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マルチバトルはMMOの華

 装備を整えたおれは禍々しい森で巨大猿と相対していた。タイマン張らせてもらう……と行きたかったのだが相手はしょせん雑魚モブ。常に一体で行動しているわけではないのだ。

 という事に気が付いたのはおれが猿を一発後ろからどついてやったタイミングでだった。

 その攻撃で少し離れたところにいた巨猿Bまでこちらの敵意に反応してしまう。状況は一対二で良いとはお世辞にも言えないが、しかし、そこまで悪くはない。

 初撃を加えたのはこっちだし、何より今度はちゃんと装備を整えてきた。短剣を装備したおれは強い。ここまで走ってくるだけでそれが分かった。速度が違う。

 <短剣使い>の技能によってATKとSPDが高まった今、さっきまでの情けなくぶっ倒されたおれとは別物だと思って頂きたい。


 殴り掛かってくる巨猿B。立ち向かうおれ。ダッシュで懐に入り込むと、腹に短剣を一突き。正中線をしっかりと突いたのでクリティカルダメージ。

 ちなみにさきほどのバックアタックもしっかりとクリティカルを狙った。まあ、狙いすぎて近くにいる巨猿Bに気付かなかったんだが。なんにしろこれで二匹ともクリティカルが一発ずつ入った事になる。

 とはいえ、それくらいでは巨大猿達は倒せないようだ。クリティカルの入った巨猿Bは驚いたようにバックステップで距離を取る。

 無駄だ。おれは左手からワイヤーを射出すると、巨猿の首に巻き付けて一気に距離を詰めた。そして腹にもう一突き。

 ドラミングの要領で俺を潰そうとするBの拳を、左手首を守るバックラーで受け止める。防御成立でSP2点回復。ダメージも無し。これで【ワイヤーアクション】をまた二回使える。

 と、早速使い時のようだ。ワイヤーを射出して近くの木に絡みつける。そして飛び上がるとすぐに右手の短剣でワイヤーを断ち切った。

 後ろから巨猿Aが殴り掛かりに来ていたのだ。あのままあそこに居れば一発いいのを貰っていただろう。

 このゲーム、フレンドリーファイヤは混乱状態じゃないと起こらないからな。特に意味は無いが巨猿Aが巨猿Bを殴ってしまって気まずい感じだ。しかし巨猿Bはおれを見つけて指を指すと、巨猿Aは意気揚々とこちらに迫ってきた。

 それじゃ勝てないんだって。所詮は猿ってことかなあ。左手による拳撃、おれはその腕をすり抜けざまに一度斬り付けると、軽くノックバックしたその巨体に短剣を突き立てた。

 ……うん。試運転はばっちりだ。回避して攻撃。たまに防御でSPも多めに稼ぐ。そうしてワイヤーアクションを使える回数を増やして緊急回避と追撃を状況によって使い分ける。ソロならそんな感じでやっていけそうだ。

 野生動物よりも早く、正中線を狙えるほどに正確に、刃を突き立てる。ぞくぞくするね。これがVRMMOか。普通に生きていたんじゃ出来ない体験を、自分じゃない身体で。自分じゃない、身体……なんでおれロリになってんだろうなあ。病院行かないと。でも今、すっごいいいところなんだよな。試運転も終わったし、ここから経験値稼いでレベル上げたい。

 まさか巨猿二体倒してレベル上がらないとはなあ。そういや、普通に倒してたや。行動パターンも殴るくらいだったから普通に速度で圧倒しちゃった。

 ドロップ品は無し。ゴールドが22Gというのが今回の主な報酬だ。いや、経験値も入ってるんだろうけど。

 水色がかった銀の長髪をさらっと流しながら、おれは次の獲物を探しに森の奥へと向かった。


 そうそう、なんでさっきの巨大猿を巨猿とか呼んだりしてるかと言うと、本当に表示される名前がシンプルだからだ。巨大猿Lv3というのがさっきのモンスターの名前。単純すぎない? 初発見者が名前つけられるとか無いかな。変な名前つけるやついそうだし無いか。

 森の奥地に向かったはいいが、どうにも経験値稼ぎにちょうどいいやつがいない。ちょっと入り込みすぎてマルチ用の敵集団ばかりになっている。巨猿も三体とか四体で活動していて、速度で圧倒できるとはいえ二回いいのを貰ったらアウトの現在の能力値ではちょっと厳しいような気がしないでもない。

