野良パーティは当たり? ハズレ?
目的の草原へ着こうかという頃、セアズさんが問うてきた。
「そういえばダイアはどういう風にステータスを上げるのかは決めてるのかい?」
「TECですよ。<短剣使い>の技能的にも、教えてもらった銃の使い方的にも」
「ボクもTEC特化だ。この前のレベルアップで増えた割り振り用の能力値も全部TECに振った」
やべ。おれ能力の割り振り忘れてた。レベルアップそのものに喜びすぎて記憶から消えてたわ。
振っておこう。
そんな話をしていたら、ヒイロさんが話に入ってきた。
「セアズくんはもうレベルアップしてるのかい? 僕達も結構戦ったつもりなんだけどね。まだ先が見えない感じだよ」
「ボクだけじゃない。ダイアもレベル2さ」
「すごいな……コツとかあるのかい」
とにかく根気、としか言いようがないのが辛いところだ。コツがあるのならこちらが教えて欲しいくらい。
「ダンジョン周回、ですかね」
「ダンジョン!? 攻略したのか。それも周回してるだなんて、君達は相当のやりこみプレイヤーのようだね」
褒められちった。えへへ。
「私達も負けてられないわ。今日この草原を抜けてダンジョン攻略しましょう」
「どこに行こうとユウコは俺が守る」
今日の目的は石材集めなんだけどな。まあ、ついでで攻略するのは全然いいけど。ただし、このメンバーでいけるのかはまだ未知数だ。
「でも、攻撃魔法が使えないとダンジョンは厳しいですよ?」
「そうらしいね。でも一応、僕とユウコが使えるよ。本職ほどじゃないけどさ」
などと話していると、プレイヤーと交戦していない野良のハンタードッグ六匹を見かけた。数が多い、戦闘は避けるべきだ。とりあえずヒイロさんにそう伝えるか……
「【マジックシュート】!」
しかし、ヒイロさんが最初の一撃を加えていた。光線が一匹のハンタードッグに命中すると、怒って突撃してくるハンタードッグ達。ちなみに先制の攻撃魔法を当てた一匹も元気だ。
そして距離が近づいてきたところで、エージさんが人一人より背の高い盾を構えて前に出た。
「【ゾーンプレッシャー】」
盾から発生する広範囲に広がる半球状のバリアのような領域。そこに入ってきたハンタードッグは先程までとは違うのろのろとした動きで未だおれ達を襲おうとしてくる。
動きを遅くする空間のようだが、おれ達味方には効果を発揮しないようだ。軽く身体を動かしてみるが、普段通り動く。
そんな確認をしている間に、ヒイロさんはスローモーな敵陣に向かって駆け出していた。
長めの刀身の剣を両手で持ったその勇者は動きの遅い敵を何度も切り裂いていく。
エージさんが前へと進むと、それに合わせて半球状のバリアも動いているようだ。
おれも負けていられない。ハンタードッグにワイヤーを仕掛けると、一気に距離を詰めて首を刺した。
後衛のヒーラー、ユウコさんは大丈夫だ。なぜならセアズさんが上空から戦況を把握している。増援からのバックアタックが来ればすぐに知らせてくれるだろう。
四匹ほど片付けて、残り二匹というところで、エージさんの貼ったバリアが消える。
速度の元に戻った一匹はおれに。もう一匹はエージさんに向かっていった。
おれはその一匹を片付けるとエージさんの方へと近づいていく。彼は巨大な盾で時間を稼ぎながら、メイスでハンタードッグで殴りつけているが、ダメージになっている感じではない。
「【ゾーンプレッシャー】」
今一度速度低下のバリアが貼られる。そうすればあとはおれが近づいて倒すだけだ。
戦闘終了。
先へ進みながら、先程の戦いを振り返る。
「普段からあんな大人数を相手にしてるんですか?」
「そうだね。敵の多い少ないは関係なく挑んでるよ。僕が何体いても倒すだけさ。冒険ってそんなもんじゃないかい?」
「……違うと思いますけど」
その反応が気にくわなかったのはヒーロさんではなく、ユウコさんだった。
「なに? ヒーロの言う事が間違ってるとでも言うの?」
「やめてくれユウコ。せっかくのパーティなんだ。君がそうだとまた……」
「そうよね! 不人気職の巫女のせいでパーティ解散させられちゃうわよね!」
ぷりぷりと怒る彼女のストレスも理解できないわけではない。なぜなら……
