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TS? 関係ないねおれはゲームがしたいんだ

 朝起きたら少女になっていた。しかし、そんな事はどうでもいい。おれは今日に賭けているのだ。

 50の職業と50の種族から成る戦闘を重視したVRMMO、バトル・デュエル・オンライン。そのオープンベータテストに参加できる事になっている。

 まだテスト段階ということでレベル5までしか上げられないらしいが、構わない。ここでがっつりプレイして、正式サービス開始までに他のプレイヤーと差をつけてやる。

 時間が来るまでに栄養補給食品を口に入れ、時間が来たらヘッドセットを装着。コントローラーはいらない。脳波で操作できる最新式なのだ。

 そう、最新式。この操作方法に対応した初のVRMMOが今からプレイするゲーム。貯めていたお年玉でなんとかして買ったこの脳波PCヘッドセット。VRPC-ace(バトル・デュエル・オンラインのベータテスト抽選権付き)。

 実際に身体を動かしているのと同じ気分で現実以上のアクションを。という売り文句だったこのゲームにおれは宣伝段階で心を奪われていた。このゲームをプレイするのに必要な機材だからとはいえ、抽選権をヘッドセットPCにつけるとかいう阿漕な商売に乗ってしまうくらいには心を動かされていたのだ。

 時間だ。事前ダウンロードしてあるソフトを起動。ゲームを、開始する。

 身体データがスキャンされ、そこには一人の長髪ロリ美少女の姿が……誰だこれは。

 そうか、おれか。そういや女になったんだったな。問題無し。次。

 職業を決めてください、か。これに関しては事前情報を仕入れてるから大体決まっている。

 まず、このゲームにはヒーロー、タンク、アタッカー、シーカー、マジシャン、ヒーラー、クリエイター、サポーターの八タイプがあり五十職。それぞれのジョブでしか覚えられないスキルもある。


ヒーロー=勇者専用タイプ。全体的に高ステータスな上に他のジョブの好きな技能を一つだけ覚えられる。一つのパーティにヒーローは一人しか入れられない。

タンク=高い防御や速度によるタンク役。基本的には火力も出る。

アタッカー=物理による継続火力。

シーカー=罠の感知、解除ができる。

マジシャン=魔法による瞬間火力。

ヒーラー=回復役。状態異常耐性とアイテムドロップ率を二倍にする<神の祝福>を最初から習得している。

サポーター=補助役。パーティ内のキャラを自分のステータスの数値/2だけ強化する<パーティ人族強化><パーティ魔物強化>を習得している。

クリエイター=生産職。戦闘するならTEC依存の銃必須。弾代が必要なので生産で稼ぐ必要あり。新品のアイテムが売れた場合、売り上げが伸びる<商売上手>を習得している。


 こんな感じでそれぞれ役割が違う。さらに一人のキャラはここにジョブを一つだけ選ぶシングル、二つ選ぶダブル、三つ選ぶトリプルがある。

シングルジョブを選ぶとそれぞれ能力値に補正がかかる。

 ダブルだと一人の取れるスキルの幅が広がり、能力もそれぞれ高い方が選ばれるのがメリット。

 トリプルだとメインのジョブのパラメーターしか反映されないが、三つもの職からスキルを選ぶことが出来るようになる。

 俺がまず選んだのはシーカータイプの「レンジャー」。

 ここにさらにダブルにしてタンクタイプを追加してやる。選ぶのは「戦士」。

 これらのいいとこどりした数値が俺のまず基本パラメーターとして表示される。

 種族は人間を選択。このゲーム50もの種族があるあたりで分かるかもしれないが、グラフィックにはかなりのこだわりがある。それでも人間を選ぶ理由……それは初期スキルが3つ覚えられる上に<獲得経験値上昇>なんて技能まであるのだ。ダブルやトリプルのようなタイプは人間が多いかもしれないな。

 じゃあ他の種族は何が優れているかというと、能力値にかかる補正や固有技能だ。例えばエルフならINT、TEC、LUC+10に加えて初期スキル2つだし、アンドロイドならTEC+15に加えて初期スキル1つ+<状態異常無効>と<武器内蔵>を覚える事ができる。

 人間は好きなステータスを+10するのだ。ここはTECを強化するか。理由は後述する。

 という事で、ここまでくると次はスキル選択だ。魔法、必殺技、技能の総称がスキルとなる。これに関してはサクサクいこう。なぜなら取るものが決まっているからだ。まずは【ワイヤーアクション】。伸縮するワイヤーを取り出し、伸ばしたワイヤーの先に移動するというものだ。これが格好良くてこのゲーム楽しみにしてたくらいだ。続いてレンジャー限定の技能、<短剣使い>。短剣類装備時にTECの基礎値分、ATKを上昇させ、TECの基礎値/2、SPDを上昇する。TECをわざわざあげたのはこれが理由だ。

 そして最後にタンク職の汎用スキル。【ヘイトアクション】これは特大範囲内の敵の視線を自分に集中させ、ヘイトを高めるという盾役としての役割を果たすための技だ。

 つまりおれは回避盾としてのポジションに就こうという訳だな。

 む、待てよ。そういやおれはロリになったから回避には持ってこいなんじゃないか?

 さて。最後に属性だ。これを決める事で一つだけ状態異常を無効にし、特定の属性から受けるダメージを二倍。同属性ダメージを半減する。

 今回は束縛状態を無効にする風属性を選んだ。

 風属性になった事でTECが+5されてキャラメイク完成だ!