 とはいえおれは回避盾。被ダメージ前提で動いてちゃ駄目だろう。火力も悪くないとはいえ、本職には劣ると予想できる。ダメージを与えるという行為も立派なヘイト稼ぎだ。よって多少なりとも火力があるのがタンクなのだ。

 何が言いたいかと言うと火力が欲しい。後付けでもいい。装備を鍛えるか、仲間を作るか。前者は生産職のプレイヤーも始めたばっかりで厳しいだろう。そうすると、必然的に選択肢は仲間を作るという事になるのだが……こんな森の奥地ではそれも難しい。一旦帰るか。最初の町で仲間探しでもしよう。

 で、そう思うと物欲センサーも引っ込むのか、毒蛇Lv2が一匹でうろちょろしているのを発見。後ろからこっそりと近づいたのだが……もう少しというところで気付かれた。あとちょっと大胆に行けたなら。悔やんでも悔やみきれないがなんにせよ戦闘開始だ。


 モンスター名の上に【毒液】と表示される。敵が使おうとしている必殺技だ。必殺技は盾では防御できずダメージが貫通してしまう。ただし、必殺技の最中にダメージを与えればカウンターヒットでダメージは二倍。頭を狙うなどして相手の弱点部位にダメージを与える事でクリティカルが出れば重複してダメージ四倍。

 通常攻撃には防御、防御には必殺技、必殺技には通常攻撃でカウンターを狙う、というのがこのゲーム基本の三竦みだ。とはいえ決められるなら必殺技に必殺技で大火力を狙ってもいい。

 ちなみにおれは攻撃系の必殺技を持ってないので、もっぱらダメージ二倍に気を付けないといけない側だ。【応急処置】【ワイヤーアクション】【ヘイトアクション】のどれも殴るのには使えない。

 【ワイヤーアクション】はあくまで移動用で、これを使ってる最中に攻撃したからといって必殺技扱いにはならないので注意だ。

 ちなみに対人戦コンテンツに手を出してない理由がこれ。攻撃系の必殺技が無いと、三竦みが一つ欠けている状態で戦わないとならないのだ。グーとチョキだけでじゃんけん勝負したいやつなんていないだろう?

 新しいスキルを覚えられるのはレベルが五の倍数になった時。つまりベータテストの今では最大レベルにならないといけないのだ。経験値稼ぎに焦る理由もこれ。とはいえちょっとばっかしなら手を出してみたい気もするんだよね、対人戦コンテンツも。

 とはいえ、今は目の前の毒蛇に集中しよう。毒液とはいえ雫みたいなのをぴゅっと出してくるのかペンキをぶちまけたみたいに大量に吐いてくるのか初見では分からないので、ワイヤーを伸ばして近くの木の上で様子を見る。

 牙から数滴飛ばしてくる程度だ。まあ、こっちはソロなんだし初見の相手。警戒しすぎてしすぎるという事は無い。

 格好良く跳躍すると、そのまま空中から一気に近づいて蛇の頭に短剣を突き刺した。

 ドロップは8ゴールド、しけてやがるぜ。


 森から抜け出したと同時に二人の女とすれ違った。会釈して通り過ぎようとしたのだが。頬まで鱗を纏った長身の女に声をかけられた。


「君、一人かい。オープン開始から一気にこんな遠くまで来るなんていい度胸じゃないか。町も探索してないんじゃないか」

「はあ、まあそうですけど」

「実はあたしらもなんだ。スライム倒してどんどん先に進んでたらここまできた。あたしはランサー。そっちは?」


 美人のお姉さんとの交流というのも悪くないか。おれは会話を続けることにした。


「レンジャー/戦士のダブルです」

「ああ、すまないな。名前を聞きたかったんだ。ちなみにあたしはランサー/ドルイドだ」

「名前がランサー……?」


 変な人だぞこの人。職業名を普通名前にするか?


