表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Pinky Ring  作者: 紫花
2/16

下界編 SF.Panic 後編

※この話で出てくるオタクを分かりやすく描写する為に、小説としてあるまじき表現をしている箇所があります。演出の為ですのでご了承下さい。

残り三十分。

段々客足は減り、俺達は少し余裕が出来た。

蒼良はあれからずっとクラスに入り浸っており、今は窓側でぼんやり外を見ていた。


「中々人気あったな。全然来ないかと思ってた」


布巾でテーブルクロスを拭きながら、俺は紗良に話しかける。


「本当だね。結構商品とか売り切れ出たし♪」


客が残していった空の紙コップや紙皿を片付けながら、彼女は答える。


「けど、まだ来るかなあ、お客さん…」


紗良がそう呟いた時だった。


「あ、見てみてお義姉ちゃん、衛兄ちゃん!」


蒼良が突然声をあげた。俺達は窓に駆け寄り、蒼良が見つめる方向を見る。

たくさんの人が校舎に向かって来ていた。

なぜか皆、さっきのオタクと似た服装だった。


「…何なんだ、あの人数。異常だろ」


「皆、中に入って来るの…?」


「そうかも…」


その多さに圧倒されている時だった。


「ここか!」


なんと、オタク達が俺達のクラスに入って来てしまった。

残り少ない喫茶店の客達が逃げようとして逃げられず、おろおろしていた。

同じように慌てる俺等気にも留めず、オタク達は一直線に紗良と蒼良の元に駆け寄って来た。

そして、奴等は始めた。


「さ、桜ちゃん、桜ちゃんだ!」


「は、花火ちゃん、写真撮っても、良いかなあ?」


「こういうポーズ、してもらっても、いい?(*´Д`)ハァハァ」


写真撮影会を。


「あの、おじさん達、ボク達困るんだけど…」


「フヒヒwwwヤバスwwww」


「ちょwwwリアル花火ちゃんww」


「これなんてエロゲwwwww」


蒼良の嫌がる声はオタクに届かず、


「あの、お客様困ります…」


「み な ぎ っ て き た お(^ω^)」


「桜ちゃん可愛いよ桜ちゃん(´Д‘)ハァハァハァ」


「桜ちゃんテラカワユスwww」


紗良の困り果てた声はオタク達にかき消された。


(参ったな…二人には逃げてもらうか…)


