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開催! 「アイドル・デュエル・オンライン!?」

 新イベント開催が明日に迫ったこの日は休日だというのに社会人メンバーと離れ離れになってしまった。昨日から話していたが、ランサーさんがコロシアムで訓練しようという提案をしたのだ。

 しかしなぜかマリーさんを連れていき、それにミナトさんが釣られて三人が同時に行動しているようだ。

 ということで、平日と同じようにセアズさんと一緒に行動中だ。目的は新装備の作成。

 今までダンジョンに籠もってきて集めていた素材を使って何か作れないか、二人でトレードをしたり、それでも足りない分はアストの街の広がった部分で開かれている露店を見て回って集めた。イベント直前だけあって素材も高騰していたが仕方がない。金の使い時ってやつだ。いらない素材を売ったりもした。


 そういう訳で新しい装備はこんな感じだ。

 蹴り二尾の毛皮と薄鉄を合わせた、二尾の短剣。カタミックというダンジョン産のレア鉱石素材を扱ったカタミックの小盾。

 同じくダンジョン産のレア素材、風布を使った頭装備と身体装備。風布の頭飾りと風布のマント。水色の布がふわふわと揺れていくデザインで、SPDの上昇量が高い。

 装飾品には祝福された盗賊のネックレスと、たぬきの手甲。盗賊が祝福なんてされるのか? という疑問と、おれもたぬきシリーズ手に入れちまったな。ってのが印象的だ。もちろんたぬきの手甲にはあのデフォルメされたギャグみたいな姿のたぬきが刻印されている。

 これはたぬきの毛皮が二枚必要な装備で、セアズさんが譲ってくれたのだ。勿論相当な量の素材とのトレードだったが、市場にも置いてない素材だったので破格の交換だと思う。

 前みたいに装備に専用装備化もつけたかったのだが、今は無理だ。仕事がいっぱいなようで、しかも一つの装備につき安いところでも5000ゴールドもかかるのだ。イベント直前とはいえぼったくりすぎないだろうか。


 セアズさんが専用装備化を覚えてくれれば……とも思ってしまうが、セアズさんにはお世話になってるし、なんでも頼りすぎるのは良くないな。

 そうそう、そのセアズさんも装備品を変えた。銃は勿論、あの黒のビキニアーマーが変更され……触手鎧のビキニアーマーになった。使いどころの分からなかった触手素材を兜と鎧の素材に使ってしまったのだ。

 はみ出してる触手が蠢いててめっちゃえっち。あれ内部は相当やばい事になってるだろうと思うとおれの中の男心がむらむらし始める。

 なーんであの人そうやってエロ方面にいくのかなあ。下腹部に紋様まで付けてるぞ。ミナトさんに影響されたか? いや、あの人は全身に紋様が入ってるタイプなのでそういういやらしいのとは違うのだが。


 仲間とはいえ他人の事は置いておこう。今大事なのは、イベントに向けて訓練する事だ。アストの街のコロシアムは常時解放されている。ここで登録を行うと、一対一から五対五までのPVPに参加することができるのだ。

 練習のためなので一対一を選択。色んな相手と戦った。

 人間は勿論、獣人や額に宝石をつけた宝石人。ゾンビやスケルトンといったモンスター種族まで様々だ。

 セアズさんと一緒に街を回っていて気付いたが、この世界には本当に色んな種族がいる。そりゃ50の職と50の種族が売りのゲームなんだから当然と言えば当然なのだが、人種の坩堝って感じでごちゃごちゃ色んなのが店出してるのを見ると結構壮観というか。

 それでまあ、とにかく色んな相手と戦っていて思うのは、やはり攻撃系の必殺技が無いと辛いという事だ。

 相手が盾を持って無ければ問題なく倒せる。速度の差で圧倒するというか。でも盾を持たれると一気に苦戦するのだ。身体をほとんど盾で覆われるとダメージの通しようが無い。

 結局相手にSPを溜めさせて、溜めたSPで相手が必殺技で攻撃してきたのにカウンターを入れるリスクの高いやり方しか出来ない。これは由々しき問題だと思う。


 そんな事を痛感していた装備作成とコロシアム漬けの一日を終え、ついにアイドル・デュエル・オンライン!? イベント当日がやってきた。

 アナウンスが流れ、イベントに参加する資格があります。参加しますか? とポップしてきたのでイエスを選択。

 さて、どんなイベントになるやら。などと身構えていたら、ランサーさんからチャットが来た。


『今ちょっといいか? 他の奴も集まってる』


 勿論オーケーした。

 ランサーさんの指定した場所に行ってみれば、いつものメンバーが集まっていて、ランサーさんがアイテムを渡してきた。

 これは……スキルブック?


