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青銀のようじょと呼んでくれ

 おれだって好きで現実逃避してたわけじゃない。ただゲームがやりたくてそっちを優先しただけの事だ。分かるだろう。風邪を引いててもゲームがしたくなる気持ち。あれみたいなもんだ。

 違うか? うーん。とにかくゲームがしたいのだ。この中学生から高校生に上がる大切な春休みを、ゲーム漬けにしたいのだよ。

 とはいえ知らない人間が家にいたら家族も怪しむしちゃんと伝えなければならない。


「母さーん。なんか女になっちゃったー」


 こんなん言われても親、困るだろ。

 でも言わないと俺がもっと困るので一階に降りて報告だ。


「門人……? 二階にいたのは門人だけだもんね。そっかー、女の子になっちゃったかー」

「そんな仕方ないなあみたいに言われても。むしろ受け入れ気味なのが怖いんだけど」

「あなたを生んだ時ね、言われてたのよお医者さんに。この子は将来TS病を患う可能性がありますねって」


 TS病? 聞いたことも無いぞ。


「世の中にはあなたの知らない難病がたくさんあるってことよ。性意識にも関わるから、ならなかった時に困るだろうし言わなかったんだけど」


 まあ、将来女になるかもしれないって小さい頃から聞かされて育つのはぞっとしないが。


「病院行って診断書貰って明日には入学する月戸高校にも報告。ああ、服も買わなきゃね。今着てるそれ、だぼだぼじゃない」

「うわ、面倒くさい」

「言うと思った。じゃ、とりあえず服はママのおさがり着なさい。こういう日のために服は一通り取っておいてあるから」


 自分の事ママって呼ぶのやめてくれって母さん。なんかおれが普段からママって呼んでるみたいじゃないか。


 で、服を着せられた結果。身体のサイズは小学生高学年女子ってところだ。春から男子高校生のはずだったおれが小学生……悲しいものがあるな。


「今から病院ね。ご飯どうする? 食べてから行く?」

「昼食べてお腹いっぱいだから大丈夫。病院行こう」


 まあ本当は朝昼どっちも栄養補助食品しか食べてないが。この身体だとそれでも充分だった。

 胃が小さいっていうのはいいな。早く食べればその分早くゲームができるから。ご飯早く食べるのも芸のうちっていうもんね。

 夕食にラップをかけて冷蔵庫に。そしてあれよあれよという間に母のワンピースに着替えさせられて病院に到着。緊急事態扱いでぱぱっと見てもらえるのを期待したけど、そうはならず。さっさと終わらせてゲームやりたいおれをやきもきさせられた。そして俺の診察の番。医者の第一声は。


「やっぱりこうなりましたか」


 だった。分かってる事だと言わんばかりの態度に、俺は首を傾げた。


「やっぱりって、なんでです?」


 俺がそう問うと、医者は。


「奥さんの配偶者はですね」

「先生、その話はまだ息子……娘にはしていませんので」


 意味深なところで母が話を止めてしまった。俺の父さんがなんだっていうんだ?


「じゃあまあ、身体一通り調べておこうか。身体の変異に伴って他に病気あるかもしれないからね」


 で、ゲームやりたい欲をなんとか我慢して全身くまなく調べられた。やったことないけど人間ドックってこんなもんなのかな? ってくらい調べられた。

 結果は異常無し。一番の異常であるロリへの性転換を除けば、実に健康体であるらしい。しかし医療も進歩したものらしく、昔は検査結果がでるまでに時間のかかるような検査もすぐに結果が出るんだとか。