「魔法防御に特化した回復役! だっていうのに魔法を使ってくる敵がいないんだもの! これじゃお荷物よ!」
そう、序盤だから魔法を使ってくる相手がいないのだ。これじゃ自分が活躍してるという気持ちを味わい辛い。勿論ヒーラーとしての役割があるからまったく仕事が無い訳じゃないのだが、安定しているパーティでは、回復する事も少なく暇なものである。
マリーさんのようにドロップ特化にして、その恩恵を預かると覚悟を決めてる置物ヒーラーでもないと、退屈さが勝るのかもしれない。
と、エージさんがおれに顔を寄せた。
「俺がわざと攻撃を食らってやれればいいんだが、ゾーンプレッシャーは一撃でも攻撃を食らうと解除されてしまうんだ。だからそういう訳にもいかない。かといってヒイロにはその辺の気遣いが足りないんだ。ああ、だからと言って君に攻撃をわざと食らって欲しいとは言わない。身内のヒステリーに付き合わせるわけにはいかないからな」
この人も苦労してるようだ。
「ドロップはどうでしたか? こちらは一回の戦闘で石材が二個。毎回この調子だといいですよね」
話を切り替えるように、セアズさんは笑顔で話す。
「そうだね。僕も二個個手に入れてる」
「俺は一つ」
「……三個」
で、おれも一個手に入れていた事を話すと、やはりスライムを倒すよりも効率がいいという結論に至り、場の空気が少し明るくなった。
「いやあ、これもユウコさんの<神の祝福>あってのものです。次もよろしくお願いしますね」
「そ、そう? でも私いるだけじゃない……」
「そこにいるだけで価値がある。いい女って感じしません?」
「……♪」
セアズさんはあっという間にユウコさんの機嫌を直してしまった。女慣れしてるぞこの女。
それでまあ、おれも変にヒイロさんと話してまた変な地雷を踏むのも嫌なので話すのを諦める事にした。
所詮は野良パーティだ。変に要望をつけるのも難しいだろう。彼は本当に勇者さまなのだろう、という皮肉を心の中に留めながら。おれ達は歩き続ける。
まあ、案外石材集めにはいいのかもしれないな。ちゃんと倒せてるなら文句付けるのも違うか。
世の中には色んな人がいて当然。お互い妥協と寛容さで受け入れていけるのならそれに越したことは無い。
ぶっちゃけ元男の幼女とか変わった人の筆頭というか、受け入れて貰わないといけない側の立場だしな、おれ。
変な人って意味の変わった人でもあるが、本当にチェンジしたって意味でも変わった人だな。なんてくだらない事を思いつつ。
その後もハンタードッグを見かけるとヒイロさんは先制攻撃を仕掛けていった。酷い時には戦闘の余韻も残っているすぐ後にハンタードッグの群れに攻撃を仕掛けていく。
その度におれとエージさんは狙われ、対処していく。後衛に攻撃が行かないように注意しながら。
なんにしろ、おかげさまで石材は三十二個。なんだかんだで力押しでなんとかしてダンジョンまで辿り着いた。
ヒイロさん達はセーフスフィアを解放すると、ダンジョンへと入っていく。そして始まりの小部屋の銀行でおれ達は石材とハンタードッグのドロップ品を預けた。ちなみにレアドロップは肉球だ。何に使うんだよ。
で、何かを引き出しているセアズさんが気になって話しかけてみると弾丸を預けておいているらしい。いつでもインベントリの一つを弾丸で埋めておきたいそうだ。
ダイコウモリを相手にするために、おれも持っておかないとな。
で、俺が三つの道を先行して確認させてもらったところ、ゴーレム一体。ダイコウモリ四体のマップに向かう事になった。
そして意外な事にダイコウモリに苦戦する事は無かったのだ。
なぜならユウコさんが範囲攻撃の魔法を覚えていたから。
「【セイントストーム】!」
光の嵐が蝙蝠達を襲う。彼女は上機嫌で活躍できた事を喜んでいる。戦闘中に。
「私INT低いのに倒せちゃうのね! こいつらよわよわだわ!」
エージさんがブレイカーの固有能力で防御力を下げたゴーレムに、しかしヒイロさんの斬撃は深く入らない。
攻撃手段を魔法に切り替えて、六発ほど叩きこんでなんとか倒した。
そうしてドロップしたアイテムは石材二個と。
「……良質な石材!?」
ゴーレムの材質は岩。だからいい石が手に入ったのだろう。
これはダンジョン周回したいな。
魔法使えるのが二人いるならこのメンバーでもいけるか?
