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最終回

 空での戦闘。バーストルールはワイヤーアクションを持つおれが有利。確かにそれは間違いではなかった。しかし、だ。


「ワイヤーアクション持ちの回避タンクが結構いる……?」


 プレイヤー同士で話し合ってみると、おれのフォロワーというかおれを参考にしてキャラメイクを済ませた正式サービスからのプレイヤーが結構いるとかなんとか。PVの影響だな。

 しかも人によってはベータテストの時のデータとは別におれを真似した性能のキャラとか作ってる人もいるらしい。

 これを光栄と見るべきか、真似しやがってと怒るべきか。まあ、前者だ。

 強いと思われるキャラメイクなんて真似されて当然。PVがあったとはいえ、強いと思われたから真似された。それは喜んでいい事だろう。

 で、真似しようと思ってる人の中には性能だけでなく、見た目も真似しようという事でロリっぽい見た目の人も結構いるのだ。

 更に行き過ぎたやつは名前まで一緒にしてる。それはなりすましじゃないか……?

 そんな訳で、おれという存在がゲームの中ではそこまで珍しくなくなっている。これはこれで面白い。

 何故なら、現実では相も変わらずありえない髪色の美少女だからである。人目を引くその姿は、ちょっと学校以外の理由で外に出たいとは思えないレベルだ。

 正直言えば元々ゲームしたいから外に出るのは無駄な時間と思ってるんだけどね。てへり。

 そんな訳でおれのゲーム生活ではキャラそのものは平凡になっているが、現実では相変わらずのレアキャラ扱いだ。

 楽しく遊べればそれでいい身としては普通、平凡で大歓迎だ。気の置けない仲間と一緒に楽しく遊ぶ。それだけでおれは満足なのだ。

 そういう意味では、学校での生活も悪くはない。みんな優しいし、普通のゲーム機で遊ぶくらいは出来る。たまに移動中なんかに知らない人から、あれが例のあの子だよ。みたいに指差されたりする珍獣扱いこそされるものの、基本的には楽しく過ごしている。

 何が言いたいかと言えばあれだ。毎日ゲーム漬けで楽しいって事さ。学校では友達と、ゲームの中では仲間と一緒に毎日を遊んで過ごしている。そんなある日――


「ダイア狩り?」

「そう。君と同じ見た目のキャラに喧嘩を売って、アストの街のコロシアムで戦うんだとさ。このゲームはPKできないからね」

「一体何が目的で……」


 セアズさんが教えてくれたその情報は、なんとも不思議なものだった。おれが嫌いな誰かが、おれと同じ姿をしたキャラクターを倒して回っているという。


「本命は君さ。でも、偽物でもストレス解消と本物を倒すための練習になった。そう言って満足するらしいよ。戦闘スタイルは君と同じワイヤーアクションを利用した回避盾。短剣も使う」


 スタイルは完全におれじゃん。嫌いな相手と同じ戦法を取る事に何か意味があるのか……?


「とはいえ、君のホームに入ってこれるわけでもなし。その人物もアストの街から出てこない。外に冒険に出てれば出会う事はほとんど無いと思うけど……気になるかい?」

「ああ。おれに文句があるなら、おれに直接言って欲しい」

「そういう事ならボクの視聴者達にお願いして情報を流してもらおう。例の人物との待ち合わせ場所はどこにする?」

「コロシアムでいいよ。どうせ向こうは戦いたいんだろうし」

「了解」


 と、いう事で情報は即座に拡散され、例の人物と直接会える事になった。

 それは少年だった。と言っても今のおれよりは背が高い。言うならば、男だった時のおれくらいの背丈と言ったところか。顔もなんとなくだけどあの頃のおれに似てるか?


「お前がダイアか」

「ああ、お前は?」

「モンド。ここではそう名乗っている」


 おれとやり合いたいんだって? そう問えば彼は頷いた。

 理由を問えば、やりながら話そうとの事だ。

 コロシアムで受付を済ませ、おれ達はコロシアムマップへと転送される。


『レディー・ゴー!』


 アナウンスと同時におれは一発の射撃を加えた。セアズから教わった銃技だ。

 短剣を持って直進してきた彼はそれを避け切れない。まずは一撃。


「くっ……卑怯だぞ!」


 銃をインベントリに仕舞い、短剣を装備。


「そうかい。じゃあ殴り合いと行こうか!」


 ダガーとダガーがぶつかり合う。見たことの無い武器だ。


「その装備、どこで手に入れたんだ?」

「ガチャだ。俺の装備は全部ガチャ産だ!」

「おれにしてみりゃ、そっちの方が卑怯だと思うが、ね!」


 相手の突きを躱す。おれが斬る。盾で受けられる。


「金の力がおれの力だ」


 よくそんな事を平気で言えるもんだ。しかも学生くらいじゃないのかお前。


「で、お前結局何がしたかったの?」

「お前より俺の方が優れてると証明したい」

「そうかい。何のために」

「俺の母上に認めてもらうために」

「ゲームで勝てば認めてもらえるのか。変わった家庭だ、な!」


 武器の質は相手の方が上。まともに殴り合えばこちらが不利か。

 おれはバク宙で距離を取るとフェイントを入れながら近づき斬撃を加えていくが、何発も盾で受けられる。


「お前は認めてもらったじゃないか!」

「何の話だよ!」

「動画を作ってもらった!」

「はぁ!?」


 話が全く読めないぞ。一体どういう事だ?