「ランサーは槍が好きなのですよ。私はマリー・ゴールドです。よろしくお願いしますね」


 もう一人の、こっちも見た目からして変だ。なんかこう絵具の色んな色をまぜこぜにしたような淀んだ色をしているし、若干宙に浮いている。

 そんな視線に気付いたのか、マリーさんは恥ずかしそうに俯いた。


「属性が異常属性だと精霊はこんな色になってしまうのですよ。でもどうしても異常属性になりたくて……」

「へぇー、それまたどうして」

「LUCが、上げたくて……」


 ぽつりと呟くそれをランサーさんが補足した。


「こいつ欲張りなんだよ。アイテムドロップ率を上げるために僧侶の<神の祝福>、海賊の<アイテムドロップ三倍><獲得ゴールド二倍>を利用する事を考えた生粋の置物ヒーラーだ。ちなみにLUCの値は65」

「僧侶/海賊!? そんな組み合わせ、おれ思いつかなかったよ」

「えへへ」


 てか65はやばいな。<短剣使い>で強化された俺のATKが51で、それすら上回る数値だ。特化型だなあ。


「俺? なんだ少女、そんな可愛い顔して俺なんて一人称なのかい」

「あー、おれ男だからね。朝起きたら女になってたんだけど、どうしてもこのゲームやりたくて。気付いたら親にも報告せずにログインしてた」

「そりゃ生粋のゲーム馬鹿だ! 気に入った、あたしらとパーティを組もう!」


 おおう、なんだこの人テンション高いな。いいから病院行けとか説教されるよりは全然いいんだが。

 ま、最初のパーティメンバーが美女と美少女ってのは悪くない。


「いいですよ、おれはダイア。改めてよろしく」


 ということで森に出戻りだ。ランサーさんとマリーさんと雑談をしながら森の中を歩いていく。


「このゲーム、ヒーラーにドロップ率二倍ついてるの面白いですよね」

「<神の祝福>ね。状態異常耐性も二倍ついてるけどこっちはおまけかな。雑魚相手にヒーラー連れていくメリットを作るためだって話だね」

「スライムの粘液やスライムコアが取れたのです。ダイアさんのドロップはどうなのですか?」

「この辺の巨大猿や蛇と戦ったけど全然駄目だ。ドロップそのものをしなかったよ」


 とはいえ、それもさっきまでの話だ。パーティを組んだ今、アイテムドロップ率はパーティで一番高い人物に影響される。LUC65という特化型の恩恵を受けられるという訳だ。タンクとしてしっかり守ってあげないとな。


「やっぱり僧侶はいるだけで大事ってわけだ。回復も出来るしな」

「普通は回復がメインなのですけれどね。とはいえ私の回復力はたかが知れているのでそんなものかもしれないのです。これからもレベル上がったら能力はLUC全振りしますのですよ」


 あ、ステータスの割り振り忘れてた。TECに振っておこう。

 さて、ちょうどいい敵の群れを探して森を進む俺達一行。最初は三体くらいがいい。何故ならば二体はおれ一人でなんとかなるんだから、少なくともそのくらいは片付けられないとパーティを組んだ意味が無い。

 一緒にプレイすると楽しいよね、ってのは勿論あるんだが。向こうも俺の病気よりもゲームを選ぶというガチの空気を感じ取って誘ってくれたんだと思うし効率面でも有用である事は向こうにとっても必要条件だろう。


 さて、ちょうどいい相手を見つけた。敵は三体。巨大猿Lv3が二体、Lv2が一体だ。Lv2のやつは成人男性の腰の高さくらいまでしかないので巨大かと言われるとそうでもないが。

 俺が無言で奴らを狙おうと二人に指示を出すと、ランサーさんは頷き、その名の通りの槍を構えた。

 マリーさんは「小さいのが一体、お子さんですかねー」なんてのんびり言っている。やめろやりづらくなるだろう。

 ワイヤーで木の上に登り、上から奇襲をかけてLv3の片方の脳天目掛けて一撃。戦闘開始だ。それと同時に必殺技を宣言する。


「【ヘイトアクション】!」


 SPを三つ消費して発動するそれは、周囲の敵のヘイトを高め、おれに攻撃が集中するようにする。さっきまでのソロ活動では必要の無かった必殺技だ。だが今は頼もしい。

 この間にランサーさんは攻撃に集中できるし、ヒーラーのマリーさんは敵に狙われない。あとは回避しながらそこそこに殴れば回避タンクの仕事は完璧だ。

 そこそこに殴るのはいざという時のワイヤーアクションもそうだが、ヘイトアクションの重ね掛けにもSPを使うからだ。

 さてランサーさんはLv2の巨猿を殴っていた。三発、四発ほどで仕留めて見せると、次はおれが最初に先制攻撃を仕掛けた方……巨猿Aを狙う。

 おれはAに一撃を仕掛けると若干の距離を取り、殴りを誘発させた。その一撃なら躱しながら追加の一撃を加えられるからだ。

 そしてサイドステップで巨猿Bの攻撃も避ける。おれがさっきまでいた場所にはBの拳があった。

 二体の猿に背を向けられたランサーさんは巨猿Aの背中に向けて槍を突き刺していた。しかし、まだ死なない。俺はヘイト管理ついでにAの腹にクリティカルの一撃を加えると再びヘイトアクションを発動した。