ダンジョンの奥、巨大盾持ちゴーレム戦。
ゴーレムには魔法じゃないと効果が薄いと理解したヒイロさんは光線を放つ事に集中していた。INTが低い、そう話していたユウコさんも範囲攻撃魔法を巨大ゴーレムに放つ。
しかし、ミナトさんが放つ魔法のように相手をノックバックさせたりは出来ない。相手の移動を阻害できない状況で、元々動きの遅い巨大ゴーレムの動きを遅めてもほぼ意味も無し。
エージさんはタンクの役割を果たしきれず、ゴーレムに握り潰されてしまった。一度はセアズさんの【貫通弾】に助けられるものの、二度握られてはどうしようもない。回復するはずのユウコさんはごきげんで攻撃魔法を使い続けている。
続いて魔法攻撃でヘイトを溜めすぎたヒイロさんがゴーレムに殴られて落ちた。
おれはエージさんに【応急処置】を使って戦闘不能から復帰させるも、ヘイトの高い我々は狙われ続け、またエージさんは倒されてしまう。
そんな事をやってる間にもう一人の攻撃魔法を放つヒーラーのユウコさんもヘイトを高めたせいで踏みつぶされてしまった。
おれは今度はヒイロさんに【応急処置】を使おうとして、大きな隙を晒して殺された。
最後にセアズさん。他に囮になる味方もいなくて、彼女は空を飛ぶ限界に来たので一度着地したところを狙われてやられてしまった。
こうして全滅したおれ達はダンジョンの外に放り出されてしまったのだ。
よって、ドロップした良質な石材もぱぁである。
「惜しかったな。もう一回挑戦だ」
何を話し合うでもなく、再び挑もうという彼に賛成するユウコさん。するとエージさんも無言で頷いた。あの無言には無謀だろ、という意味が込めらている気もした。
だからおれが作戦を考えよう、と言うと。
「ヒイロがなんとかしてくれるから。私はヒイロを信頼してる」
その一言で気を良くしたヒイロさんは任せてくれと大きく頷き、エージさんはユウコがそういうならば、と同意を示した。
そうして何の成果も得られない無謀な挑戦が続き、時間ばかりが過ぎていく。
野良に多くは期待してなかったとはいえ、これは……
アイテムは手に入らないが、経験値は入るから。そう自分を納得させた。
救いの手が差し伸べられたのは夜になった頃だった。
『よっ、仕事終わったんだけど今そっち他のやつとやってる? マリーも帰ってきたよ』
ランサーさんからだった。
おれはすぐさまチャットを返した。
『すぐそっちいきます』
セアズさんと共に、この一言を野良パーティの面子にぶつけた。
「フレンドに呼ばれたので抜けますね」
さよなら勇者さま。