「でもこんな水色が薄く出た銀髪で、蒼眼。日本人離れしてるけど大丈夫なんですかね?」

「大丈夫だよ。それは人類の進化とも言えるし、君の本来の姿とも言える。前日の夜は鼓動が凄かったんじゃないかい」

「それはゲームは発売するから緊張してるんだと思いました……ゲームやりたいから無理矢理寝ましたけど」


 まったくこの子は、という顔でおれを見る母さん。


「そうかいそうかい。この時間帯にうちに来たって事はゲームやってたのかな」

「……はい」

「もしかしたらねー、すぐ来れば君、男のままでいられたかもしれないよ」


 うげ、ゲームをやるって選択肢はハズレだったのか? いや、でもおれはどうせ先にそう言われてたとしてもゲームを選ぶ男だ。今は女だけどな。


「でも、門人はこの姿が本来自然……なんですよね」


 そう医者に問いかけるのは母さんだ。ちなみに門人ってのはおれね。大安門人。


「ええ、そうですよ。なんせ大安さんはあの実験の」

「先生!」

「……失礼」


 ピリピリした空気を吹き飛ばすように、おれは明るく言った。


「検査終わったなら帰れますか? おれ、帰ってゲームしたいんですけど」


 その一声で病院からは抜け出せた。しかし、帰れるかというとそういう訳では無かったのだ。服飾店に連れていかれたのだ。


「お古着せるから服はいいって言ったじゃん! 母さんの嘘つき!」

「あれはあくまで部屋着だけ! 明日学校行くのよ!? ちゃんとした格好しなきゃ! 下着だって買わなきゃだし」

「うう~……」


 車で乗せてきて貰っている身としては抵抗できない。当然のようにスカートばかりぽいぽいと試着させる母に最低限の抵抗をするためにズボンも持ってきて、と言うしか無かった。

 女物の下着をつけるのも尊厳が破壊された気がする。この瞬間だけはゲームより男の身を取った方がよかったなと後悔したものだ。

 まあ、慣れると着心地は悪くないもの。女の身体なだけあって、しっくりくる。

 そして落ち着いてくると、おれのこの姿が本来自然だと言った母の言葉、医者が口を滑らせた、実験というワードが気になってくる。おれは一体……なんなんだ?

 女子制服を着せられながら、思考の海から抜け出すと。って女子制服!?


「これ月戸高校の制服じゃん! 女ものの制服で通うの!?」

「女の子だから当然よね」

「おれは男だよ……」


 中学からの友達になんて言えばいいんだ。恥ずかしくて仕方がない。


「男だったのは昨日まで。今日からは立派な女の子よ」

「それが……実験の結果ってやつ?」


 そうカマをかけてみると、明らかに母さんは動揺した。


「違う、違うわ門人。私はあなたが男でも女でもどっちでもよかった。でも、女になるのが自然で、男として生まれたのが希少だとは言われたの。将来女の子になってもおかしくないともね」


 これ以上聞いてもいいものか。母との関係が壊れるのは、怖い。


「まあ、うん。いいよ。めちゃくちゃ可愛いしねこの姿。見てよこの腰まである髪。回転するとふわぁって広がって。なんかいい匂いもする」

「う、うんうん! とっても可愛い! 不審者には気を付けるのよ! 学校まで自転車で行くんでしょ? あ、自転車も新調しないとね。そうそうシャンプーとリンス、ボディソープは母さんの使っていいからね。というか今までの男もののは使っちゃ駄目よ」


 統一感が無い話の内容に、ああ、これはどうしても話を逸らしたいんだなと確信した。

 で、ちょっとぎくしゃくしながら大量の服や下着、女子用の月戸高校の制服を買って店を後にする。

 帰ったら冷えた夕食を温めて母さんと一緒に食事を取った。

 そしてトイレや風呂にも行って……女の子のあそこがどうなってるのかよく見る事になった。モザイク無いんだぞやばいって。テンション上がった。女になってよかったと思った。自分とはいえ美少女のあそこなんて見る機会無いだろうからなあ。自分で自分の事美少女って言っちゃうのちょっと恥ずかしい気もするけど、まあ実際美少女なのだ。

 ぱっちりお目目はまつ毛も長く、青い瞳がよく映える。鼻はすらっと長く、唇はふんわりしてて男なら誰でもキスしたくなるような雰囲気を持っている。人間のものとは思えない水色かかった銀の長髪は人の目を引く。誰もが振り返っておれを見るだろう。

 そして、そんな容姿はバトル・デュエル・オンラインでも反映されている。キャラメイクは一切いじらなかった。一秒でも早くプレイしたかったから。とはいえあのゲームはグラフィックの設定がとんでもなく自由だから、そこまで浮く事は無いだろう。むしろキャラメイク頑張りましたねって褒められる程度だ、と思う。




 さて、翌日の朝六時。軽くゲームにログインしたいと思う。今日は九時から学校に事情説明に行く事になるので、朝は八時に食べてそのまま制服に着替えて出発だ。それまで二時間ほど余裕がある。こういう隙間時間もしっかりゲームだ。

