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フルパーティという力

 メンバーが五人揃った。これは一つのパーティの上限であり、自分の役割をそれぞれが果たす事が求められる。


「ミナトさんはHPが5しか無いのですか!? 最低保障の値なのです!」

「そうだねぇ。守ってもらわなきゃすぐ死ぬ貧弱魔法使いだよぅ」


 などという話もあったので、尚更おれはタンクとして頑張らねばならない。とはいえ、保険もあるにはあるのだ。


「ミナトさん。死んでもすぐに教会に戻らないでください。状況によっては復活させられますから」

「助かるよぅ。出来る限り自分の身を守るようにはするからねえ」

「ふふ、ダイアは頼もしいね」


 使ってこなかったが、おれは【応急処置】が出来る。回復したい相手に十秒間触れることで、体力や状態異常の回復ができるのだ。

 そして、戦闘不能とは状態異常であるため治療する事が出来る。回復量そのものは低いが、一人がやられるたびにいちいち教会まで戻る手間を考えれば破格である事は間違いない。

 とりあえずみんなでセカの町の教会でお祈りをし、リスポーン地点を念の為更新。いざ、ダンジョンを目指してハンタードッグ草原攻略へ。

 隊列はおれが一番前。セアズさん、マリーさん、ミナトさんが中衛で、しんがりをランサーさんが務める。

 草原のあちこちで起こっているダンジョンを目指すプレイヤー達とハンタードッグの戦い。それらを邪魔しないように、かつ目的地を出来る限り最短距離で歩いていく。すると突然大声が上がった。


「どいてくれ~!」


 後ろから聞こえてくる男の声に、振り向けばピエロみたいなペイントをした顔の男がハンタードッグ四匹に追われている。

 しかも、こちらに向かって走ってきているのだ。


「トレインか」


 簡単に言えば、そうやって他のプレイヤーに近づいてきてモンスターをなすりつけるいやがらせだだ。迷惑行為の一つだが、まあそういう事もあるだろう。

 おれはランサーさんと位置を入れ替え、迎撃の体勢に入った。


「【ヘイトアクション】!」


 そう宣言するとハンタードッグが一匹、おれに向かってくる。……一匹?

 なぜかヘイトアクションを発動してもおれじゃなく男を狙い続ける三匹のハンタードッグ。

 おれは急いで自分に向かってきたハンタードッグを攻撃する。


「【ウォーターウィップ】!」


 魔法の発動によって発生した水で出来た鞭が一匹のハンタードッグに飛んでいき、巻き付いて絞め殺した。あれがミナトさんの魔法か。

 続いて炸裂音。銃声だ。セアズさんの銃撃が、ハンタードッグの眉間を貫き、クリティカルヒットで敵を倒した。

 どちらも一撃。威力の高さが伺える。

 それでも残ってしまった最後の一体は、ランサーさんが前に出て、足払いを一発食らわせた後に脳天に槍を叩きつけて撃破。


 ピエロ男は少し先まで走っていったが、戻ってきて申し訳なさそうな顔をしてきた。


「いやあ、すまないね。今商売の最中なんだ」

「ダンジョンに行こうとする人を邪魔する商売なのです?」

「まさか! その逆さ。俺はお客さんをダンジョンまで案内する仕事をしてるんだ。ほら!」


 向こうから金髪ロングの女性が歩いてくる。充分近くに近づいたのを見て、ピエロ男は女性に距離を詰めた。


「お嬢さん。道のりは順調ですよ! もう少しでダンジョンです」

「あの……他の方に迷惑をかけるのはちょっと……」

「いやあ、これは事故。事故ですよ! 本来わたくしの作戦では誰にも迷惑をかけることのないサーヴィスなのでございます」


 サービスの発音がなんか腹立つ感じだ。


「ではせめてこちらの方々に説明を」

「そうですな。お姫様方、俺はピエ郎。職業はデコイだ。デコイは攻撃力を持たないタンク職。そして、普通のタンク以上にヘイトを溜めやすい。防御力と速度に特化したこの身を利用して、ハンタードッグに自分を追わせる。その隙にお客様に悠々と道を歩いてダンジョンまで辿り着いてもらおうという道案内をしようと思ってる」

「ダンジョンでは魔法職が求められていると聞いて、単身ダンジョンに向かったのですが死に戻りしまして……お金を払えばダンジョンまで安全に行けるように手伝うと」


 なるほど、金稼ぎの一環か。それにしても。


「なんでこっちきたんだ?」

「最短距離を行きたかったからかな。倒してくれればラッキーって下心も確かにあったけど」


 正直なことだ。


「いやあ、面白いですね」


 そう言ったのはセアズさんだった。


「トレイン紛いの事をしておいて、仕事だなんてよく言えたものです」

「げっ、配信者!?」

「ボクの視聴者はキミに対してお怒りですよ。正式サービスでも続けられるおつもりで? その頃には貴方の悪評は広まっているでしょうね」


 淡々としている。おれを相手にダル絡みしてくる様子とはまるで違う。


「いや……その……」

「さすがデコイ。ヘイトを溜めるのがうまいなあ。感心しちゃいます」

「切り抜きだけは勘弁してもらえませんか。次からはもっとちゃんとやりますから」


 やれやれ、と言ったジェスチャーをして、彼女は言った。


「行こうか皆。ダンジョンはまだまだ先だ。まあ、トレインしていけば『もう少し』なのかもしれないけどね」


 ピエロ男が客の女性に向けて言った、ダンジョンまではもう少しの一言を当て擦り、彼女は歩き出した。別に反対という訳でも無いが、有無を言わせぬ迫力におれ達はただついていくしかなかった。


「まあ、それでも結局ああいうのに頼る人は出てくると思う」


 ピエロ男から離れた後セアズさんはそう言って、溜息を吐いた。


「でも不意打ち気味の四匹をあれだけ手早く片付けられたというのはいい情報だ。銃弾も一発で済んだしゴールドの溜まり方も悪くない。この調子なら黒字だ」


 ゴールドに関してはマリーさんの<獲得ゴールド二倍>も効いているのだろう。


「MPポーションもしっかりドロップしましたよぅ。いつもこうあって欲しいものですねえ」


 ミナトさんも回復アイテムをしっかり確保できたようだ。確かにおれ達は火力こそ高いものの、サポート的な意味合いを考えると最強はマリーさんなのか?