「昨日一日探し回った。良ければ使ってくれ」


 詳細を見てみれば、それは【ジャンプ】のスキルブックだった。空中に跳躍し、着地するまでの間に行う攻撃は全て必殺技扱いになる。というものだ。


「どうして、これを……?」

「お前、忘れたのか? あたしに【フレイムランス】のスキルブックを譲ってくれただろ? そのお返しさ」


 そういえば、そんな事もあった。


「でもこの時期のスキルブックなんて、ただでさえ高いのに余計高かったんじゃ?」

「ああ、だからダンジョン素材は全部売り払った。マリーにも借りた」

「これを手に入れるためにランサーは昨日一日をフリーにしたのですよ!」

「借りを返すなら今だ、と思ってな」

「ランサーさん……」


 なんて仁義に厚い人なんだ。


「ま、見つけたのはミナトだけどな。使わないポーションを売り捌いてる時に客に聞いて回ったらビンゴだったらしい」

「運が良かっただけだねえ」


 そう言って照れ臭そうに笑うミナトさん。


「彼女、気付かれるのが照れ臭いからって、ダイアをボクに見張らせて、探してる様子を見つからないようにしてたんだよ?」

「やめろセアズ。こういうのはこっそりやるからいいんだよ」


 というかさっきから……普通に喋ってるな。コミュ障はどうしたんだろう。


「さ、使ってくれよな。その必殺技でイベント良いところまで行こうや」


 おれはスキルブックを利用し、必殺技を覚えた。


「……うん! これで良し! ありがとうランサーさん!」

「それなんだけどよ」

「ん?」

「そろそろあたしらも付き合い長くなって来ただろ? 呼び捨てでいいぞ」


 頬をぽりぽりと掻くランサーさんに、おれは満面の笑みで頷いた。


「分かったよ、ランサー!」

「私もいいのです!」

「マリー!」

「うちも構わないねえ」

「ミナト!」


 そして最後に……


「そういう事なら、ボクもいいからね」

「セアズさん!」

「なんで!?」

「いや、触手鎧喜んで着る人と心の距離を詰められる気がしない……」

「これは性能がボク向きなんだよ……!」


 皆が笑った。仲間同士の戯れだ。彼女も本気で怒っているわけじゃない。


「冗談だよ、これからもよろしく。セアズ」

「ふふ、心の距離が近づいたね。このままお付き合いできるくらいまで近づいてくれないかな?」

「……セアズさん?」

「心の距離が遠のいていく!? 冗談だよ、徐々にね、徐々に」


 徐々になんだよ。頼もしいからって別に付き合ったりはしないからな。

 などと考えていたらメールが届いた。これからA~Hブロックで予選を行い、その後本戦があるらしい。

 今回のイベントにアイドル側で参加するのはおれとランサー、セアズの三人のようだ。


「じゃ、それぞれが頑張るとしますかね」


 一度解散して、コロシアムへ向かった。Aブロック予選の初戦。いきなりおれの番だ。

 広いコロシアムにおれと相手の女性と一対一。お互い準備も問題無く、戦闘開始。

 問題があるとすれば、なんか装備がアイドルが着るみたいな衣装に変わっている事だが装備の能力には影響は無い。イベントを盛り上げるための仕様のようだ。

 魔物種族、ハーピーである相手は即座に空へ向かった。そして魔法陣が広がっていく。空中から魔法を使って、反撃させないまま倒すつもりみたいだ。


「【ワイヤーアクション】……!」


 対戦相手の首に絡みつくワイヤー。そのまま飛び上がったおれは、ハーピーの女性の頭に向けて短剣を差し込んだ。魔法使いは防御力が低い。相手はそのまま地面へ墜落し、撃破された。

 相手プレイヤーがどこかに転送され、自分に勝利の二文字が浮かんでくる。そして――身体の自由が利かなくなった。


 コロシアムの真ん中へ歩いていくおれ。空が暗くなったと思うとスポットライトが浴びせかけられる。そして、おれはダンスを踊っていた。

 ゲームシステムに存在するエモートというやつだ。悔しがる格好をしたり、怒ったポーズを取ったりと、自分の感情を表すためのシステムで、VRMMOには必要のないシステムだと思うのだが、様式美として残っていたのだ。

 そのうちの一つ、ダンスをおれは強制的に踊らされていた。


 そしておそらくこれを毎回、勝つたびにやらされるのだ。アピールタイムってこれだろ? これを全プレイヤーの前でやらされるんだろ?