「紗良!蒼良!」


俺は二人に声をかけた。瞬間一斉にオタク達が俺の方を向いた。

血走った目が全て俺を睨む。


「死ね。氏ねじゃなくて死ね」


「ちょwww空気嫁wwwww」


「自重(´A‘)」


「ふいんき(なぜか変換できない)ぶち壊しorz」


彼等に恐怖を覚えたが、怯んでもいられなかった。

撮影会を再開したオタク達の一人に、何故こうなったのか事情を聴く事にした。


「あの、何故俺達の学校に来たんですか?」


「…書き込みがあったんだよ。アルちゅんに…」


アルちゅん、訳してα(アルファ)ちゅーん。超大規模掲示板サイトで、毎日たくさんのスレッドが立ち書き込みがされる、知らない者はいない程有名なサイトだ。


「…桜ちゃんや花火ちゃんがいるって書き込みがあって、この学校のホームページのURLが貼ってあったんだ。…ここにいる奴皆、それ見たんだと思うよ」


彼は話し終わるとすぐ、また撮影に没頭した。

恐らくもう話は聞けないだろう。

彼女達の存在を知らせたのは、先程のオタクに違いない。

とりあえず二人を逃がし、このオタク達をどうにかしなければならなかった。

俺は無い知恵を絞って、ある案を出した。


「皆様!これから屋上にて彼女達が歌を披露します!」


その言葉に、オタク達と二人が俺を見た。


「まさか…」


まさかの意味が分からないが、適当に話を合わせておく。


「はい、そのまさかです!」


「うほっwwいい企画www」


「すごく…幸せです…」


「あのネ申曲『ごほうし天使サクラちゃんのうた』が、こんな所で聞けるとは…」


「なので、移動の為に道を開けて下さい!」


言われてすぐオタク達は紗良達の為に一本の道を作った。

固い笑いを浮かべながら、二人は走って教室を出た。


「用意の為に、十分程待ってから屋上へ来て下さい!」


俺もそう言い、彼女達の後を追った。

客は…他の人達がどうにかしてくれるだろう。




*  *  *




屋上に着いた瞬間、俺は先行していた紗良にまくし立てられる。


「ちょっと!!勝手に話進めないでよ!」


「ごめん。けどこうでもしなきゃ動けなかっただろ?」


「そうだけど…」


尻すぼみになった紗良の言葉の上に、蒼良の声が乗る。


「それより衛兄ちゃん、あと五分ぐらいでおじさん達来るけどどうするの?」


二人共、不安げな面持ちだ。

そんな二人に、俺は尋ねた。


「お前達はなんだったっけ?」


「…天使だよ?」


「だよな。だったら、俺達に出来ない事、お前等には出来るんじゃないのか?」


その言葉に、二人は目を開く。


「…!」


「そっか、じゃあ…!」


「それでな、こんな案があるんだが、どうだ?」


俺は二人に作戦を話す。

多分これで、奴等はどうにか出来るだろう。




*  *  *




五分後。

大勢のオタク達が屋上に登って来た。

装飾などは全くない、ごく普通にフェンスとコンクリートの床だけの、寂しい屋上に。

何だ、何も無いじゃないか。

あれは嘘だったのか、詐欺師め。

来て損した、帰ろう。

そんな声がした矢先、


「「皆さーん!!」」


天使の声が降って来た。

オタク達の見上げる先には、宙に浮いた二人の少女達。

蒼良はもちろん、紗良も天使の時の格好だった。

桜ちゃんの私服だ、そう言って一人のオタクがフィギュアを取り出す。

白いアームウォーマー、白いブーツに白タイツ、そして桃色のオーバースカート。

…いくら何でも似過ぎだろう。


「みんなー!今日はボク達の為に来てくれてありがとう!」


魔法で作りだしたマイクは、声を屋上のオタク達全員に届ける。


「最後まで、楽しんでね♪」


そして紗良は、後ろ手で描いていた魔法陣を完成させる。

聞こえないぐらい小さな声で、呪文を唱えた。

瞬間、桜色の光線が幾本も、屋上を囲むように飛んだ。

演出ヤバスwww

ktkr(キタコレ)wwwww

(´・ω;)ブワッ

と、オタク達も感動しているようだ。

だが、それきり何も(・・)起きない(・・・・)


