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目指せダンジョン

 朝一のゲームを終えて入学予定の高校へ出発したおれと母さん。月戸高校への説明はちょっとばかり騒がれたが特にトラブル無く終わった。医者の診断書が効いたのだろう。

 女になったから入学拒否される、だとか本人証明が出来ないだとかなんて事は無く。四月からはおれも高校生だ。

 一安心したところで帰ってゲーム。今日こそレベル2を目指したいけど……本当に経験値渋いな。普通もっと軽くレベルが上がって、プレイヤーを気持ちよくさせるものじゃないのか? それともベータテスト用に渋くしてる? 修正入るかな。意見、要望にレベルもっと上げやすくって書いておこうか。

 そんな事を考えながらログイン。新しい装備の試運転と行きたいところだ。結局、装備更新を終えてすぐに朝食の時間になっちゃったからな。

 と、いきなりチャットが飛んできた。ランサーさんからだ。


『よっ、今から時間あるかな?』

『ありますけど、どうしたんです?』

『ダンジョンが見つかったみたいだ。行かないか』


 ダンジョン! なんでもそこにはランダム生成のマップにパーティで放り込まれ、宝箱やモンスター、罠が配置されてるとか。特に一番奥まで進めればボスといいものが入ってる可能性のある高級宝箱が置いてあるらしい。

 そこでの一番のレアドロップはスキルブック。これさえあればレベル5を待たなくても新しい技能や魔法、必殺技を覚えられるのだ。

 ただ、例えばおれが攻撃魔法を覚えてもINT的にそこまで美味しくない。そこで、新しい属性の魔法を覚えたい魔法使いなんかに売りつける。それで稼いだりとか、本オープンまで塩漬けにしといて価値が上がるのを待ってもいい。

 勿論、一番いいのは自分が使えるスキルブックを手に入れる事。例えばこれでおれも必殺技が使えるようになれば戦力アップは間違い無しだし、最初の町アストのコロシアムで対人戦を楽しむための手札も揃う。攻撃、防御、必殺技の三竦みのあれだ。

 モンスター相手ならいいのだが、知性のある相手では防御を固められると恐らく辛い。

 そういうわけで、レアドロップ目当てに周回したい場所こそがダンジョンである。それが見つかったともなれば、出発しない理由も無い。おれはランサーさんにチャットを返した。


『すぐ行きます。どこで待ち合わせしますか』

『セカの町にはもう行ったかい』

『まだです』

『じゃあこの町北の出入口。マリーもいる』

『分かりました』


 おれは視界に表示されている、方角を示すアイコンを目印に北に向かう事にする。ワイヤーを射出すると近くの店の屋根に登り、屋根から屋根を伝って忍者のように走り回ってショートカットする。

 うん、装備のおかげで移動速度が上がってる。北の出入口は町側の岩の床と草原で区切られていた。そこでは赤髪の鱗肌の女性ランサーさんとやばい色した精霊のマリーさんが楽しそうに雑談をしていた。

 屋根から飛び降りて着地すると、二人は驚いたような顔を見せたが、笑顔でおれを出迎えてくれた。


「待ってたよ」

「お二人は<罠知識>無いですもんね。おれの出番ってわけですか」

「それもある。だがそれ以前の問題なんだ」

「と、言うと?」

「ダンジョンがあるらしい目的地への到達が出来てない」


 その一言に、マリーさんが恥ずかしそうに俯いた。


「タンク役がいないとヒーラーが狙われてしまって私が死に戻りしてしまうのです。この先の町からダンジョンに行くまでの道にハンタードッグっていう犬のモンスターが居て、後衛を噛み殺すのですよ」

「だからとりあえずセカの町に行く。そこでお前さんのセーフスフィアを解放して、そこからダンジョンを目指す」


 セーフスフィアとは、ワープポイントの転移先の事だ。これに一度登録すれば、あとはセーフスフィアを通じて何度でも他のセーフスフィアと行き来出来るようになるというわけだ。というか、目の前にある。