 これによりランサーさんは狙われる事は無く安全に、彼女に背中を向け続けた手負いの巨猿の後頭部に一撃を食らわせた。

 ここまでしてやっと一体の巨猿が倒れた。とはいえ、残り一体ともなればあとは消化試合だ。

 手数はランサーさんよりおれの方が多いし、きっちり挟み撃ちにしていれば火力は出し放題。

 一分かかるか、かからないくらいの時間で最後の一匹を倒してしまった。

 そしてドロップ品だが……60ゴールドと巨大猿の腕甲と巨大猿の毛皮が手に入った。


「こっちは毛皮二枚だ」

「毛皮三枚ですね」


 腕甲はもしかしたらレアドロップだったのかもしれない。何に使うのかは分からないが……生産職の人に頼めば何か作ってくれるのだろうか。


「ダイア、お前頼もしいな」

「そうですか?」

「こっちに攻撃が一回も来なかったのです。ランサーの手間をかけさせずドロップ出ておいしいのですよ」

「攻撃力もあるだろう。素早いし、クリティカルを狙うテクニックもある」


 テクニックといっても、それもゲームのアシストあっての事だしなあ。


「自覚無し、と言ったところか。まあ、君のビルドは正しかった、という誉め言葉だとでも思ってくれ……さて、次はどうする? もっと大きな敵の群れに挑戦してみるか?」

「それも面白そうですね」


 そうして日が暮れるまで遊んだおれ達はフレンド登録を交わし、また遊ぼうと約束をしたのだった。あの二人の眼鏡には叶ったってところかな。しかしレベル上がらなかったなあ。経験値渋い。

 さて、夕食だし一回ログアウトしなきゃ……ロリになった現実とも向き合わないとな。

ダイア

LV 1 職業・レンジャー/戦士 種族・人間 属性・風

HP 70/70

MP 20/20

SP 6

ATK:15(+1)(+40)=56

DEF:20(+1)(+0)=21

INT:5(+0)(+0)=5

RES:15(+0)(+0)=15

TEC:40(+3)(+0)=43

SPD:20(+4)(+20)=44

LUC:20(+0)(+0)=20

割振:0

<罠知識><ヘイトアップ><クリティカル無効><獲得経験値上昇><短剣使い>

【応急処置】【ワイヤーアクション】【ヘイトアクション】

所持金:7690

装備

右手・<ダガー>

左手・<バックラー>

頭・<>

体・<>

装飾1・<>

装飾2・<>




ランサー

LV 1 職業・ランサー/ドルイド 種族・竜人 属性・火

HP 140/140

MP 55/55

SP 4

ATK:45(+4)(+0)=49

DEF:25(+5)(+2)=32

INT:20(+0)(+0)=20

RES:25(+0)(+0)=25

TEC:20(+0)(+0)=20

SPD:20(+3)(+2)=25

LUC:0(+0)(+0)=0

割振:0

<槍の使い手><弱点特攻><与ダメージ増加><被ダメージ減少>

【ドラゴンブレス】【ヒットプラス】

所持金:6173

右手・<スピア>

左手・<>

頭・<皮兜>

体・<皮鎧>

装飾1・<猛攻のイヤリング>

装飾2・<猛攻のイヤリング>



マリー・ゴールド

LV 1 職業・僧侶/海賊 種族・精霊 属性・異

HP 70/70

MP 50/50(+10)=60/60

SP 0

ATK:20(+0)(+0)=20

DEF:15(+4)(+0)=19

INT:15(+5)(+0)=20

RES:35(+13)(+0)=48

TEC:-5(+0)(+0)=-5

SPD:10(+0)(+0)=10

LUC:65(+0)(+0)=65

割振:0

<神の祝福><アイテムドロップ三倍><獲得ゴールド二倍><浮遊><MP自動回復(小)>

【ライト・ヒール】【リフレッシュ】

所持金:5773

右手・<聖印>

左手・<魔導書>

頭・<皮兜>

体・<僧衣>

装飾1・<>

装飾2・<>



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