 そんな事を考えていると、岩場の近くで急に空が暗くなった。見上げてみると何かが飛んでいる。

 岩の上に着地したのはセアズさんだった。彼女の羽は飾りではなく、実際に飛行できるのだ。

 おれはワイヤーアクションで彼女が着地した岩と同じ岩に飛び乗った。


「敵、いますね」

「そうだね。ここのハンタードッグは避けようが無さそうだ」

「じゃあおれが近づいていくんで皆で警戒してて貰えれば……」


 セアズさんは首を横に振った。


「いや、ここからやる。ダイアはヘイト稼ぎだけしてくれればいいさ」


 銃を構え、狙撃。一匹のハンタードッグが倒れ、残りのハンタードッグが一斉に走り寄ってくる。

 おれがヘイトアクションを発動すると、犬達はおれに近づいてきた。その隙を狙って一発。ハンタードッグの横っ腹に銃撃が加わる。倒しきれなかったそれをおれが処理する。残り三匹。

 するとセアズさんは再び空を飛び、空中から銃弾を放ち始めた。


「え? それ無敵じゃないか?」


 飛び道具が無ければアウトだろう。そして、この犬達にそんな攻撃方法は無い。何も出来ないまま、ハンタードッグ五匹がドロップ品に変わった。


「いや反撃されるタイミングはあるよ。ずっと飛んでられる訳じゃないからね。強いのは確かだけど」


 そう言って着地するセアズさん。前は鬼門だった狭い岩の通り道も、彼女がいるだけでこんなにも楽だった。

 と、続けての銃声。

 ランサーさんがいつの間にか戦っていて、そのうちの一匹を貫いた。

 もう一匹も槍が貫き、バックアタックも問題なく処理。

 今のうちにこの道を通り抜けてしまおう。


 トラブルこそあったものの、戦闘内容としては何の心配も無かった。そんな総評で締めくくれるような、ダンジョン前の前哨戦だったと言える。

 セアズさんとミナトさんがセーフスフィアに触り、ついに犬守の迷宮にフルパーティで挑戦できる。

 入口に入れば始まりの小部屋と銀行員。セアズさんが銀行から何かを取り出すと、それじゃあ行こうかとこちらに微笑みかけてくる。

 おれが先行して確認した最初の道は……ダイコウモリ二匹とゴーレムの盾持ち。敵についての情報を共有すると、マリーさんがこう言い出した。


「ボスは巨大なゴーレムの盾持ちなのです。一回はサクッ普通の盾持ちを倒せるところを見ておきたいのです」


 つまり、ミナトさんの魔法がどれくらいゴーレムに有効なのかを確認したいというわけだ。


「なるほどねぇ。いいよお。やってみせるさ。マリーさんとはビジネスパートナーになりたいし、ただの貧弱じゃないところを見せたいからねえ」


 やる気満々でミナトさんはロッドを振り回し始めた。危ないのでやめて欲しい。

 なにはともあれ進撃。まずはヘイトアクションを発動。すると向こうもこちらのヘイトを高めてきた。

 こうなるとダイコウモリが厄介――


 銃声。あっさりとダイコウモリが一匹落ちる。


「【ウォーターウィップ】!」


 水の鞭が盾持ちゴーレムを盾の上から殴りつける。あれは必殺技なので防御は成立しない。そして魔法を当てられた盾持ちはその持っている盾を弾かれた。


「【ウォーターウィップ】!」


 続けて二発目。これが守るものの無いゴーレムに容赦なく命中し、ゴーレムは倒された。

 もう一匹のダイコウモリもセアズさんがいつの間にか片付けている。銃による攻撃が飛行する相手にここまで有効だとは。

 この二人、このダンジョンを攻略するためにいるような面子なんじゃないか? そんな勘違いをしてしまうほどにサクサクと片付いてしまった。


「あたし、いらねえなあ」


 誰に話すでもない、そんなランサーさんの呟きが耳に入った。いやあ、この調子ならおれもいらない子ですよ。

 ダンジョン探索は順調に進んだ。

 途中で宝箱が出て一喜一憂したり、罠があったので解除して道を進んだり、モンスターを軽くひねったり……


「ゴブリンの群れが同士討ちしてる?」

「サキュバスとしての固有能力<魅了>の力だね。ボクを視界に入れると判定。抵抗に失敗すれば混乱状態になるのさ」

「つっよ」

「ありがと。惚れてくれると嬉しいな。……あ、そんな目で見ないで。ほらほら今のうちに攻撃してよ」


 あまりにも順調だった。これがパーティが五人揃うという事か。

 それぞれの個性が活きた結果なのだろう。魔法を使ったのでMP回復のポーションを飲んでいるミナトさんを横目に見ながら、おれ達は最後の通路を通った。

 10メートルはあるであろう巨大な盾を持つ巨大なゴーレム。そしてその奥にある輝く宝箱。

 おれ達の戦いはこれから始まる。

 ボス戦の開始だ!


「【ヘイトアクション】!」

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