 地球儀のような青い球体が空に浮いている。おれはそれに触ると、『アストの町、北入口が登録されました』というアナウンスを確認して手を離した。


「さて、セカの町まで行こうか。なあに、街道に沿って行けば出てくるモンスターはスライムばかり。お喋りでもしながら気楽にね」


 二人とパーティ登録をして草原を歩き始める。そこでこんな話題が出た。


「ダイアはチュートリアルクエストやったかい」

「いや、やってる時間も勿体無くてやってないです」

「それがいい。事前情報仕入れずにゲームプレイ始めた人向けの基本中の基本を教えてくれるだけさ。あたし達みたいながっつり前情報集めてたプレイヤーにはいらないよ」


 ノンアクティブのスライムをスルーしながら会話を続けていく。


「あと、ダイアは装備を更新したみたいだけど、気を付けた方が良い。まだアイテムの価値が人によってまちまちだ。安定していない。相場が無いんだよ。もしかしたらその装備もふっかけられてるかもしれない。それが怖くてあたし達は装備を店売りのものから変えてない」

「じゃあ銀行で金庫に仕舞った方がいいって訳ですか」

「そうだ。もうちょっと情報が行き渡らないと安心して新しい装備は任せられない」


 銀行とはどの店にもあるとされている施設で、そこの金庫にアイテムをしまっておける。アイテムや素材といった持ち物はインベントリが3×3の9マス分しかないので、重宝する事になる。この銀行も一度預けると他の町で引き出す事が出来るらしい。まだ使ったことはないのだが。


 そんな事を話していると、町が見えてきた。最初の町アストに比べると明らかに小さい。本当に中継地点として必要なものだけがある、といった感じなのだろう。

 セカの町で目的のセーフスフィアを登録だけすると、そこから東にある目的のダンジョンに向けて出発だ。

 さて、敵の様子も話の通り様変わりしている。マリーさんの話にあったハンタードッグらしき狼っぽいモンスターが複数匹ががりでプレイヤー達と交戦していた。


「よし、他のプレイヤーがさっき来た時より増えてる。ダンジョンの噂を聞きつけてやってきたんだろう。彼らが戦っている間にここを通り抜けよう」


 陣形としてはおれが一番前で道を確保し、その後ろがマリーさんでしんがりはランサーさん。バックアタックにも気を付けないといけないらしい。なるほど、それでは二人でダンジョンまで行くのは辛いな。

 他プレイヤーが戦っているのを無視するように間をするすると通り抜け、今の俺の背丈を軽く超える大きな岩がごろごろと転がっている岩場を通る。

 ワイヤーを岩の高い位置に射出すると、岩にワイヤーが貫通して収縮し、岩の上に乗れた。これで先を見通しながら進める。でも岩貫通するなら敵にダメージあってもよくない?

 それはともかく岩と岩の間、狭い通り道に三匹の狼の姿が。


「ここ通らないといけないんですか?」

「そうらしい」

「じゃあ戦闘は避けられませんね」


 おれ一人なら無視して通り抜けられるが、今はパーティを組んでいる。そういうわけにもいかない。

 俺は空中から奇襲を仕掛けると、狼の脳天に一撃を加えて一匹を退治した。

 ハンタードッグの名前を確認すれば、レベル2と出ていた。なるほど、あの巨猿より弱いのか。

 左側から飛び掛かってくる一匹を新調した小盾でいなし、もう一匹が短剣を持った右腕に噛みついてくるのは素直に避けた。

 その一匹がおれの後ろに回った事で視界を後方に回してみると、なぜか追加で三体のハンタードッグが現れていて、ランサーさんとマリーさんを襲っていた。


「【ヘイトアクション】!」


 おれはすかさずヘイトを集める必殺技を放ち、狙いをこっちに向けさせた。合計五体の狼が一斉にこちらに向かってくる。


「助かる!」


 一度体勢を立て直そうと、ワイヤーアクションを発動させ、岩の上に上った。すると狼たちは変わらず夢中で前足で岩をガリガリとひっかきながらこちらを狙おうと頑張っている。

