9話 謎に過保護
「レシア、薬とやらのせいで動けねえ。ポーションか回復魔法を頼む」
「あ、すみません! すぐに回復しますので」
レシアが解毒魔法を使う。
俺が動けなくなるほどの毒だ。解毒するにも結構な腕前が必要だが、さすがは腕のいい死霊術士。俺元々の毒体制の影響もあるんだろうが、専門外の解毒も上手くやって見せた。
おかげで動けるようになる。
「サンキュ、レシア。それと来てもらったとこ悪いけど、いったん戦ってるアンデットを止めてくれ」
「…………」
まだ俺を担いだアンデットを見ている。何、どうしたんだ。多分惚れてるとはいえ、いきなり上の名前で呼び捨てはアウトだったか。たしか不敬罪って言うんだっけな。
「あ、ゴメン。呼び捨てしちゃダメだめだった? 女王陛下って呼んだ方が良かったか」
「いえ、レシアと呼んでください」
目の前のアンデットを見たまま、俺に見向きもせずに返事した。
レシアがアンデットを見るその目線には、だんだんと殺意が込められているのが、明らかにわかる。
「このアンデットを、倒してください」
そう言っただけで、さっきまでシーナを囲んでいたアンデットが、急にあるアンデットへターゲットを変更する。
そしてそのあるアンデットとは、やっぱりさっき俺を乱暴に運んだ、大剣使いのガイコツだ。
そのアンデットは動揺するように後ずさったが、抵抗も逃げもしようとせず、他のアンデットによって一方的にボコされる。
「ちょちょちょ何やってんだよ!?」
「それはレイバーンさんを傷つけたんですよ? だから当然の仕打ちです」
「いやいやそこまですることないだろ!? 別にあんなのマジで痛くないぜ?」
普通の人はベットから転がり落ちたら、カーペットの上でも痛い。だがSランクの俺なら全く痛くない。一般人に例えれば、ベッドに軽くダイブする程度の衝撃しかない。
Sランクじゃなくても王女ならそれくらい予想できるだろうに。まさかこの王女、バカなのか?
まあそれはそれで都合がいいし、今は置いておこう。それよりシーナだ。
「シーナ、落ち着いたか」
「ああ、おかげさまでな」
シーナはさっきまでの興奮状態から一転して、無表情に戻った。また自殺でもしそうな雰囲気だ。警戒しなければ。
「俺は大して怒ってない。そしてお前の思いは大体伝わってる。お前はそういう性格を治したいんだろ?」
何も返事が無い。それに表情の変化も無い。だが気にせず続ける。
「今回は失敗しちまったし、多分また失敗するんだろう。けどその被害を受けるのは、恐らく全部俺だ。そしてその俺はお前が失敗したって、受け止めるつもりさ」
返事は無い。だがシーナの表情が少し和らいだ。何故か俺では無く、恐らく後ろにいるシーナを見ているのは気になるが。
「甘い事を言ってくれるじゃないか。だが、私はもうこの気持ちを抑える気なんて、一切ない。それに後ろの姫に許可は取ったのか?」
そうだ、まだレシアにシーナの過去を伝えてなかった。けど上手く説得出来るかなぁ。なんか怒ってるっぽいし。しかも殺気までこもってる。
ちなみに大剣使いのスケルトンは、骨がばらばらに散らかっていた。しかしどの骨にもヒビが入っている様子は無い。優秀な個体だったんだろうに、もったいない。骨が勝手に動いて、復活しそうな雰囲気はあるが。
「なあレシア、あの人はシーナって言うんだが、ちょっと複雑な過去があるんだ。内容はあとで話す。だから今はとりあえず、落ち着いてくれ。安心してくれ。もう油断はしねえから」
しかし、レシアはまだ怒ったままだ。
「あの暗殺者を、殺してください」
「待て、レシア! 事情があるんだ! 確かにあいつは何人も殺った。けどあいつはそれを避けように無かった!」
シーナはあのアンデットたちに襲われたって、そう簡単には死なない。だから先にレシアの説得を優先した。
そしてそのレシアは、俺の説得に、首を傾げながらこう返した。
「そんなことより、レイバーン様を傷つけたんですよ? ほら、手が震えてる」
そう言って強引に、俺の左手を両手で握る。俺の手は、確かに震えている。けどそんな事よりも、手を握る力がやけに強いのは気のせいだろうか。
「大丈夫だってば、こんなこと。だからさっさとあれを止めろって!」
モテ男の経験から、この王女が俺に惚れてるってのは薄々勘付いていた。そして惚れたからって、倫理観を狂わせる事は無い。で、もし人殺したことを、そんな事って言ってんのなら、こいつは…………。
「遠慮なんてしなくても良いんですよ? 死体さえあればあの程度、何体でも作れますから」
「遠慮してない。だからさっさと止めてろ。それでも止めないなら、あのアンデット全部ブッ倒すぜ?」
「なんで? あの暗殺者はレイバーン様を何度も苦しめたというのに」
「そしてレイバーン様のご厚意も無下にした。更にあろうことか薬で動けなくして、誘拐しようとして! ……だから彼女には罰を受けてもらわなければなりません。」
「被害受けたのは全部俺だ。だからお前には関係ないだろ」
ちょっとイラついてきた。そのせいで、つい言葉が強くなってしまう。