「…よし、後数秒したら斬りに行くかな♪」


「さすが衛兄ちゃん、頭良いね☆」


「衛多くん、毎回テストの順位二十位以内なんだよ」


「…まあな」


俺の言葉で突然、紗良の目が据わった。

小さくパチッと指を鳴らすと、俺の姿が天使の目に映った。

俺は今、彼女達の魔法で宙に浮き、姿を隠していた。


「…何だよ」


「別に?頭の良い人は考えが違うなって思っただけですー」


そっぽを向いて、紗良は一方的に会話を終わらせた。

俺の考えた作戦はこうだ。

まず、普通にオタク達を屋上に入れる。

そして二人が本当に歌うように演技をする。

だがそこで、紗良の魔法が発動する。

その効果は幻覚。

ドームを作るように広がっていった光線は、その中にいる者全員に幻覚を見せるという魔法の光線だったのだ。

今頃オタク達は、蒼良と紗良が歌っているのを見聞きしている事だろう。

そして頃合いを見計らって、紗良の武器でオタク達を消す、というものだ。

ちらほらと、怪しげな踊りをし出す者まで出て来た頃。


「じゃ、そろそろ片付けるね♪」


「うん、よろしくねお義姉ちゃん☆」


空間に手を突っ込み、桜色の天使が取り出すのは銀の鎌。

その名は『ヴァルキリー』、北欧神話の女神の名。

その能力は対象の【強制送還】。

俺のように殺す訳ではなく、その能力を制御して、今回はオタク達を強制的に家に帰す。

紗良は体に纏わりつく羽衣を掌中に収め、


「行って来ます♪」


と屋上に降りて行った。

羽衣にはどうやら重力を無視する力があるらしく、こういった奇襲のようなものには向かない。

手に収めているので羽衣を纏っていない紗良は、重力に引かれてコンクリートに向かって行く。

そして、着地点にいるオタクの一人を、


頭から斬った。


綺麗に正中線を斬られたオタクは、一滴も血を流す事なく、鎌の刃が体を抜けたと同時に消えた。

きっと終着点は自室のパソコンの前だったりするのだろう。

刃がコンクリートを擦る前に、紗良はその場で一回転して体勢を正常に戻す。

羽衣をまた身に纏うと、彼女は笑みを浮かべ、自分を見ない男達に言い捨てた。


「それじゃあ、ばいばい♪」


周りにいるオタク達を回転して全て斬る。

鈴が笑い声のように鳴った。


「わあ、やっぱりお義姉ちゃんすごいや☆やり手だなーっ」


蒼良がにこにこと笑いながらそれを見つめる。

大きな動きで周囲のオタク達をバサバサと斬っていく少女。

その姿は天使と言うより、死神を思わせた。

こうして、この騒動は終わりを告げた。




*  *  *




後夜祭。

俺達のクラスは校内、一般公開共にそれなりの人気を博したが、調理部のクッキーに負け、惜しくも食品部門の賞『ミシュランで三ツ星で賞』を取り逃した。

だが、異装部門の賞『パリコレモデルも驚くで賞』を取った。

それにしても、受賞の要因である異装、つまりメイド服等がそんなに人気だったのか疑問だ。

あと、この賞の名前も何なんだと思う。


「面白いじゃん♪」


と紗良は言うが、それで果たして良いのだろうか。


「そろそろ花火、始まりますね」


俺の考えはその声で霧散する。

右隣には紗良、左隣には大人姿の蒼良がいる。

俺を含め、三人共各クラスでデザインが違うTシャツ、所謂クラスTシャツを着ている。

俺達のクラスは、黒地に白字で表に羽のワンポイント、メイドの横顔のシルエットと学年、俺達全員の名前が平仮名で書いてある。

そんな俺達は廊下で、後夜祭の最後を締めくくる花火を待っていた。

当然俺達だけでなく、たくさんの生徒や教師が同じようにそこにいた。


「まだかな。長いな…」


「そうだね…」


言った瞬間、小さな光が空を走った。

まるで星が、天に昇るように。

特有のあの音が尾を引きながら、光は空高く上がり、

一瞬の静寂、

轟音が耳の中を駆ける。


「始まったな…」


「はい…」


高揚した声がそこかしこであがる。

だが、それだけで満足しない者がいた。


「…衛多くん、ちょっと来て、お願い!」


「え?わっ」


紗良が突然、俺の手首を掴んで走った。

混雑した薄暗い廊下を、時折人に邪魔されながら、彼女の願いを叶える為。


「あれっ、おね…聖さん、堤君!?」


三出先生が俺達を呼ぶが、紗良は止まらない。

角を曲がり、階段を登る。「見返り」の為に。

花火の爆発音をBGMに、俺達が辿り着いた先は屋上。

施錠されていた為、魔法で開けた先には、誰もいなかった。

素早く髪飾りを外した紗良は天使になり、俺の手首を掴んだまま貯水タンクの上に乗る。

この学校で一番高い場所に、俺達は来たのだった。


「おい、紗「…もっと近くで見ない、花火?」


高速で魔法を発動、欺瞞の呪文を呟く。

俺の体は誰にも見えなくなった。

紗良は俺にかけたものと同じ魔法と、別の魔法を自分にかけ、自らの羽衣を俺にかけた。

体にかかる不可視の力が消えるのが分かる。

紗良は貯水タンクを蹴って、空に浮遊する。

羽衣をかけられた俺も、数瞬遅れてついて行く。

距離にして約二百メートル程、色とりどりの火花が夜空を飾る。

ヘリコプターに乗って見ても、これ程の迫力と華麗さは味わえないだろう。

だが、今俺は花火なんてどうでも良かった。

約十センチメートルの距離に、花があるのだから。

魔法のせいで顔は分からないが、きっと笑っていたと思う。


「…綺麗だ」


「…うん。綺麗だね」


俺の目は、見えない紗良を映していた。

落ちないようにと、いつの間にかその手は互いを繋いでいた。






SF.Panic fin.

秋以来の投稿、遅れてしまい、申し訳ありません。

続けて下界編、お楽しみくださいませ。


閲覧、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