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野良パーティといっしょ

 翌日、イベント開始の三十分前にビスケット状の栄養補助食品とスポーツドリンク口にしてログイン。フレンド欄を見てみるとログインしてるのはセアズさんだけ。

 おれはセアズさんにチャットを送った。


『イベント一緒にやれますか?』

『ああ、勿論だ。アストの町の職人通りへ来てくれ』


 言われるがままに集合場所へ行くと、そこには人だかりが。

 中心にはセアズさんがいた。金床に装備を乗せては叩き、渡しを繰り返していた。こちらに気付くと、手を振ってくれた。


「ファンサービスの一環でね。こうやって視聴者の装備を無料で修復してるのさ」


 そういう彼女の頭には相変わらずの配信マークが付いている。


「何時からやってるんですか?」

「この世界に来たのはいつからかって意味なら五時。そこから視聴者との触れ合いを始めたのは六時だよ」

「そんな早くから……」


 セアズさんは首を横に振った。


「生産職は元手さえあればいくらでも稼げるからね。渡来人の個人ショップで素材を漁って装備を作って売る。これだけでいくらでも楽しめるよ」

「そうなんですか。というかなんでセアズさんってプレイヤーの事渡来人って呼ぶんです?」

「ほら、ボク公式配信者だから。あんまりゲームをゲームっぽく感じさせるワードを使うよりは世界観に入り込んでる言い方した方がいいなって」


 視聴者サービスだとか、ちょっとした言葉の使い方とか。配信者も大変なんだなあ。


「よし、それじゃ皆お疲れ様! ボクは彼女とデートだからまたね! 続きは配信で!」


 おつー、とか絶対見るからねー。とかそんな言葉を発して解散していくファンの方々。統制が取れてるなあ。


「というかファンの人、女の人の方が割合多くないですか?」

「嬉しい事だね、ボクかわいい女の子好きだから。ボクのために渡来人としての姿は女性にしている人もいるくらいさ」


 キャラメイクを女にしたのか。自分から別の性別になろうなんて考えはよく分からないな。気付けば女になってた身としてはさ。


「でも……その、セアズさんレズなのに女の人は嫌がらないんですか?」

「そうでもない。珍獣を見る目なのかもね? 冗談さ。実際、ファンとリアルに交流したりもするけど嫌がられないよ」

「え、そういうのって大丈夫なんですか」


 なんかこう、トラブルとか起きそうなものだけど。


「問題ないよ。なんなら個人的に会ってるファンの子だっている」

「いやいや。問題発言では?」

「それがそうならないから、うちのリスナーはしっかり教育されている。どう? ダイアも実際に会ってみるかい? 優しくするよ?」


 優しく何をするつもりだ。


「遠慮しときます」

「それは残念。……さて、それじゃどうする。ボクら二人だけでイベントに挑むか、野良のメンバーを募集するか」


 これは悩むところではない。選択肢は一択。


「野良募集しましょう。というか、さっきの人達からヒーラーというか<神の祝福>持ちの人とかスカウトしてもよかったんですけど」

「ボクが個人的に好きな人と組むのはいいんだけど、ファンとばっかり交流するのはこの世界を覗く役目を持ったボクとしては推奨されないんだよね」


 ああ、色んな人と交流というか様々なプレイヤーの様子を見せるのも配信者の仕事なのか。身内ネタみたいなのばっかりじゃ駄目と。というか個人的に好きな人っておれか。照れるな。


「じゃあ酒場に行きましょう。あそこで野良メンバーを募集できるはずですから」

「そうだね。募集要項としては三人募集、当方ガンナーと回避タンクのコンビ。配信中につき注意ってところかな」


 そしてセアズさんが言った通りの内容を募集内容として貼り付けて待つ事十分ほど。といってもただこちらも待っていた訳じゃない。たくさんある募集内容の中から条件に合うものが無いか探していた。ほとんどが<神の祝福>持ちを歓迎する内容だった。


 おれ達は一つの席に座ると、募集を見て来てくれたメンバーと顔を合わせた。


「よろしく。僕はヒイロ。勇者だ」


 彼が痛いやつってわけじゃない。勇者とは職業タイプの一つヒーローの事である。性能が高い代わりに一つのパーティに一人しか入れられないという制約が課せられている。


「……エージ。ブレイカーのシングル」


 全身鎧を着た男だ。重装備からも分かる通り、タンク職。


「ユウコよ。よろしくね。ジョブは巫女」


 そして彼女が<神の祝福>の技能を持った待望のヒーラー職だ。彼女に対する期待は大きい。なんならLUC特化であるといいんだが……

 それはともかく、挨拶されているんだから挨拶を返さねばなるまい。


「ダイアです。レンジャー/戦士の回避タンクやってます」

「セアズ。鍛冶師のシングルさ。配信やってるからあんまり迂闊な事言わないで欲しいな。個人情報とか」

「ええ、分かってます。いいですよね、配信。僕、配信に映るってやってみたかったんだ」


 にこにこと笑っているヒイロという男。爽やかな様子を見せていた。ちょっとミーハーかな?


