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新しい仲間

「それじゃ、マジシャンをスカウトしてダンジョンまで連れていく。その方針でおーけー?」


 おれはアストの町でランサーさんとマリーさんと一緒に食事処『小熊の肉球亭』で食事を取りながら今後の方針を相談していた。

 ちなみにおれは唐揚げとフライドポテトに青スライムジュース。ランサーさんがステーキ、マリーさんがスパゲッティとサラダを食べている。ゲームだけあって食事のバリエーションは現実と変わらない。そして脳に信号を送って本当に食べているかと錯覚を起こして味を感じさせてくれるのだ。

 なんでおれが揚げ物ばっかり食べているかというと、レベルが上がりますようにという願掛けだ。


「……まあ、仕方ないわな」


 本当に渋々、と言った感じでランサーさんが同意した。普通の盾持ちゴーレムでも時間がかかっていたのに、それがボスにまでなっているともなれば、流石にしんどいものがある。そのくらい、やってて疲れる相手だったのだ。


「それじゃあ、どんな魔法使いがいいか条件を挙げてみるのです」

「あたしが喋んなくっても文句言わない人」

「ガンガン周回するのに付き合ってくれる人がいいな」


 そう、やる気がある人がいい。この辺の熱量の差は一緒にやってて息苦しさを感じさせちゃう事もあるだろうから。

 しかしランサーさんはどれだけ喋らなくなるんだろうか。今のところ全然そんな感じしないから、自己評価が低いだけな気もするんだよな。


「どちらも大事なのです。今のままじゃ周回しても赤字なのですよ。宝はしょっぱくて武器の消耗ばかり増える。二人はゴーレムの盾持ちを殴りまくっていたけど、あれは武器がもたないのです」

「分かってる、とりあえず修理してもらいたいところだね。出来る限り格安で」


 装備には消耗度というものがある。これが100%になると装備が一時的に破損して装備品として使えなくなってしまう。これをどうにかするには鍛冶師に頼んで<修復>してもらう必要がある。ただ彼らも暇じゃない。慈善事業でやってくれるわけでもなく、なんらかの交換条件……基本は金。を支払う必要があるのだ。


「話は聞かせてもらいましたよ」


 そう言っておれ達に近づいてきたのは、角と尻尾、羽根の生えた紫の髪でメカクレ黒ビキニの女性。その大きな胸を惜しげも無く晒し、背中には大型の銃を背負っていた。


「あなたは誰なのです?」

「ボクは流れの鍛冶屋。よろしければ皆さんの装備を修復させてもらえればな、と」

「……金はねえよ。他を当たれ配信者」


 つっけんどんな態度を取るランサーさん。さっぱりした雰囲気は鳴りを潜め、どことなく険悪な感じだ。

 彼女の頭の上には録画マークがついていて、現在の会話を放送しているのが分かる。


「いえいえ、お金が目的ではなく。皆さんとお近づきになりたいな、と。特にそこの女の子。かわいいからね。ずっと見ていたい」


 そう言って彼女はおれの方をじっと見てきた。いや、正確には髪の毛で眼が隠れてるので正確な事は言えないが、頭はこっちを向いている。


「え、おれ?」

「おれっ娘なんだね。視聴者の皆さんも眼福でしょ?」

「勝手に録画するのはマナー違反なのですよ?」


 マリーさんがそういうと紫髪の彼女は困ったような顔をした。


「ええ、ええ。ごもっとも。けどボクはこの世界の公式サポーターでね。PV撮影のための録画も兼ねて渡来人たちの生の姿を撮影しているんだよ」


 渡来人とはプレイヤーの別称だ。船で別の国からやってきた冒険者たちである事からこの名前が使われている。


「プロゲーマーが何人か公式で許可された配信やってるとは聞いたけど、その一人?」

「はい、この世界ではセアズと名乗っています。得意なのはFPSとか……まあ、銃を撃つゲームだね」

「それでそのスナイパーライフルなのですね」


 セアズさんは首を横に振る。


「スナイパーライフル、だなんていいものじゃないですよ。この世界ではスナイプガンと呼ばれている、銃身が長くて射程が長くて、威力が高いだけの銃です」


 それがどうスナイパーライフルと違うのかはよく分からないが、何かこだわりがあるのだろう。


「……何が目的だ」

「可愛い女の子とお近づきになりたいな、と。<修復>するからパーティに入れて欲しいな。他に仲間がいる感じも遠目から見ててもなさそうだったし。フレンド登録も頼むよ。時間に余裕がある時だったらいつでも<修復>してあげる」

「今募集しているパーティメンバーは魔法使いなのです」


 じゃあ、と前置きしてセアズさんはこちらに交渉を仕掛けてきた。


「魔法使いで有望そうな子を紹介してあげようか。その娘とボクが仲間に入るから五人パーティを組もうよ」


 人数が多くなるとランサーさんの精神の負担が大きくなるんだよなあ。


「おれはいいんだけど、ランサーさんが」

「私もいいのです。ランサーがちょっと不味い感じだと思うのです」


 という事で、ランサーさん次第という事になる。


「いや……なんとか折り合いはつけよう。魔法使いは必要だ。ただ、セアズって言ったな。仲間になったからってお前の配信を見に行ったりはしない。あたしは配信者ってやつが嫌いなんだ」

