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ボス戦、その結果

 ヘイトを稼いだ事への洗礼は、その超大型の盾による打撃だった。

 その圧倒的なサイズは避ける事を許さず、おれは仕方なく左腕の軽盾で防いだ。

 衝撃。

 吹っ飛ばされたこの小さな身体は自分がまだ戦闘不能になっていない事に気付く。そしてSPが二点回復している。

 質量の暴力を持ってしてなお、ゲームシステムが優先されるらしい。盾による攻撃は通常攻撃であり、盾で防げばノーダメージという事なのだろう。

 だが、パーティメンバーの一番後ろに吹っ飛ばされたのはまずい。まだこちらにヘイトが向いているのであれば、あの巨体はこちらに向かってくる。

 そうすればみんな踏みつぶされてしまう。

 一瞬の判断ミスで全滅すらよぎった瞬間。ミナトさんの足元に魔法陣が光った。魔法発動準備完了のお知らせだ。

 魔法陣が消滅すると同時に、飛び出した水の鞭が盾持ち巨大ゴーレムの身体を打ち据える。

 その一撃がよほど効いたのか、おれ達の生命線である魔法使いを狙って盾を持たない右腕を伸ばしてきた。

 防いだのはランサーさん。その巨腕に向かって、槍を突き立てたのだ。しかしその代償として、ランサーさんはその腕に掴まれてしまう。

 そしてそのまま持ち上げられると、拳は握り込まれ、握力でもってランサーさんのHPを徐々に削っていく。

 おれはワイヤーアクションでゴーレムの身体にワイヤーを差し込むと一気に翔け上がり、彼女を救出しようと握っている指を短剣で斬り付ける。しかし効果があるようには思えない程、硬い。


「ここは任せてくれ」


 そう言ったのはサキュバスのセアズさん。いつの間にか空を飛び、巨大ゴーレムの上空斜め後ろに回っていた。


「【貫通弾】」


 彼女の持つ長身の銃が弾丸を放った。その一撃がゴーレムの手首を貫くと、手のひらは開き、拘束が解かれる。

 問題があるとすれば、おれとダメージを負っているランサーさんがそのまま地面に落下しているという事だ。おれはランサーさんを抱き寄せると、ゴーレムにワイヤーを引っ掛けてゆっくりと着地。ランサーさんを降ろすと、ワイヤーを切り離した。

 着地成功だ。


「【ライト・ヒール】なのですよ。ランサーしっかりするのです」

「悪いね。ちょっと下手だった」

「いや、元はと言えばおれが……」


 などと責任の所在を追求し合おうとしていると、ミナトさんが大声をあげた。


「それはあとにしてくれよぅ! 今魔法撃っていいのかい! 駄目なのかい!」


 彼女の足元には魔法陣。魔法待機状態だったらしい。たしかに今撃たれるとヘイトがミナトさんに向かってしまい、誰も彼女を守れない。


「もうちょっと待ってください!」


 おれはそういうと、ゴーレムの足元に立った。


「今です!」

「はいよぅ、【ウォーターウィップ】!」


 二発目の魔法の鞭が巨大ゴーレムを襲う。大きな一歩でのけぞる姿は圧巻だったが、そんな事を言っている場合ではない。

 体勢を立て直したこのモンスターが前へ歩こうとするところで、おれは必殺技を発動する。


「【ヘイトアクション】!」


 これによっておれへ攻撃が向かう。足元でちょろちょろしながら短剣で足を何度も斬りつけている。

 その足が浮かび上がった瞬間、おれは仲間達のいないゴーレムの背中側に走り出した。持ちあがる足、降ろされる足。そして強烈な風圧。

 なんとかそれを回避すると顔にかかる風圧を腕でガードしていた。

 ヘイトはまだこちらにある。のしりのしりと足を何度も小刻みに動かすと、反対側を向いてこちらに向けて腕を伸ばしてくる。

 その腕を妨害しようと狙撃を仕掛けるセアズさん。しかし、先程の一撃とは裏腹に、豆鉄砲のような威力にしか感じられない攻撃にゴーレムは怯む様子も無かった。だが問題は無い。