 ……ん? ああ、名前か。忘れてた。回避盾として硬くあるように、という思いを込めてダイアにしようかな。




ダイア

LV 1 職業・レンジャー/戦士 種族・人間 属性・風

HP 70/70

MP 20/20

SP 5

ATK:15

DEF:20

INT:5

RES:15

TEC:35

SPD:20

LUC:20

割振:5

<罠知識><ヘイトアップ><クリティカル無効><獲得経験値上昇><短剣使い>

【応急処置】【ワイヤーアクション】【ヘイトアクション】

所持金:2500


 という事でキャラメイクを終了しますか? と出たところでイエスを選択。すると視界が暗転し――俺は身体が勝手に船を降りていた。そして振り向くとそこには露出の多い女海賊みたいな女がこちらを見送っていた。


「頑張りなお嬢ちゃん。この国は面白いところだよ」


 誰がお嬢ちゃんだ。おれか。

 なんで女になったんだろうなあ。まあ、それは今考える事じゃない。今やるべき事はモンスターとバトルする事だ。

 おれは町並みをワイヤーアクションで猿のように飛び回ろうとして、SPが尽きた。ワイヤーアクションは一回に1のSPを消費する。ただしこのSP、戦闘開始時に回復するのだ。そして攻撃を当てるか、盾による防御に成功するかするとやはり回復する。ただしどれだけ溜めても戦闘開始時に初期値に戻る。おれの場合は5になるわけだ。

 それでまあもう一回ワイヤー引っ掛けられると思ってスカって顔面から地上に激突したところで気付いたのだ。

 痛いぞ? 本当に痛い! よく考えたらさっきから潮の匂いもする! 五感に訴えかけるこの感じ! やっぱすげえやVRPC-ace! 時代の進歩みたいなのを感じるね。最高。

 にやにやが抑えきれん。よっしゃさっさと町を出てモンスター倒すぞ。経験値経験値。

 道? 知らんけどあのでかい建物から離れれば外に出るだろう。あれね、コロシアムなんですよ。対人戦も楽しめちゃうんですよねー。ある程度強くなるまでは参加しようとは思わないけどね。自分がどれくらい動けるかも試さずに対人戦は相手にも悪い気がする。


 さて、そんなこんなで迷わず平原までやってきたわけだが、スライムがぴょこぴょこ跳ね回ってあちこちに存在している。それを倒すプレイヤー達冒険者。いいよいいよー。でもなんかスタート初日しては少ないな?

 でもねえ、事前情報をきちんと仕入れてる俺は知っているのだ。この辺の敵は生産職のキャラクターでも戦えるくらいに能力値が低く設定されている。

 まともな戦いを希望するならもっと遠出をすべきなのだ。幸いスライム達はノンアクティブ。スルーしてもっと遠くにいく分には何の障害にもならない。


 という事でやってきましたちょっと禍々しい紫色の空をした森。

 ここでならいい感じの戦いが出来るだろう。そう考えてふと視界を森の奥にやると……一匹の巨大な猿と目が合った。

 いいぜ、俺の最初の獲物はお前だ。千切りにしてやるよ。

 そう言って武器を構え……られなかった。

 何故ならば、武器なんて買ってないから。

 脳内トレーニングでは何回も武器を買いすぎて、もうとっくに買ってるものだと思ってしまっていた。よって、<短剣使い>の技能も発動しない俺の武器は。


「ATK15ぱーんち!」


 ものくそ短いリーチのろりろりぱんちだった。

 なんでこんなに腕が短いんだ。ロリだからだよ。なるほど。

 ん? なんで俺の腕がロリなんだ?

 そんな疑問に答えるかのような巨大猿のパンチ。顔面に一丁いただきました。クロスカウンターってやつだな。こっちは当たってないけど。

 一発で体力は半分削られた。身体の中心部に行けば行くほどダメージは上がる設定になっている。指先より腹の方が食らうダメージは大きいという訳だ。

 この辺はさらに詳しく言うと必殺技と通常攻撃と防御の三竦みがあってだね……うおっ、説明してる間にも殴り掛かってきやがってこの卑怯者が。

 だが気付いたぜ? お前の攻撃、避けられるよ。

 そうと分かればヒットアンドアウェイで殴り続けるだけだ。ちょっと締まらないが勝てない相手じゃない。

 とんとんと爪先でジャンプする。フットワークを利かせてるわけだ。

 なんかこう、ぴょんこぴょんこと音がしそうな可愛らしい様子だが、おれは真剣だ。

 なんで可愛いのか? ロリだから? なんで? ロリ?


「なんでおれ女になってるんだよ!?」


 集中力を切らしたそのツッコミに、再び答えてくれたのは巨大猿。顔面にもう一発パンチを食らわせてきて、おれは死に戻りした。



 溜息一つ。町の教会でリスポーンした俺には二つの選択肢がある。

 一つ、女になった事を母に伝えて病院に連れて行ってもらう。

 二つ、武器と防具を揃えてあの巨大猿にリベンジする。


 悩んでいる暇は無い。悩む理由なんて無かった。おれが取るべき選択肢は常識的に考えて一つしかない。

 おれは武器屋と防具屋に行ってダガーとバックラーを買って再び平原を走っていた。

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