 念の為、このイベントの投票権を持っているマリーにダンスしながらチャットしてみた。


『おれ、今映ってる?』

「なのです。輝いているのですよ、ダイア」


 クソ恥ずかしい。

 最後の決めのポーズをする頃には、おれの心は死んでいた。

 アイドル衣装を着て、ダンスを最後まで強制的にやらせられる。それもめっちゃかわいいやつ。

 おれはコロシアムに戻されると、Aブロックの対戦相手を確認する事で精神の安定を保とうとしていた。お、ランサーいるじゃん。


 見渡すと、視界に一人の竜人の姿が入る。ランサーだ。

 おれはそっと近寄ると、にひひと笑った。


「次はランサーの番だからな」

「いや、あたしリタイアするけど」

「なんでええええ」

「いや、あれをあたしがやったらギャグだよ。見な、この鱗。あんな衣装着て踊ったら見苦しいよ」

「そんな事ないよ! やろうよ! お前も犠牲になれ!」


 ランサーは笑った。


「本音が出てる出てる。ま、ダイアは可愛いんだから勝ち残りな。せっかくスキルブックも譲ってやったんだからさ」


 それを言われると、うーん。


 結局おれは本戦まで勝ち残り、何度もプレイヤー達にダンスを披露した。

 おれに引導を渡してくれたのは、仲間だった。


「可愛かったよ、ダイア」

「ころしてくれ」

「うん」


 本戦準決勝。セアズと当たり、普通に倒された。これでおれは解放される……そう思っていた。


 アナウンサーが優勝者を告げる。

「優勝はセアズ選手! そして、審査員特別賞は……ダイア選手~!」


 なんとおれは、特別賞を貰ってしまったのだ。いや、これ宝野院さんが一枚噛んでるかも。そう思わずにはいられなかった。


「それではまず優勝者のセアズ選手。アストの街に一軒家を建てる権利かお好きなスキルブックを獲得できます。どちらになさいますか?」

「そうだね。じゃあ錬金のスキルブックを」

「分かりました! では審査員特別賞を獲得したダイア選手にはもう一つの報酬である、一軒家が与えられます!」


 え、家? どんなの貰えるのかな。


「そしてプレイヤーの皆さんに朗報! 露店ではなく、店が持ちたい。自分だけの宿泊施設が持ちたい! 色々あると思います。なんと! 正式サービスでは土地の所有権を買い、木材を集める事でアストの街に自分だけの家が建てられます!」


 あがる歓声。


「それではイベントの最後に、優勝者と審査員特別賞を獲得した両選手に、もう一度ダンスを踊っていただきましょう!」


 また歓声があがった。

 おれはセアズさんとコンビを組んでダンスを踊らされ、イベントは終わった。燃え尽きたよ……


 それでまあ、コロシアムから帰ってみればアストの街の何もなかった空間に、おれの家が出来ていた。本来町のあった土地に隣接していて、買い物にも都合がいい。コンビニまで歩いて五分といったところか。

 一パーティが入れるだけの広さを持っているし、セーフスフィアまで置いてあった。

 招いた人しか入れない仕様になっていたので、パーティメンバーを誘った。それぞれが自分の部屋を決め、試しに泊まってみたりした。

 宿屋と同じくHPMPが全回復する事を確認すると、ミナトが喜んでいた。MP回復のための宿屋代が節約できるということだ。

 ただ――もうすぐベータテストが終わる。結局レベル5にはなれなかった。

 ただ、素晴らしい仲間も出来たし、ベータテストではここまでしか行けないと決められていたサアトの町まで辿り着いた。ダンジョンだって何回、何十回と攻略している。そこまでやれるプレイヤーがどれだけいただろうか。

 そう考えると、このゲーム生活も充実したものだったな。正式サービスになったら絶対帰ってくるぞ。

 そしてベータテスト終了の日。皆と一時的なお別れをして再会を誓い、プレイヤー達は惜しみながらもベータテストが無事に終わった事を祝ったのだ。


 寂しいが、学園生活もあるからな……

 入学当日。おれは女子ものの制服を着て、自転車通学で水色がかった銀髪を揺らしながら月戸高校へ向かった。

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