 なぜなら後ろには誰もいない。だからただ後ろに下がるだけでいい。

 腕を伸ばしただけで捕まえられないと分かると、巨大なゴーレムは一歩足を伸ばしてくる。

 言いたい事があるとすれば、移動に時間かけすぎだよな。


「三発目ぇ!」


 水の鞭がボスの背中を叩いた。こうやって時間を稼いでいる間に、魔法は完成していたのだ。

 ヘイトが再び魔法使いへ向かう。おれはワイヤーアクションでゴーレムの身体に登ると、その頭の無い、本来首のあるであろう部分を何度も殴るように斬り付ける。腕に痺れを感じるが、気にしない。

 攻撃命中によるSPの回復。これによりまたヘイトアクションが発動できる。

 おれはゴーレムの身体の上でヘイトアクションを発動する。ゴーレムはおれのいる、本来頭のあるであろう部分に腕を伸ばすが、その頃にはもう俺はいない。

 ゴーレムの背中側へと着地して、足元を切り付けていたのだ。

 SP回復のパターンは掴んだ。あとはミスさえ無ければ魔法とヘイト稼ぎの連打で勝ちが決まる。

 魔法攻撃、ヘイト稼ぎ。魔法攻撃、ヘイト稼ぎ。魔法攻撃……繰り返していたその時だった。

 おれの頭の上には巨大なボスの大きな足の裏が迫っていた。一撃を欲張りすぎて、離脱が遅れたのだ。

 なんとか避けようと全力で後退するが、もう遅い。潰される。そう思った瞬間だった。

 炸裂する火薬音。転倒するゴーレム。見れば地面に着いていた方の脚に向けて強烈な弾丸の一撃が加えられていた。


「【貫通弾】は防御力の高い相手にも有効だし、火力的にも単純に強いんだけどSPが大量に必要で困るよ。……怪我はないかい、ダイア」

「セアズさん! ありがとうございます!」

「構わないよ。君が失敗すればボクがフォローしよう。それでも駄目ならランサーさんもいる。気負わない事だ」


 転倒したボスに魔法攻撃が加えられる。そして……消滅した。

 おれ達の勝利だ!