 という事で最初の町……アストというらしい。ここをぶらつく事にする。目的もあるのだ。それは装備をもうちょっと整える事。昨日は最低限の武器と盾だけ持ってリベンジに向かっちゃったからな。

 昨日の巨猿狩りで結構お金も溜まったし、インベントリに素材もある。生産職のプレイヤーに何か作ってもらえないかと相談に行くのだ。武器も消耗しているから直してもらおう。


「金がいる」

「はあ」


 生産通りと呼ばれている職人の集まる道で、一人のドワーフに話しかけた。ドワーフは<生産経験値上昇>の技能を持つため、話かければ大体生産職だ。


「つまりよ、無料で<修復>をかけてやる義理もないし、装備を作るにはカネだ。こっちに利益がいる。分かるな?」

「そりゃそうでしょう」

「よーし、それが分かってるなら話は早え。まずお前が俺に素材を売る。俺はその素材で装備を作る。俺が装備を売りに出すのでお前が買う。これが基本だ。いくらまでなら出せる?」


 おれは昨日の巨猿退治で稼いでいたので、素材を売らない時点で五千と答えると、ドワーフは頷いた。


「なら専用装備化までしてやれる。専用装備化の説明はいるか?」


 俺は首を横に振る。専用装備化とは1000Gを消費して、装備をそのプレイヤー専用に仕立てる。すると、性能が上がるのだ。こうして作った装備は売却できなくなり、要らなければ捨てるしかなくなる。


「よし、じゃあ素材を出しな」


 おれはトレード画面を出すと巨大猿の毛皮52個と巨大猿の腕甲6個を選択した。


「随分多いな……お前さん、作って欲しいのはなんだい」

「SPDが落ちない頭装備と身体装備。盾も腕に括りつけられる軽い奴なら欲しいし、短剣も店売りの装備より強いのがあるなら」

「よし、じゃあとりあえず素材の売買から。ほれ4600ゴールドだ」


 交換成立。するとドワーフはインベントリから毛皮を取り出すと、地面に置いてハンマーで叩き始めた。それがどんどんと装備の形へと変わっていき、皮兜、皮鎧、皮盾へと姿を変えた。

 続いてダガーを取り出すと、これもまたハンマーで叩いていく。


「専用装備化のついた装備四点お待ち。じゃあ全部まとめて5000ゴールドで買い取ってくんな」


 ショップ画面を開いて商品を購入する。トレードでいいじゃないか、と思うかもしれないが違うのだ。<商売上手>という技能がクリエイターにはあり、売買された事の無い商品が売れた時、追加のゴールドが手に入る。増加量は売値×0.5。つまりこの売買でドワーフは7500ゴールド手に入れた事になる。

 つまりおれから4600ゴールドで素材を買ったのを含めても2900ゴールド得。これが生産職の金稼ぎだ。


「さて、お前さんは俺が払った4600ゴールドを持っている。そうだな?」

「ん? ああ、そりゃそうさ」

「実は巨大猿の腕甲6個で装飾品が二個作れるみたいなんだ。一つ2000ゴールドで売ろう。いらないなら他のやつに売るぜ。装飾は誰でも装備出来て需要が高いからな」


 装飾っていうのは二個装備できるその他防具って感じだ。しかし生産職はえげつないな……毟り取られてる感じが凄い。まあ、その分装備は整ってるんだけどさ。

ダイア

LV 1 職業・レンジャー/戦士 種族・人間 属性・風

HP 70/70

MP 20/20

SP 6

ATK:15(+9)(+40)=64

DEF:20(+12)(+0)=32

INT:5(+0)(+0)=5

RES:15(+0)(+0)=15

TEC:40(+5)(+0)=45

SPD:20(+16)(+20)=56

LUC:20(+0)(+0)=20

割振:0

<罠知識><ヘイトアップ><クリティカル無効><獲得経験値上昇><短剣使い>

【応急処置】【ワイヤーアクション】【ヘイトアクション】

所持金:3290

装備

右手・<ダガーLv1+ ATK+3 TEC+5 SPD+5>

左手・<猿毛の小盾Lv1+ DEF+3 SPD+3>

頭・<猿毛の皮兜Lv1+ DEF+4 SPD+2>

体・<猿毛の皮鎧Lv1+ DEF+5 SPD+2>

装飾1・<猿皮の手甲 ATK+3 SPD+2>

装飾2・<猿皮の手甲 ATK+3 SPD+2>

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