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Pinky Ring  作者: 紫花
11/16

Twincle Little Flower 4

日が高い。

眠れず、私は布団の暗闇を感じながら目を瞑っていた。

とても静かで、保健の先生はすぐ側にいる筈なのに誰もいないように思えた。


(今何時だろう…)


そう思いながら、寝返りを打とうとした時だった。

誰かに布団を剥ぎ取られた。


「!?」


眩しく、寒く感じた私の顔の横に、何かが落ちて来た。

それは腕。

だが自分の腕ではない。

この腕は…


「大丈夫か?石蕗 命生花」


全く心配の色が無い「大丈夫」。

そんな事を言うのは、一人しかいない。

天使、蓮・ミラーだ。


「先生ならいないよ。俺がここに入って来た時、出張だかで出て行ったよ」


蓮はまず、私の希望を消しに来た。

起き上がる事を許されず、ただ彼を睨む事しか出来ない私に、彼は笑みを落とした。


「今ここには誰もいない。クラスの方も俺を怪しまない。ちゃんとした理由があるしな。行ってもらうよ、神様の元へ」


その左手にはいつの間にか、昨夜突き付けられた白い銃があった。

私は震えながら、それを見る事しか出来なかった。

助けて。

助けて、誰か。


「…、や、いや…」


駄々っ子のように、私は首を振った。

知らず、涙が零れていた。


「やだ…やだよ。私は…私は生きたい、生きてたい…!」


瞬間。

蓮の表情が変わった。

優位に立った時の、あの醜い笑みは消え。

私は知らない、知った事が無い、強い悲哀が表れた。


「モカ…っ!」


「リカ」ではなく、「モカ」。

そう叫び、蓮は私を抱き締めた。

状況に付いていけず、私はただ唖然としたまま、抱かれるがままになっていた。


「モカ…モカ…」


「モカ」という誰かと私を勘違いしている蓮は、私の頭を撫で、腕の力を強める。


「大丈夫だから…お前は死なないから…」


「モカ」という人は、蓮にとってとても大切な人だったんだろう。

落ち着きを取り戻して来た頭でそう考える。

その時、空間を仕切るカーテンが開けられた。


「おーい石蕗、死んでる…か……?」


その声の主は、昴。

地獄に仏とも思ったが、最悪な状況だとも言えた。

どこからどう見ても、保健室での密会にしか見えないだろうから。

三人はしばらく固まっていた。

チャイムが鳴った時、ようやく私達は動く事が出来た。


「…す、昴!」


私はすぐに蓮の腕から逃れて、昴の背中の影に隠れる。

百八十近い彼の背中はとても頼もしく見えた。


「…また邪魔してくれたね、天道君。何というか…お前は本当、間の悪い…」


蓮は布団に乗せていた足を降ろし、昴と目を合わせる。

二人の身長差は三センチ程。目線は同じくらい。

蓮は、やはり笑って言う。


「俺達天使の邪魔をするな。次に邪魔すれば、神様からの罰がお前に下るから、覚えておくんだな」


蓮は私と昴の横を通り、保健室を去った。


「…なんか、邪魔、したか?」


「なんでそうなるのよ。…助かった。ありがと」


素っ気ねえなあと言いながら、彼も部屋から出ようとする。

だが、入口まで跡三歩の地点で、立ち止まって振り返る。


「…具合、平気か?」


「…あ、うん」


すっかり忘れていた。そのお陰で気分は元に戻ったようだ。


「よし。じゃあ教室まで行くか!」


名字の「天道」のように、明るい笑みを私に向けてから、彼は歩き出した。


「…だったら少しはゆっくり歩きなさい!」


急いで上履きを履いて、昨夜のように彼を追いかけ、保健室を後にする。