 きゃっきゃとはしゃいでハイタッチをしていく。

 自称コミュ障のランサーさんがたどたどしくも参加して、嫌いだと言っていた配信者のセアズさんとハイタッチしているのが特に印象的だった。

 自分の事を言うなら……レベルが上がった。ファンファーレによって通知されたそれは、おれの悲願のレベルアップだったのだ。

 ここまで来るのに長かった。こんなに時間かかるなら、ベータテスト終わるまでに5レベルになれてればいいや。ちょっとゆっくりやっていこう。

 そしてお待ちかねの宝箱タイムだ。ボス部屋の宝箱には特に罠らしき物も無く、すんなりと空いた。

 まあ、ここまで来て罠あったら嫌だよな。

 五つの光り輝く塊をそれぞれが手に取って、宝箱の中身報告会が始まった。まずはおれから。


「良質な鉄の塊だった」

「いいじゃないか。ボクがあとで何かに加工してあげるよ」


 そういえばセアズさんは鍛冶師だったっけ

 続いてランサーさん。


「追撃する猛攻のイヤリング」

「普通の猛攻のイヤリングはもう買ってあったのです。単純に今の装備の上位互換なのですよ」

「買った意味なかったな……」


 RPGあるあるを食らってしまったようだ。

 マリーさん。


「ストーンランスなのです。槍だからランサーにあげるのです」

「さんきゅ」

「マリーさんは優しいねぇ」


 ランサーさんの火力アップか。頼もしくなるな。

 セアズさんは。


「100ゴールド……」

「はずれだねぇ」

「ど、どんまい」

「もっと慰めておくれよ、ダイア」

「調子に乗らないでくれ」


 なんかこの人はおれにだけ距離が近いんだよな。

 そして最後のミナトさん。


「何かの触手。だそうだねぇ」

「いや、何かってなんなのです」

「使い道は?」

「分からないけどとりあえず持っておこうかねぇ」

「取っておくのか……」


 当たり三つ、ハズレ一つ。なんかよく分からないもの一つとまあまあの成果だった。

 宝を確認し合ったところで、画面に出てる帰還の文字に意識を集中させる。すると、全員が始まりの小部屋まで戻ってきた。

 このままもう一度……というのも悪くないが、もうちょっと作戦を煮詰めてもいいかもしれない。おれ達はダンジョンの外に出た。

 すると、三人ほどのパーティがセーフスフィアに触っていた。


「君ら、今からダンジョン攻略か?」


 おれはその男達に話しかけていた


「あ、ああ。そうだよ」

「魔法使いはいるか?」

「いや……いない」


 それはまるで、ここに来るまでのおれ達を見ているかのようで。


「それじゃ駄目だ。魔法使いをパーティに入れた方が良い」


 そんなアドバイスを口にしていた。おれ達が先達にしてもらったように。


「なるほど、ありがとう。仲間と相談してみるよ」

「それがいい」


 おれ達はセーフスフィアに触れて、アストの町まで戻っていった。

 そして、『小熊の肉球亭』にて。


「という事で、ダンジョン攻略成功を祝して」

「かんぱーい!」


 おれ達は樽みたいなジョッキ一杯のスライムジュースを打ち合わせていた。反省会もいいが、打ち上げもね。


「いやあ、ミナトさんの魔法の威力は凄かった」

「照れるねぇ。でもそれを言うならダイアさんのヘイト稼ぎもばっちりだったんだねえ」

「MVPはこの二人って感じだね」

「でもランサーとセアズさんもいいフォローしてたのです」

「道中のドロップを増やしてくれるからうちも魔法をがんがん使えたんだねえ。マリーさんも頼もしいんだねえ」


 そんな風に互いを褒め称え合う。ああ、仲間っていいもんだな。

 運ばれてきていた食事を口にしながら思うのだ。これは確かにゲームな筈なのに。こんなにもリアリティに溢れている。これがVRMMOなのか、と。

 スリルのある冒険がある。時には失敗もある。仲間がいる。フォローしてくれる。

 おれは今、本当に楽しい。


 と。セアズさんが席を立ったかと思えば、おれの頭の上にその巨乳を乗せてきた。


「あの、セアズさん!?」

「ふっふっふ、元男っていうのは本当みたいだ。胸くらいでこんなにびっくりしちゃって」


 低空飛行をして、おれにちょうど胸が乗るように飛んでいる。そしてそのまま話しかけてくる。


「良質な鉄で何を作るか決めたかい?」

「ダガーくらいしかないんですよね……でも今持ってるやつは専用装備化してもらったやつだから、なにか勿体無くて」

「なるほど、1000ゴールドは痛いからそうだろうね。……じゃあ、銃なんてどうだい?」


 銃? それにはTECが必要。いや、そういえばおれが伸ばしているのはTECだった。戦士として活動しているから忘れていた。


「予備の武器と銃弾の二つを持っておく必要があるからインベントリの空きがキツくなるけど、空飛ぶ相手に対する攻撃手段として持っておくのは悪くない選択肢だと思うけどなあ。ボクがいればなんとかするけど、毎回時間が合って冒険できるとは限らないし」