「おやおや、嫌われちゃったか。とはいえ、これでパーティ成立だ。よろしく頼むよ」


 そう言ってランサーさんに握手を求めるセアズさん。ランサーさんは少し間をおいて握手に応じる。続いてマリーさんに。そして最後におれに。


「うわぁ、手がぷにぷにだ。かわいいねえ、かわいいねえ」


 握手したらめっちゃ喜んできた。うーむ、おれに対してこういう風に分かりやすく好意を持たれるのは初めてで、なんか照れる。


「じゃあ、装備の修復やっちゃおうか。さ、脱いで脱いで。わー、ロリの脱衣。たまんないね」


 ……この人、おれも苦手かもしんない。

 それでまあ装備品の消耗度は回復したので、彼女を仲間に入れる条件だった魔法使いを紹介してくれる、という約束を果たしてもらう事になった。

 セアズさんが連絡を取った結果、こちらから会いに行く事に。なんでも忙しいんだとか。そんな忙しい人がパーティに入ってくれるんだろうか。不安になる。


 アストの町を北入口から抜け、草原を歩いてくとあちこちでスライムを狩るプレイヤー達が目に入る。

 なんでもスライムはポーションの素材になるらしく、金策としても有用らしい。プレイヤー間では値崩れしているというが、NPCには関係ない。

 そう、NPCと言えば木彫りのハンタードッグはNPCにちょっと高く売れた。だからさっきの小熊の肉球亭の飲食代はおれのおごりだ。ちなみにあそこで飲んだ青スライムジュースは味の薄いサイダーみたいな味がして食感は飲むゼリー。

 そんな事はどうでもいいか。


「やあミナトさん」


 スライム狩りしている連中の中で、セアズさんは一人の女性に声をかけた。黒髪で褐色の肌をしたその女性は、ローブの上から見える素肌からはあちこちから黒い紋様が覗かせていて、全身にその紋様が浮かび上がっている事が予想された。


「おやおやぁ、セアズさんじゃあないですかあ。連絡頂きましたよぅ。すみませんねえ、スライム狩りが忙しくて」

「いえいえ、仕方ないです。ミナトさんの目的を考えればね……皆さん、こちらミナトさん。ボクが話していた魔法使いですよ」

「うちがミナトさぁ。魔法使いが必要なんだって? 貧弱能力のうちに目を付けてくれるのはありがたいねえ」


 え、貧弱なの? 有望だって聞いてたんだけど。とにかく挨拶を返そう。


「ダイアです。レンジャー/戦士やってます」

「マリーなのです。僧侶/海賊なのです」

「ランサー。ランサーは名前だ。職業はランサー/ドルイド」


 彼女とパーティ登録をしている時に、ミナトさんは大声をあげた。


「なるほど、僧侶/海賊! なるほど、そういう組み合わせか! マリーさん、あなたはうちの運命の相手かもしれないねぇ!」

「ふ、ふぇぇ!?」


 なにか琴線に触れるものがあったらしい。まあ確かに驚きのビルドかもしれないが。


「ダイアの運命の相手はボクかもしれないね?」


 地味にうざいなセアズさん。


「冗談はともかく、ミナトさんは魔法使い/採集家/薬師のトリプル。採集家の技能でポーションの特殊ドロップ品を集めて、薬師の技能でポーションの効果を上昇させてMPを回復させながら戦う魔法使いさ。種族は魔法に特化していてそれ以外はダメダメなインテリジェ」


 ポーションのドロップ。なるほど。


「つまりそのポーション集めにマリーさんが最適ってわけか」

「マリーさん! ここでうちとポーション集めしないかい! ワクワクしてきた!」

「だめなのです! 私達はダンジョンに行きたいのです!」

「ポーション集めは楽しいよぉ。金にもなる」

「うっ……魅力的なのですよ」


 逆にスカウトされてる様子を尻目に、セアズさんは改めて自己紹介をしてきた。


「ボクは公式配信者のセアズ。鍛冶師のシングルで攻撃スタイルはガンナー。知ってると思うけど、銃はTECに依存した攻撃が出来る代わりに銃弾を買う必要がある。だからお金稼ぎが必要なんだけど、そこを鍛冶師で補っているわけだね。銃が撃てればなんでもよかったからクリエイター職ならなんでもよかった。でもこれのおかげでダイアと出会えたわけだから、無駄じゃなかったね」


 あれ? なんかナンパされかけてる?


「あの……セアズさん距離近いですよね?」

「好きな女の子には積極的なんだよ、ボクは。この世界での種族はサキュバスだしね」

「女同士だから構わないってやつですか」


 セアズさんはそれを否定した。


「そうじゃなくて、ボクはレズなのさ。君を狙ってる」


 まーじかこの女。やべえやつじゃん。


「残念ながらおれ、元男なので」

「元?」

「TS病? とかいうやつらしくて。急に幼女になっちゃいました」


 なるほど、とかうーん。とかなにか考えている様子のセアズさん。


「むしろ、それならより仲良くなれるかもしれないね」

「え、何からそういう判断下したんですか」

「血は争えない、ということさ」


 どういうことだ? おれの家族の何を知っているんだ?


「それはどういう……」

「おや? 君は両親から聞いていないのか、自分の出生の事を。それならボクから話すことじゃないな」


 ランサーさんが仕方なく、と言った様子で全員に話しかける。


「さっさと行こう。時間が惜しい」

「はーいなのです」

「ダンジョンでもポーションはドロップすると言われればそうだからねえ。今回は付き合うよぅ。今度はマリーさんがうちの稼ぎに付き合ってねぇ」


 セアズさんの話も気になるが、今はダンジョンへ出発する時だ。でもその前に地獄のハンタードッグ祭りが待っている……

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