私はこの時、知らなかった。

全てを見ていた者が、私以外にいたのを…。




*  *  *




俺がミスをして、三日。

中々石蕗 命生花を送る事が出来ずに、俺と李佳は日々を無為に過ごした。

四日目の今日も、既に半日が過ぎている。


「ねえレン。早くしようよ。このままじゃ神様に叱られちゃうよ!!」


「ああ…」


焦るが、しかし未だに俺は動けない。


「…なに、やっぱりあの女に情でも「ちげーよ。…チャンスがないだけだ」


そう。チャンスがないのだ。多分。

そこにリカの声が飛ぶ。


「…私、見てたんだから。」


「…何をだ」


「三日前、レンがあの女を抱いてたのを」


あの日、俺は具合が悪いと嘘をつき、保健室へ行って石蕗 命生花を送ろうとした。

何か理由をつけて、李佳は俺の後を追ったのだろう。

魔法で姿を隠し、彼女は一部始終を見ていたのだろう。

取り乱した俺の姿を。

されるがままの、あの女を。


「…嫌だったなら、お前がどうにかすれば良かっただろ」


「…それが出来たら、そうしてたもん」


李佳は俯き、笑う。

それには諦めが混ざっていた。


「…レンは、ずっとずっと昔から百嘉姉が好きなんだから…、リカがそれに適うハズないもん」


寂しそうに李佳は言う。

そうでしょ?と念を押す彼女に、適当に答えて俺は思考を自らに向けた。

そして潜った、記憶の底へ。

五年前の、優しく哀しい思い出の中へと―…。



*  *  *




「おい、早く来いよ」


「遅いよ百嘉姉!」


「二人が、早いの…!」


当時十七歳だった、俺達。

唯の高校生だった俺―加賀見(かがみ) 蓮と、火尾(ほずえ) 李佳と、その姉、百嘉。

幼馴染みで、何をするにも俺達はいつも一緒だった。


「早くしないとバスに乗り遅れる百嘉姉。いっつもトロいんだから!!」


お喋りで言い方がいつもきついが、誰よりも他人を思いやれる李佳。


「ごめんなさい、忘れ物しちゃって、探してて…」


人一倍行動が遅く天然、しかし自分の事より他人を最優先に考える百嘉。

対照的なようで、とてもよく似た姉妹。

俺はそんな二人が好きだった。

だが、


「じゃあ、行きましょうか。…蓮」


「李佳も呼んでやれよ、百嘉」


「もう!早くしなさいよこのバカップル!」


俺は特に姉のほうが好きで。

付き合い始めて、まだ日は浅い。

けれど、互いの事はよく知っていて。

俺と百嘉は、幼馴染みの延長の、恋人同士であった。




*  *  *




その日は、バスに乗ってから、百嘉の様子がおかしかった。

しきりに目を動かし、何かを探すようにしていた。


「どうしたの、百嘉姉?」


「うん、…何か、いつもの嫌な予感が…」


百嘉は勘が鋭く、彼女がそういう時はいつも何か悪い事が起きた。

だがあまり、本当に悪い事が起きる事はなかった。

例えば、テストで赤点を取るとか、忘れてはいけないものを忘れてしまうとか、そういった「小さな」悪い事ばかりだった。

だから俺達は楽観視していた。バスが遅れて結果遅刻するだとか、そんな事しか考えていなかった。


「…李佳、私、バス降りたい…」


「そんな事言ったら完全に遅れちゃうじゃない!それでもいいの?」


「遅れても良い…バス降りたい…」


しかしその日の百嘉は具合も悪そうにしていた。

バスは、もうすぐ交差点に差し掛かろうとしていた。

早く学校に着かないか、満員のバスの中で、フロントガラスの方を向いて立っていた俺の目に、ある人が映る。

それはバスの運転手。強い疲労が顔に表れていた。

彼の目は、俺が見たちょうどその時、完全に閉じてしまった。


(やばい!!)