「パーティを決めた一番大きな理由は配信中だったから、だからな。まったくヒイロには困ったものだ」

「そうよね。ヒイロってばマイペースで困っちゃう」

「いいじゃないか。おかげでこんな可愛い子達に出会えたんだから」


 歯の浮くような台詞に、ユウコさんが頭をぺしっとはたいた。


「他の女にうつつを抜かすんじゃないわよ。あんたの彼女は私なんだからね」

「ああ、分かってる。君が一番だよ」


 そんなやり取りをみて、溜息を吐くエージさん。もしかしていつもこんな調子なのか。


 と、どこからともなく聞こえてくる鐘の音。そして大声。


「町の拡張工事に使う石材が魔物に奪われた! みんなで協力して取り返してくれ!」


 時間を見れば七時。イベント開始の時間だ。


「行きますか」

「ああ」


 おれ達はパーティを組むと、町の外に向かった。

 で、どれを倒せばいいんだ? 魔物って言ったってスライムも居ればハンタードッグもいる。巨大猿もいるしゴーレムもいるしダイコウモリだっている。


「とりあえずスライムを倒してみよう」


 そう提案するヒイロさんだったが、考える事はみんな一緒だったようで町付近のリポップ地点は全て占領されていた。

 町から離れたところでやっと、スライムに出会えた。

 二匹いたそれらはおれの短剣とヒイロさんの両手剣で即座にドロップ品へと変わった。落としたのはスライムの粘液。


「はずれか」

「もう一回試してみましょうよ」

「一回では断言できない」


 というと事で追加で三回試して石材が一個。よし、確かにドロップする。しかしこれは……


「あんまり効率が良くない?」

「僕も同じことを考えていた。もしかして、強い敵ほどたくさんの石材を落とすんじゃないだろうか」


 そんなところだろう。そうすると、ここから行けるのは巨大猿のところか、ハンタードッグの群れ、そこを超えて犬守の迷宮……


「じゃあ、どこ行きます?」

「そうだな、じゃあ試しにダンジョンの方へ向かってみよう。ダンジョン前にあるらしいセーフスフィアを解放できればラッキーだ」


 その言い方からして、まだ彼らはダンジョンに到達した事は無いらしい。おれ達はセカの町までゆったり歩いていく事にした。ここからならその方が近い。

 それでまあ、ゆっくりだっていうのも理由があって、重装備しているエージさんは歩くのがちょっと遅い。まあ気になるほどじゃないんだけど、イベントで気が逸っている身としてはなんとももどかしい。

 なんにしろ、そうなると雑談くらいしかする事もないわけで。


「それにしてもダイアくんだっけ? キャラメイク凄いよな。とってもかわいいよ」

「ヒイロ! またそんな事言って! こんないたいけな女の子まで粉かけようっていうの!?」


 ユウコさんがキレるキレる。独占欲なのかね。


「いやおれキャラメイクしてないんで。すぐプレイしたくて、キャラメイクすっ飛ばしちゃいました」

「リアルの容姿がそれ!? すごいなあ。男の子にモテるだろう」

「いや、おれ元々男なんで」


 そういうと事情を知らない三人は一斉に首を傾げた。息ぴったりだ。


「まあ、おれの事はいいじゃないですか。三人はどういう関係なんです?」


 それを聞くと、ヒイロさんはにこやかに笑う。


「昔からの幼馴染で、同じ大学に通ってる。腐れ縁ってやつさ」

「私とヒイロが付き合い始めたのは大学に入ってから。それまでは……」

「――俺とヒイロがユウコを狙って争っていた」


 エージさんがぽつりと呟く。つまり、三角関係だったのか。


「そして、俺はまだ諦めていない」

「エージ……」


 訂正。今も三角関係なのか。


「そうは言うけどね、私はもうヒイロって決めてるからいつまでもそうされても困るのよね」


 そう溜息を吐くユウコさんだが、エージさんは気にした様子もない。


「ヒイロが気に入らなければいつでも言ってくれ。俺がお前を貰う」

「はは……エージは手厳しいな。そうならないように、しっかり手を握っていないとな」

「そうしておけ」


 比喩ではなく、実際に手を繋ぎ始める二人を見ているエージさんの表情をなんと表現したものか。怒りよりは悲しみか。それとも本当は諦めていて二人を焚きつけるためにわざとそういう態度を取ってるんじゃないか。そんな考えさえよぎる。

 分かる事はただ一つ。


 ゲーム内にドロドロを持ち込むんじゃないよ! 昼ドラか!

 これで戦力にならなかったらパーティ解散だからな!

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