしまった。

 そこでアストの町は拡張工事を行う事になった。

 しかし、集めていた石材がモンスター達に奪われてしまう。

 渡来人よ、石材をモンスターから取り返してアストの町の拡張工事を成功させるのだ!

 (一定の数まで石材を集めると、アストの町が広がります。プレイヤーの皆さんが自由に使えるスペースも増えますので、是非ご参加ください。また、石材をアストの町のNPCに渡す事で経験値に変換されます。レベルが上がらないとお嘆きの貴方にもオススメ!)』


 ……なるほど、こういうイベントで経験値が貰えるのか。無理矢理周回でレベル上げたおれは少数派なんじゃないか?


「明日の朝七時から開始かー。参加してぇー」

「レベル3を目指したかったのです」


 そう、おれの仲間達もレベルが2に上がっていた。宝箱目当ての周回は、当然おれだけじゃなく他の皆の経験値稼ぎにもなっていたのだ。

 というかこのイベント、ドロップ品集め? マリーさんが凄い重要じゃん。頼むマリーさん明日早く帰ってきてくれ!

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