 そうか、いつもこの五人で遊べるわけじゃないもんな。五人もの人間が時間を合わせるというのは大変な事なのだ。

 だが、やれる事が増えるというのは歓迎だ。おれはまだまだ強くなれる。


「銃の使い方なら教えるよ。こういう長物だけじゃなくて、拳銃も扱えるんだ」

「お願いするよ、師匠」

「大袈裟だな。でも任されようか。君をいっぱしの銃使いにしてあげよう。手取り足取り教えるからね」


 そう言って、乗せた胸をさらに押し付けてくる。柔らかい感触と甘い匂いに、確かに彼女はサキュバスだなあと感じずにはいられなかった。

ダイア

LV 2 職業・レンジャー/戦士 種族・人間 属性・風

HP 70/70

MP 20/20

SP 6

ATK:15(+9)(+40)=64

DEF:20(+12)(+0)=32

INT:5(+0)(+0)=5

RES:15(+0)(+0)=15

TEC:40(+5)(+0)=45

SPD:20(+16)(+20)=56

LUC:20(+0)(+0)=20

割振:5

<罠知識><ヘイトアップ><クリティカル無効><獲得経験値上昇><短剣使い>

【応急処置】【ワイヤーアクション】【ヘイトアクション】

所持金:3590

装備

右手・<ダガーLv1+ ATK+3 TEC+5 SPD+5>

左手・<猿毛の小盾Lv1+ DEF+3 SPD+3>

頭・<猿毛の皮兜Lv1+ DEF+4 SPD+2>

体・<猿毛の皮鎧Lv1+ DEF+5 SPD+2>

装飾1・<猿皮の手甲 ATK+3 SPD+2>

装飾2・<猿皮の手甲 ATK+3 SPD+2>




ランサー

LV 1 職業・ランサー/ドルイド 種族・竜人 属性・火

HP 140/140

MP 55/55

SP 4

ATK:45(+16)(+0)=61

DEF:25(+10)(+10)=45

INT:20(+0)(+0)=20

RES:25(+0)(+0)=25

TEC:20(+0)(+0)=20

SPD:20(+6)(+12)=38

LUC:0(+0)(+0)=0

割振:0

<槍の使い手><弱点特攻><与ダメージ増加><被ダメージ減少>

【ドラゴンブレス】【ヒットプラス】

所持金:6483

右手・<ストーンランス ATK+10 DEF+5>

左手・<>

頭・<皮兜 DEF+2>

体・<皮鎧 DEF+3>

装飾1・<追撃する猛攻のイヤリング ATK+5 SPD+5>

装飾2・<猛攻のイヤリング ATK+1 SPD+1>




マリー・ゴールド

LV 1 職業・僧侶/海賊 種族・精霊 属性・異

HP 70/70

MP 50/50(+10)=60/60

SP 0

ATK:20(+0)(+0)=20

DEF:15(+4)(+0)=19

INT:15(+5)(+0)=20

RES:35(+13)(+0)=48

TEC:-5(+0)(+0)=-5

SPD:10(+0)(+0)=10

LUC:65(+0)(+0)=65

割振:0

<神の祝福><アイテムドロップ三倍><獲得ゴールド二倍><浮遊><MP自動回復(小)>

【ライト・ヒール】【リフレッシュ】

所持金:5953

右手・<聖印 MP+5 RES+7 光属性付与 同種装備二刀流不可>

左手・<魔導書 MP+5 INT+5 RES+5 同種装備二刀流不可>

頭・<皮兜 DEF+2>

体・<僧衣 DEF+2 RES+1>

装飾1・<>

装飾2・<>




セアズ

LV 1 職業・鍛冶師 種族・サキュバス(魔物) 属性・風

HP 20/20

MP 15/15

SP 6

ATK:10(+0)(+0)=10

DEF:0(+25)(+0)=25

INT:10(+0)(+0)=10

RES:5(-5)(+0)=0

TEC:55(+19)(+0)=74

SPD:5(+5)(+0)=10

LUC:20(+0)(+0)=20

割振:0

<商売上手><修復><鍛冶LV1><魅了><飛行>

【貫通弾】

所持金:12320

右手・<スナイプガンLv1 TEC+9 SPD-5>

左手・<両手持ち>

頭・<スライムヘルムLv1 DEF+10>

体・<スライムビキニLv1 DEF+15 RES-5>

装飾1・<小悪魔の羽根飾り TEC+5 SPD+5>

装飾2・<小悪魔の羽根飾り TEC+5 SPD+5>






ミナト

LV 1 職業・魔法使い/採集家/薬師 種族・インテリジェ 属性・水

HP 5/5

MP 130/130(+10)=140/140

SP 1

ATK:-10(+0)(+0)=-10

DEF:-5(+20)(+0)=15

INT:55(+16)(+0)=71

RES:5(+5)(+0)=10

TEC:5(+0)(+0)=5

SPD:5(+0)(+0)=5

LUC:15(+6)(+0)=21

割振:0

<与ダメージ増加><神の祝福><ヒールドロップ><商売上手><回復アイテム強化><調薬LV1><マジックドロップ><インベントリ拡張>

【ウォーターウィップ】

所持金:21400

右手・<スライムロッドLv1 MP+5 INT+5>

左手・<魔導書 MP+5 INT+5 RES+5>

頭・<スライムヘルムLv1 DEF+10>

体・<スライムローブLv1 DEF+10>

装飾1・<スライムコアピアス INT+3 LUC+3>

装飾2・<スライムコアピアス INT+3 LUC+3>


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