俺は運転手の方に向かって走ろうとする。

だが人が多過ぎて、中々前へ進めない。


「蓮!何やってんのよ!?」


李佳が俺に気付いて叫ぶ。

俺は前に進むのに必死で、それに答える事は出来なかった。

それに、言ったとしてもバス内は大パニックになっていただろう。

人をかき分けかき分け、ようやく俺は運転手の側に立った。


「運転手さん、運転手さん!」


彼の肩を揺さぶるが、全く彼は起きる気配を見せず。

相当の疲れがあったのだろうか。しかし同情する暇などない。

ここで今起きてもらわなければ、このバスの中の人は全員死ぬしかないのだから。

そこで声が上がった。


「おい!危ないぞ!」


乗客が外を見て異変に気付く。

しかし、何もかもがもう遅かった。

右隣を走る車が、どんどん近付いてきた。

否、バスがその車に近寄っていたのだ。

人々がこれからの恐怖に悲鳴を上げる。

早く起こさないと、そう思った時。


「あ…」


誰かの呆けた声。

目の前には、先の車の後ろにあったトラック。

轟音。

斜めにトラックとぶつかったバスは、トラックの速度に押され、大きくバランスを崩した。

そして、横に倒れた。

破砕音、悲鳴、衝撃、痛み、暗闇。

バスに乗った者は、全て同じものを聞き、感じ、何もかもを失った。




*  *  *




俺達は天使になった。

何も知らなかった俺達に、シン様やマリア様、そしてメシア様が色んな事を教えてくれた。

魔法の事、この白い世界の事、対をなす黒い世界『地獄』の事、使命の事、大天使の事。

数え上げたらキリが無い程、多くの事を教わった。

毎日使命をこなし、シン様達から褒められ、満ち足りた毎日。

けどそれは全て、百嘉がこの世界にもいてくれたからだ。

俺は、百嘉と共にいる為に、日々を過ごしていた。

天使として三年経ったその日も、俺と百嘉と李佳の三人である使命に取り組んだ。

多くの人を殺めているある武装集団への勧告、応じない場合は、排除。

彼等はその国の世界遺産になっている神殿に立て篭もっていた。

最初の方は簡単だった。銃を撃ってくる下っ端を適当に眠らせておけば済んだ。

だが交渉に入ろうとした時だった。


「なんなんだお前等は?どこからやって来た?」


「俺達は天使です。神様の命令により、勧告をしに来ました」


集団のリーダーらしい男は訝しげに俺達を見る。


「ガキと女がか?神サマってのは随分と俺達を軽く見てるなあ!」


下卑た声で、リーダーとその周りにいた部下は笑った。


「…神様の侮辱は許しません。話を聞いて下さい」


右斜め後ろにいる百嘉はそう言い、自室から『ドロシー』を取り出した。


「武器…!?」


「今、どこから取り出したんだ、あの女…!」


百嘉の行いに驚きを素直に表す男達。


「うるっさいなぁ。話ぐらい大人しく聞きなさいよ」


百嘉の左隣に立つ李佳も、自室から鞭を取り出す。

三つ又の、黒にも白にも輝く鞭『ライム』。

一振り、パシンと乾いた音を立てて威嚇した。

その音で場は鎮まる。

俺は李佳に胸中で感謝し、男に話しかけた。


「あなた方は、多くの何の罪もない人々を手に掛けました。それが世界のバランスを崩し始めているのです。なので今すぐあなた方の行いを止めて頂きたいのです」


「やめろって、言われてもなあ」


男は続ける。


「俺達は、何も好きで人を殺しちゃいねえ。国のお偉いさんが話を聞かねえからこうするって事で仕方ねえから殺すんだ」


確かに、彼等の目的は長らく続くある制度の廃止。

しっかりとした目当てがある。だが、


「…それで、貴方は何人殺しましたか?」


「知るかよ、そんな「三千百二十一万九千二百三十五人、です。」


百嘉は小さく、けれどはっきりと言う。


「たまに地獄へ行く人もいますけれど、殆どの人が今私達の世界にいます。皆、貴方達を恨んでいます。

…人数も分からない程人を殺めた貴方達は、反省の余地無しと見てとれます」


「リカもそう思うよ。…レン、決めて」


全ては俺に託され、


「ああ。…忠告には従わなかった。よって…御前達を、排除する」


俺の肩に、のしかかった。

お待たせいたしました。

年内投稿で「PR」は終わらせようかと思ったのですが、結局出来ませんでした…

とりあえず、最低でも三月までには「PR」も終わるかと。

それではもう少し、お付き合いくださいませ。

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