 そこにランサーさんの一撃。一匹の狼が撃破され、変わらずこちらを狙おうとしてくるのが二匹、仲間を倒された事でまずこの危険なやつから倒そうと考えてターゲットをランサーさんに移したやつが二匹ってところだ。


「ダイア、そのまま引きつけといてくれ。あたしがこっちの二匹をやる」


 しかし、二匹を相手に機動力で翻弄されてついにランサーさんは噛み付き攻撃を一発足に貰ってしまう。


「そのまま噛んでな!」


 足に噛み付いた一匹に槍を深く持つと、狼の頭に向けて一撃を入れた。一匹討伐。残りは四体。

 ペットが部屋から出ようとドアをカリカリしているみたいなアクションをしていた狼たち二匹も、狙いはすべてランサーさんになった。

 それならこっちだって安心して攻撃できる。岩場から飛び降りて攻撃。一体を倒して残り三匹。

 元々のヘイトが高かったおれが敵を倒せば、やはり必然的に狙われるのはおれになる。そこでおれは回避に専念し、ランサーさんが一撃を加えるのを待つ。ランサーさんが一撃で敵を倒して残りは二体。

 最後はそれぞれに一匹ずつが狙ってきたので一対一。それぞれが危なげなく撃破して戦闘は終了した。

 ドロップ品は狩犬の毛皮が三枚だ。


「ランサー、とりあえず回復するのです。【ライト・ヒール】」


 ライト・ヒールはヒーラーの基本技能。MPもSPも消費しない代わりにクールタイムがあって30秒待たないともう一度使えない。


「さんきゅ。こいつらはリポップも早いからさっさと抜けようか」


 この言葉に頷き、おれ達はしつこい狼達の猛攻に晒されながら、岩場を抜けたのである。

 そうして見えてきたのは一つの山に大きな割れ目のある、一つの洞窟だった。


「セーフスフィアがあるのです!」


 おれ達はくたくただった。しかしこの発見はありがたい。セーフスフィアがあるという事はこれからダンジョンには直通で来れるという事。もうマリーさんを守りながら素早さの高い犬の相手をしなくてもいいという事だ。

 とはいえ、タンク職をやるというのはこういう事だ。これからもこういう事はいくらでもあるだろう。

 セーフスフィアに触ると、アナウンスが流れてきた。


『犬守の迷宮前が解放されました』


 よし、これでいい。しかし……


「なんで犬守なんだ? あれ狼だよな?」

「はっはっは、ありゃ犬だろう。というかハンタードッグって言ってたろ」


 確かに、なんで狼だと思ってたんだろう。


「ランサー、きっとダイアくらいの子には大型犬は怖いのです。犬だって狼に見えてしまうのですよ」


 まあこっちの見た目は小学生高学年くらいだからな……いやいや、精神は男だぞおれ。そんな馬鹿な。

 反論しようとした時だった。


「そこの女子三人組。今からダンジョン攻略かい」


 岩の切れ目から抜け出してきた五人の男女のうち、リーダーらしき男が話しかけてきた。


「ああ、そうさ」


 応対したのはランサーさん。まあおれが話しても嘗められるだけだろう。


「魔法使いはいるかい?」

「ヒーラーならいる」

「それじゃ駄目だ。魔法使いをパーティに入れた方が良い」


 そんなアドバイスを口にしてきた。という事は物理防御が高い相手がいるのか。


「忠告感謝するよ。仲間と相談してみる」

「それがいい。ダンジョンの宝を持ち出せるのは全滅せずに外に出た時だ。よく覚えておくといい」


 そう言うと彼らはセーフスフィアに触れて飛んで行ってしまった。


「新しい仲間か、どうする?」


 おれがそう聞くと、ランサーさんは渋い顔をする。


「一つ、問題がある」

「それは?」

「あたし、人数が増えるほど喋るのが苦手なタイプのコミュ障なんだ」


 意外な弱点を晒してくれた。どうしたもんかね。

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