「お前の母親って、結局誰なんだよ!?」

「我が家は宝野院家! 宝野院璃子だ!」


 なんと彼はあの宝野院の家の人間だと言う。おれの、血縁上のもう一人の母さん。


「お前の為に母上は力を尽くしている! 俺が学校に行っている間、お前の家に行っている! それを知った時、おれはどんな気持ちだったと思う!」

「知らねえよ!」

「俺の家を否定された気分だよ! 母上には俺の家よりもっと大事なものがあるんだと言われたみたいだ!」

「それおれ関係ねえからな!」


 ヒートアップする攻撃。素早い。

 しかし単調になった。ゲーム歴は浅いか?


「母上は俺よりお前が大事なんだろう! それが、腹立たしい!」

「お前誕生日は!?」

「は?」

「誕生日は!」

「ろ、六月十六日……」


 だったらな、と前置きして。


「おれは四月十七日! おれのが年上! お前の姉なんだよ! 大事にされてる気も無いが、年上の家族くらい敬えやこらぁ!」


 顔面に短剣が一発。クリティカルヒット。しかしガチャ産の防具の性能は高く、倒しきれない。


「お、お前を姉だと認めるとして! このちんちくりんが姉だとしても、大事にされてる気が無いってのは気にくわん!」

「姉をちんちくりん呼ばわりとは良い度胸だ! これは姉弟喧嘩だぞ! いいか! そんなに甘えたいならなあ、お姉ちゃんに甘えりゃいいだけの話だろ!」

「お前に……甘える? ふざけるな! 俺は甘えたいわけじゃない!」


 そう言って、おれの知らない短剣の構えを見せた。


「これで一気に倒す。食らえよ、【キリサキ】」


 爪で引き裂くような三本の斬撃が、おれを襲おうとする。


「【ジャンプ】」


 しかしおれは、今まで見せてこなかった、跳躍する必殺技でそれを躱す。ランサーに貰ったものだ。


「もっと愛されたいって話だろ。いいよ、俺が可愛がってやるさ」


 そのまま必殺技の硬直に攻撃を重ねる。脳天に直撃した一撃はカウンターヒットとクリティカルヒットが重複し大ダメージが入る。これにより、消滅する相手。WINの文字。


 俺の勝ちだ。

 受付に戻ると、モンドは項垂れていた。


「……強いな」

「伊達にベータテストからやってないさ」

「俺は本当に母上に甘えたかったんだと思うか?」

「知らん。そうならおれが構ってやるって話だ。ま、おれは宝野院さんを母親とは認めてなかったが……お前が弟なのは認めてもいい。それは結局、宝野院さんが母親なのも認める事に繋がるが」

「なぜ、そんなに俺に優しくする?」


 そう、なんか彼に対して好感度が高いと思った。理由は単純なのだ。


「なんか、おれが男だった時の姿に似てて、見てると落ち着く」

「そんな理由で。そういえばTS病だったね。姉さんは」

「おう」

「キャラメイクやり直すよ。だから……六人目の仲間として迎え入れてくれないかな」

「パーティは五人までだぞ。ああ、アレか」


 そう、ちょっとした方法があるのだ。魔物使いには<パーティ人数増加>というパーティ最大人数を五人から六人に増やす技能がある。それを使おうと言うのだ。


「他の面子にも聞かなきゃだが、まあ男嫌いがいる訳じゃないから大丈夫だろ。マイホームも六人目の部屋があるしな」

「じゃあ、よろしく! 姉さん!」


 こいつは課金の力でキャラメイクをやり直したのでレベルもそのまま引き継いだ。なんでもプレイ時間そのものは浅かったようだがコロシアムでの戦闘は入る経験値が多いらしく、レベル2だったのだ。


 ちなみに、弟の参戦に関してメンバーの感想はこんな感じ。


「へー、弟なんていたのか」


 どうでもよさそうなランサー。


「後輩として可愛がってやるのです」


 ワクワクするマリー。


「弟ならボクとダイアの間には入れないだろうね。構わないよ」


 マイペースなセアズ。


「お、おお? い、いいんじゃないかねえ!?」


 挙動不審なミナト。惚れたか?

 そんなわけで、魔物使い/軍師のモンドが新しい仲間として加わった。それからのおれ達は船に乗って和風な領域、ヤマトの国へ行ったり、バトルロイヤルのゲームシステムを楽しんだりしてこのゲームをとにかく遊んだのだが、それはまた、別のお話。

 新たな家族が加わった事で、璃子母さんのことも少し認める事ができた。女の身体もゲームをするのに問題があるわけでもなし、そう考えると割と早いうちから受け入れられたものだ。

 変わってしまった環境を受け入れて、おれは今日も生きていく。どれだけ環境が変わろうと、ゲームがあればいい。

 ゲームと、それを一緒に楽しんでくれる仲間がいるなら、それでいいのだ。

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